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のんびりした感じの小説

変速6

作者: オリンポス

昨日の夜に、自転車を漕ぎながら思いついた話です。

 僕は自転車を漕ぎ続けた。

 サドルから腰を浮かせて、足の裏に体重をかけて、右、左、右、左の順番で重さを均等に分けていく。


 ぽつぽつとともる電灯。流れる景色はいつも単調だ。


 おしゃれなパスタ屋さん、セブンイレブン、本屋さん、ファミリーマート、弁当屋さん、ローソン、そんな変わらない街並みを眺めると、ふと東京の景色を思い出す。東京は恐ろしい場所だった。いつもどこかしらに欠点を見付けては工事を開始している。むしろ工事をしない日はないというくらいにその街並みは微妙に変わり続けているのだ。ダーウィンの進化論でもわかる通り、生物は環境に適応できるように変わり続けてきた。それができたものだけが生き残っているが、東京という生物はこれから先も滅ぶことはないだろうなと思った。



 自転車を漕ぐ。

 太ももが熱を帯びてきた。

 爽快な風が身体を包み込むが、じわっと汗がまとわりつく。

 漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ。

 細いわき道から差し込む自動車のライトを見て、僕は飛び出し運転を予想して、弧を描くように軌道を修正した。すると案の定、一時不停止を決め込んだ車両が、軌道修正を図る前の僕の進路に鉄の頭を滑り込ませていた。


「危ねー!」そう安堵すると、どっと汗が噴き出した。


 それでも漕ぐ。漕ぎ続ける。

 周りからはよく生き急いでいると言われる。

 その通りだと自分でも思う。

 でも、「そうなんだよ、生き急いでいるんだよ、早く死んでもいいようにさ」と言うと、決まって周囲の人間は僕を自殺志願者だと勘違いして説教を始めるから、もう何も言わない。


 漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ。

 このまま風と同化して気持ちよくなりたい。

 だから、漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ。

 道路が傾斜になってきた。上り坂だ。

 もう太ももがきつい。限界だ。


 僕はギアの変速を落とした。

 すると変速6で走った時よりもスピードが出た。

 漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ。

 僕の人生はおおむね変速6だ。変速6で走り続ける。


 でも、たまにはギアを落として景色を楽しむのもいいかもしれない。

 漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ。

 微妙な変化に気付けたら、そう思って、ペダルを回し続けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 速いのにゆっくりな雰囲気の小説。 たしかに自転車でスピードを出している人は危なっかしく見えます笑。 おそらく、この後も何もなく進んでいくんだろうなといった安心感のある小説です。 自転車に乗…
[良い点] のんびりした中にも爽快感があって良かったです! [一言] 自転車を漕ぐのが好きな人には分かります。これを読むと、限界まで速くペダルを回して、心拍数が上がると胸がすぅっと気持ちよくなる感覚が…
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