マスルール王国
マスルール王国は神王大陸、北東部に位置するバルクスト王国にも負けず劣らずの巨大な王国である。
マスルール王国の特徴は冒険者が多いことである。
その理由は3つほどある。
1つ目は、初代国王が元冒険者であったという事だ。
この国では、次期国王になるためには冒険者になり、A級冒険者にならなければならない。なので、王族の武力はとても高い。
バルクスト王国が『知』だとするのならば、
マスルール王国は『力』だろう。
2つ目は、迷宮である。この国には無数の迷宮が存在する。その中でも有名なのが、《世界樹の迷宮》だ。
世界樹の迷宮とは、とても巨大な樹木であり、とても巨大な迷宮でもある。
世界樹は、全世界に根を張り、迷宮を踏破した者は地上に露出した根に名が刻まれている。しかし、攻略は全世界の迷宮でも、1位2位を争うほどのものだ。なので、攻略をしたものはまだ、六人だけである。
3つ目は、冒険者の自由度の高さである。国王が冒険者ということもあるのだが、兎に角、冒険者にとってデメリットが少ないのだ。もちろん、犯罪を犯した場合はそれなりの罰則がある。だが、メリットの方が大きい。国からの依頼も他の国よりも多く、報酬は高い。また、大小様々な大会が年中行われているため、冒険者の腕試しにはもってこいな国なのである。
冒険者が多く国に出入りするため、経済の流通が盛んになり、国は栄えている。名付けるのならば、冒険者経済とでもいうようなものである。
マスルール王国はバルクスト王国と面しており、領土拡大のため長年戦争を続けてきた。だが、5年前、北方山脈に竜が現れ大地が割れ、その国境には渓谷が出来た。底には北方山脈から川が流れていて、軍の進軍はほぼ不可能になってしまった。この出来事により、今は休戦状態になっている。
***
ーバルクスト王国、マスルール王国 国境付近
目の前には、大きな渓谷があり対岸へと橋がかかっている。
ザンとは、朝のうちに別れ、この、マスルール王国との国境まで一人で来た。ザンから渡された身分証明書を見せれば直ぐに通れるそうだ。
橋はとても頑丈に作られている。対岸には関所があり門番が通行人の身分を確認している。
ザンから聞いたところによると、5年前までバルクスト王国とマスルール王国は戦争をしていたそうだが、今では何事も無かったのかのように通行人が出入りしている。
「マスルール王国に入国する方は手前の受付で手続きをしてください!」
案内に従い、受け付けまで行く。
「マスルール王国に入国する方ですか?」
「はい」
「では、身分証明書を出してください」
ポケットに入れていた、小さなカードを取り出す。
地球のもので表すと、お店のポイントカードみたいな大きさだ。
「はいっ!ありがとうございました。次にこの水晶に触れてください」
差し出されたのは、魔法を教わった時にでてきた水晶に似ているものだ。だけど、あれよりは、少し青みがかっている。
「この水晶は何なんですか?」
「こちらの水晶に手を触れていただくだけで、犯罪歴があるかどうかがわかります。では、水晶に触れてください」
「分かりました」
水晶に触る。
けれど、なんの変化もなかった。
「特に異常はありません。入国を許可します。良い旅を」
さて、どこに行こう。ザンからは、関所からナシュ村までの距離しか聞いてこなかった。ここからナシュ村までは馬車で約4日かかるらしい。
リーズは、必ずナシュ村の魔女に会えと言っていたから、馬車を見つけて連れて行ってもらおう。
「君!どうかしたのかい?」
突然、後ろから声をかけられ振り向くと、そこには40代くらいのおじさんが立っていた。
「びっくりさせてしまって悪かったね。私はここの案内役をしているものだよ。君が困った顔をしていたもんで、声をかけさせてもらったよ。何か困りごとかい?」
「馬車乗り場を探していまして…」
「馬車乗り場はあっちだよ」
指をさしている方向に馬車が多く停まっている場所があった。
「ありがとうございます」
「いえいえ。困った時はお互い様だよ」
おかげで助かった。あのままだったら馬車に乗り遅れてしまったところだろう。
***
馬車乗り場は混雑していた。この関所は仮設住宅みたいな村だ。ここに泊まるよりは、さっさとほかの街に行った方がいいのだろう。
ナシュ村はここから、もっと北上した場所にあるらしい。辺境とまでは行かないが、かなり田舎らしい。
馬車もそこまでは行かないのか、ナシュ村行きの馬車はない。ナシュ村の1つ手前の街までなら馬車があるようなので乗させてもらう。
乗合所の馬車は初めてだが簡単に手続きをすることができ、あと、1時間後に乗ることが出来る。
ここの露店にはいろんなものが売られているらしい。
これと言って買うものはないが見てみようと思う。魔法鞄にも、いろいろ入っているがどうしても心もとない。この、魔法鞄は優秀なようで時間停止の機能がついているらしいので、食料も腐らない。多めに買っておこう。
露店はとても賑やかだ。日本にいたときは市場に行ったことがないので、この雰囲気はとても新鮮だ。
果物に野菜、串焼き肉など食べ物が多く売られている。そのほかにも、剣などを売っている武具店もある。
ある百貨店みたいな露店には、緑色の液体が入っている小瓶が売られている。
「、、ポーション?」
「そうだよ。ポーションさ。買っていくかい?」
店員に進められて、値札を見てみる。
ーHP回復ポーション 3ゴールド
高い。高すぎる。こんなものなのだろうか。日本円で300万円だ。ポーションを買う人はさぞかしお金持ちなのだろう。
「これ一本でどのくらい回復するんですか?」
「大体、100ぐらいだな。使いすぎると効き目がなくなってくるらしいけどな」
値段はたかすぎるが全回復できる。ただ、使い続けると効果がなくなっていくらしいので、今使うのは得策ではない。
なにより、値段が高すぎる。リーズから10ゴールドもらったが、ポーションを買うために使うわけにはいかない。
「また今度、買おうと思います」
露店から逃げるように去る。
時間もちょうどいいので、馬車乗り場のほうに行く。
ナシュ村の一つ手前の街までは、約四日ほどかかるらしい。値段は50シルバー。
この世界の人にとって、移動手段といえばほとんどが徒歩だ。馬車に乗る機会などないのだろう。なぜなら、馬車は結構お金がかかるからだ。
今回の馬車は奮発したので、だいぶ快適らしい。普通の馬車では、20シルバーほどらしい。俺が乗る馬車の値段と比べたらだいぶ安いが、それでも日本円で20万円である。
この世界の人の移動手段が徒歩なのもうなずける。俺は、だいぶ楽をさせてもらっているようだ。