プロローグ:初夜
思いつきで書き始めました。
もしかしたら、途中で書くのやめるかもしれないです。
面白いと評判がいただければ続けます~。
「パトリシア、こちらを向け」
「こっちを向いてよ、パトリシア」
二人の声が、それぞれ右と左から聞こえてくる。
パトリシアはどちらも向けずに、ギチっと身を強ばらせ、真上の天蓋を凝視していた。
(これじゃ……眠れない……)
ベッドの上、心地よい布団のぬくもり、枕の柔らかさ、何を取っても極上の寝室だというのに、パトリシアは眠れそうになかった。
理由は、パトリシアを挟むようにしてベッドに横たわる二人の男性のせいだ。
エルムヴァニア王国にやってきた初夜。これから自分の夫となる、王子との夜――。
それがこの状況だ。
パトリシアは、この国の王子であるヘクトールと婚約を結びこの地へとやってきた。
ヘクトールとは今日、初めて会った。
眉目秀麗な男性であるヘクトールは、ブロンドを切りそろえた髪を輝かせ、湖に映る月のような妖しい瞳を持っていた。
「「パトリシア」」
両の耳元で、そっと名を囁く彼の声は、吐息混じりに掠れていて、耳たぶをくすぐる。
どちらも、寸分違わずに同じ声がして、パトリシアは困惑する頭を必死に落ち着かせようとしたが、パトリシアの右手に、ヘクトールの左手が重なった。
そして、パトリシアの左手にも、ヘクトールの左手が、握られる。
(~~~~っ)
大きな彼の手はパトリシアの指に絡まり、ぬくもりを与えてくる。
彼らの左手たちによって、両手をつながれ、パトリシアは胸の鼓動が早くなる。
(な、なんでこんなことに……)
パトリシアを挟み込むように、ベッドを共にする二人の男性――。
それは、紛れもないエルムヴァニア王国の王子、ヘクトールたちだった。
右の男性もヘクトール。左の男性もヘクトール。
同じ顔、同じ声、同じ手。
双子、なのではない。
ヘクトールは二人いる。
パトリシアの夫となる王子は、一人にして、二人。
二人の王子の熱に挟まれ、妃となるべく訪れたパトリシアは、二度、愛される――。