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六話:昼食と『デザート』

 昼食は海産物と野菜のあっさりした風味のもので構成されていた。

 ファウンティアに居た頃は、魚介類を食べることはあまりなく、パトリシアは食文化の差を感じながら、その味を楽しんでいた。

 二人の王子も政務を終えて、昼食に現れると、朝のように二人の王子から甘い言葉を投げかけられての談話に花が咲いていた。


「パトリシア、エルムヴァニアの味はどうだ?」

「はい、味がさっぱりとしていて、とても好みです」

「それは良かった。夕食は酒も出るし、そのときはゆっくりと話しましょう」

 王子との親睦を深めるためにも、共に過ごす時間は欲しい。

 それはパトリシアも、ヘクトールも同じ気持ちのようだ。

 しかし、ヘクトールは分裂した今も政務に携わっているし、領地の管理状態に目を光らせている様子だった。

 エルムヴァニアの国土はそこまで広いわけでもないが、いかんせん港町ということで、厄介な事件が多発しやすい。

 密輸や、人身売買、海賊も現れるし、その対応にヘクトールは忙しそうにしている。


 パトリシアも、そんなエルムヴァニアのことをしっかりと分かっておきたいので、グレースの教育に一日の時間を費やすことになるだろう。

 そして、肝心な王子の呪いに関しても、パトリシアにはなんとかしないといけない問題だった。


「午前中は書庫に籠もっていたんだって?」

「はい。呪いのことを調べていました」

「それなら、わざわざ書庫で調べずとも、レナンジェスに聞きに行けば良いんじゃないか?」

「レナンジェス様ですか?」

「呪術対策の調査隊、その隊長です。呪いのことならレナンジェスの右に出る者は、この国にはいませんからね」


 グレースとの会話にも出てきた呪術調査隊の隊長らしい。

 昼食後に調査隊に顔を出してみることにしていたが、隊長と話せるのなら一番いいだろう。


「私、呪術や黒魔術に関する知識をまるで持っておりませんから、そんな状態で調査隊の方のお話を伺っても、きちんとお話を理解できるのか不安もありました」

「だから、先に書物で勉強したのか? パトリシアは健気だな」

「い、いえっ……そんな大層なものではありませんから……」


 ドキンと胸がはねた。

 人からこんな風に、行動を褒められたことがなかったパトリシアは、剣の王子の何気ない言葉を受け、頬に紅葉を散らせる。


「僕たちの呪いのことを、本当に考えてくれてるんですね……パトリシア」

「な、何もできないかもしれませんが……」

「パトリシア、その気持ちが……たまらない」

 盾の王子が、席から立ち上がり、パトリシアの後ろに立つと、パトリシアの肩に手を添え、優しく包んでくれた。


「おい、抜け駆けするんじゃねえよ」

 剣の王子は、盾の王子の行動に反応して、自分もパトリシアの側に寄ってくると、パトリシアの手を取り、大きな手で握った。


「なぁ、パトリシア。あんまりいじらしいことをするなよ……。我慢できなくなるからよ」

 ぎゅ、と強く逞しい手がパトリシアの細い指を抱きすくめるみたいに掴まえてくる。

 剣の王子の掌は、とても熱くて、彼の熱意がその手から発せられているような錯覚さえ感じ取れた。


「わ、私は……ヘクトール様の……妻となる女性として……当然のことを……」

 緊張で舌がきちんと回らない。恥ずかしさもあって、硬くなる口角を動かし、言い訳みたいにそんな言葉で受け答えた。

 すると、背後の盾の王子が、そぅっとパトリシアの右の耳元まで唇を寄せて、囁いた。

「好きです……」

「っ……」

 あふれ出る熱情が言葉になって、盾の王子の美しい唇から吹きかけられた。

 ビクンと肩をふるわせてしまうほどに、甘い刺激が走り抜けたみたいに思う。


「おいパトリシア、こっち、見ろよ」

 ぐい、と剣の王子が、パトリシアの手を握っている力を強め、自身の方へと引き寄せた。

 高圧的な言葉使いは、これまで人の言うとおりに動いていた生活に慣れたパトリシアには効果てきめんで、彼の言葉に従ってしまう。


「あ……」

 剣の王子の、凜としている眼差しに、彼の想いが重なっていた。少し怒っているような彼の表情は、淡い嫉妬が滲んでいた。

「可愛い顔しやがって……」

 恥じらいと、王子の嫉妬を感じて困ったような顔をしたパトリシアを見て、剣の王子は歯がゆそうに呟いた。

 掌の熱がどんどん高まっているように感じる。


「昼食後のデザートに……」

「食べちまいたくなる……」


 囁きと、呟きが、それぞれ、耳元と掌の傍で発せられた。

 そして、柔らかくも暖かい弾力が、それに触れてきた。


「ふぅっ……!?」

 チュ。というどこか愛らしさある音がして、一瞬の接触がパトリシアの体温を上昇させた。


「このくらいは……してもいいだろ?」

「僕たち……、結構、我慢してるんですからね?」


 そういうと、二人の王子はパトリシアから離れ、赤らめた頬を、手の甲で隠すようにした。

 口元を遮り、思わず形作ってしまう恥じらいの笑顔を、パトリシアに見せないつもりだ。


(し、死んでしまう……)


 パトリシアは、こんなことが続いたら、自分の精神力が持たないと思った。

 恥ずかしすぎて、心地よくて、暖かくて、身体が勝手にもぞもぞしてしまうくすぐったさに襲われる。


(や、やっぱり、早く王子の呪いを解かなくちゃ――)


 パトリシアは、手の甲と、耳たぶに残る感触は一生忘れられないかもしれない。

 あんなに、熱くて、艶めかしいキスは、生まれて初めてだった――。

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