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作戦

 ピチャ、ピチャ、ピチャ…。


 不規則に落ちる雫の音で目が覚める。

 泣いたまま寝てしまったようだ。地下牢なので今が昼なのか夜なのかも分からない。相変わらずひんやりとしていて肌寒い。鉄格子から外を覗いてみる。薄暗くよく見えないが、見張りの衛兵以外は何もいない。


 コツ、コツ、コツ…。


 誰かが歩いてくる音が聞こえる。


「まあっ!無様な姿ね!魔人族の坊や!」


 現れたのは、メリアである。


「おいっ!なんであんなこと言ったんだよ!」


 この状況を作り出したメリアを見て、つい怒鳴ってしまう。

 メリアは少し間を開けてから口を開いた。


「そうね。あなたはもうすぐ死ぬのだし言っても構わないわね。あなたが異世界から召喚された人だってのはもちろん知ってるわ。魔人族じゃないことも」

「じゃあ、なんで!」

「勇者たちには見せしめが必要なのよ。さっさと強くなってもらわなきゃね。あの御方が復活できないのよ」

「あの御方?……お前、もしかして、魔人族なのか?」

「あんな低能種族と一緒にしないでちょうだい。吐き気がするわ!」


 俺の問いかけに対し、メリアは血相を変えて言い放った。


「兎に角、お前には見せしめとして死んでもらうのよ。そうすれば、勇者たちは低能だと殺されてしまうという恐怖に支配され、より一層強くなる。そこをガブッと食い殺してやるのよ!あぁ、楽しみだわ!」

「おいっ!何言ってんだよ!おまえ!」


 クラスメイトを殺すという宣言をされ、黙ってはいられない。

 俺は鉄格子から手を出しメリアの胸ぐらを掴む。


「きゃー!衛兵の皆様、お助け下さい!魔人族が襲ってきました!」

「おいっ!魔人族!メリア様から離れろ!」


 衛兵が走ってきた。

 はやく、はやく、このことを伝えなければ、みんなが死んでしまう。


「衛兵さん!こいつが悪者です!全部、こいつが仕組んだことなんです!」

「黙れ!魔人族が!」


 衛兵が俺の腕をはたき落とす。

 だめだ。何をしても裏目に出てしまう。


「メリア様。どうぞこちらへ。後でしっかりとバツを与えておきます。」

「よろしく頼みます」


 メリアは最後にこちらを向き、口角をあげた。

 くそ!くそ!くそ!

 地面を叩いて叩いて叩きまくる。手から血がにじみ出る。


「よくも、メリア様にあんなことしてくれたな!よほど死にたいらしいなっ!」


 衛兵たちが牢の中に入ってきて、全力で蹴ってくる。


「……っ!」


 あばら骨が折れてしまっているようだ。全身打撲だ。

 痛くて体を動かすことが出来ない。


「メリア様が魔人族なわけがないだろう!お前が魔人族なんだろ!」


 この衛兵による暴力は決して収まる気配がない。 


「止めなさい!」


 その声の主に衛兵たちは、敬礼をした。


「王女様!こんな所に来ては行けません。ましては、あの魔人族に会おうなんぞ!」

「あの御方は魔人族なんかではありません。立派なお方ではありませんか!ましては、クロミネ様よりも勇者にふさわしいお方です。あなた達はこれまで何を見ていたのですか!」


 衛兵たちと王女と呼ばれた人が言い合っている。

 王女様は、とても綺麗だった。ブロンズの髪が似合っている。


「こんばんは。ヒノサカ様」


 その声は俺の身体を優しく包み込んでくれるような声だった。


「あまり魔法は得意ではないのですが、【彼の者を癒せ】『回復(ヒール)』」


 暖かな光が俺の身体を包み込み、傷が治っていく。


「無事に骨もくっつきましたね。良かったです。」

「…ありがとうございます。あの、貴女は?」

「申し遅れました。バルクスト王国、第3王女レリーズ・レネット・フォン・バルクスト。リーズとお呼びください」


 やっぱり、この国の王女様だった。


「なんで、俺のところに?」

「貴方様が、魔人族ではないからですよ。貴方様は処刑されるべき人ではありません。たまたま、貴方様が修練をしているところを見ました。私が見たのは少しの間ですが、貴方様はどこの誰よりも努力をしていました。そんな貴方様が魔人族であるはずがないのです」

「……うぅっ!」


 リーズの言葉は俺の身体の奥底にまで響いてきた。

 その言葉は干からびた大地に雨が降ったかのような潤いをもたらした。

 この世界に来てから何度目の涙だろう。とめどなく流れてくる。


「辛かったですね。何も出来ずに申し訳ありませんでした。」


 リーズの手が俺の頭を撫でてくれる。とても、安心できた。


  ***


「ありがとうございます。リーズ様」

「いえいえ。」


 よくよく見ると、少ししか、あの王に似てないな。大きな茶色い瞳に、ブロンズの長い髪。誰がどう見ても、美人だと答えるだろう。


「そろそろ、本題を話してもよろしいでしょうか。」

「あっ。はい」


 リーズは神妙な面持ちで話し始めた。


「お父様、バルクスト国王は10年前から変わってしまいました。原因はメリアだと私は思っています。あの人が来てからですから。お父様が変わってしまったのは。メリアがお父様を操り、何をしようとしているかは知りませんが、どうか、お父様をあまり恨まないでいただけませんか?」

「別に恨んではいません。俺もメリアが一番の悪者だと思っていますから」


 実際にメリアはそれらしきことを言った。


「俺が知っていることは全てお話します」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「これが、今日までにあったことです」

「申し訳ございませんでした。第3王女として深くお詫び申し上げます。」


 リーズが頭を下げてきた。偉い人と話したことは無いけど、王女が頭を下げていいものでは無いと思う。


「頭を上げてください。リーズ様は何も悪くありません。メリアが企てたことです」

「それでもです。何があろうと、止めることが出来なかった。それだけが事実でございます」

「……リーズ様の知っている事を聞かせては貰えないでしょうか?」


 どうしても譲る気がないようなので、話を変える。


「私は見えるのです」

「えっ?!」

「真実を見ることが出来るのです。魔眼と呼ばれるものです。この目で初めてメリアを見た時、とても驚きました。詳しいことは隠蔽されていて分からなかったのですが、あれは人間でも魔人族でもない。そう感じました。」

「魔人族でもない?」

「はい」


 メリアは魔族のことを低能だと言った。やっぱりメリアは魔族ではない。


「魔族ではない、もっと凶悪なものに感じました。ヒノサカ様が申した通りなら、勇者を食い殺したあと、この国を乗っ取るつもりなのでしょう」


 勇者たちが殺される。その事実を知っているのに止めることは出来ない。


「どうにかしてとめないと」

「そのためには、貴方様が生きなければなりません。そのお話をするために今日、私はここに来たのです」

「どうすればいいんですか?」

「三日後、メリアは外部調査に出かけます。そこで、私の信頼出来るもの達と協力して貴方様をここから出します」

「信頼出来るもの達?」

「貴方様も知っている方です。協力者の名前はまた今度お話致します」


 俺も知っている人。誰だろう。


「逃走経路は私どもが用意致します。ヒノサカ様にはもう少しの辛抱をお願い致します」

「分かりました。ありがとうございます」

「いえ。私はこれで失礼致します」


 リーズは俺に一礼して去っていった。


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