冤罪
魔法が教えられたその夜…。
玉座の間には、またもやメリアの声が響く。
「そろそろ勇者たちにも、見せしめが必要ね。あのクソ生意気な、クロミネを最初に殺したいとこだけど…。あぁ、そうだ、あの出来損ないにしましょう。消してもなんの問題もない。ふふふっ!楽しくなってきたわ」
「、、、や、、やめ、ろ」
「うるさいわね!豚は豚らしくしていなさい!」
バルクスト王は声を絞り出し、メリアの企みを阻止しようとする。しかし、体は自由に動かすことができない。
バルクスト王はメリアに蹴り飛ばされ、また正常な思考を手放した。
玉座の間には、メリアの全人類を侮辱するかのような笑い声が響き渡り、王宮には不気味な空気が漂い始めた。
***
魔法を教えられてから、1週間がたち、魔法も剣術も少しずつ上達している。
黒峰には追いつくことはできていないが、最初よりかなり良くなったはずだ。
今日は久しぶりに、王と謁見することになり、玉座の間に通された。
玉座の間には召喚された時よりも、衛兵が多くいた。
「勇者たちよ。そなた達の話は王宮内でよく耳にする。今では、絶大な力を身につけていると聞いた。特に、クロミネ殿はずば抜けていると聞いた。これからも、修練に励んでくれ。この度、そなた達に集まってもらった理由は、この中に魔王軍の間者がこの中にいるという噂についてだ」
その王の言葉に、周囲がざわめく。間者ってことはスパイか。ここにいる者たちはみんな日本から来たクラスメイト達だ。スパイがいるという噂はデマに違いない。
「お静まり下さい。王が話されています」
「皆の中にも分かっているものがおるだろう。勇者にしては、全ての能力が低く。成長がとても悪い者がいることを。…ヒノサカ殿、そなただ」
えっ?!俺がスパイ?なんの冗談だ?
「そなたは、魔王軍の間者なのだろう?」
「違います。俺は魔人族ではありません。メリアさんは、俺が召喚されたのを見ましたよね?」
メリアは召喚された時のことをすべてを知っている。メリアなら真実を言ってくれる。
「はい。召喚されたように見えました。ですが、魔人族にもそのような芸当は出来ると聞いております。また、ほかの勇者様方と見比べても、明らかに劣っています。ヒノサカ様。いえ、ヒノサカは魔族に違いありません!」
「ちがうっ!俺は魔族なんかじゃないっ!」
メリアにあられもないことをを言われ、声を荒らげてしまう。それがいけなかった。
「まあっ!見てください!皆様方、これが!魔人族の真の正体なのです!この者を放置しといても良いのでしょうか?」
周囲では、魔人がいるという恐怖からか、逃げ出そうとしている者もいた。
「処刑しろ!」
「いやっ!まずは、拷問をして、情報をはかせるべきだ!」
拷問という言葉に体が固まってしまう。
嫌だ。やだやだやだやだやだやだやだっ!
俺は何もしてないじゃないか!誰か!だれか…
「その者を捕らえよ!地下牢に放り込んでおけっ!」
「「はっ!」」
衛兵が俺の両腕をつかみ立ち上がらせる。
「おいっ!さっさと歩け!」
「待って!翔は私たちと一緒にこの世界に来たの!魔人族なんかじゃない!」
「、、香蓮」
香蓮は立ち上がり、連行を阻止しようとする。
「まあっ大変っ!勇者様が洗脳されてますわっ!」
「洗脳なんてされているわけないじゃないっ!」
「魔人族は悪しき存在。気づかれないように洗脳するなど朝飯前のことでしょう。誰か、ミズカミ様に解呪の魔法をおかけするため、教会までお連れしてください」
メリアの言葉を信じた衛兵たちによって、香蓮は教会に連れていかれた。
「おいっ!汚らわしい魔人族め!お前は牢屋に行くんだよ!さっさと歩け!」
もう逃げられない。俺は、死ぬのだろうか。香蓮に謝ることもできずに、助けられたまま。
***
螺旋状の階段を降りていき、見えてきたのは牢屋だ。
じめじめとしていて、肌寒く薄暗い。
「はいれ!」
鉄格子が開けられ、放り込まれる。地面はひんやりとしている。
「よくも俺たちを騙してくれてたな!魔人族風情が!」
衛兵はそう言いながら、唾を吐きかけてきた。
「まだ決まったことじゃないが、お前はこれから拷問をされまくるんだろうな。鞭で打ち続けられ、爪もはがされ、ありとあらゆる拷問を受けることになる。それが嫌なら、魔人族の情報を吐くんだな。まあ、いったら言ったで処刑だろうがな!」
魔人族の情報なんて知るはずもない。
牢屋の奥に行き、蹲る。体をできるだけ小さくして、泣いた。泣いて泣いて泣いて泣き叫んだ。この世の理不尽さと、自分の情けなさに。