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バルクスト王国

バルクスト王国は神王大陸、北西部に位置する巨大な王国である。その歴史は1000年以上と言われている。


 バルクスト王国は兎に角、戦争が得意だった。その一番の理由としては、国王の存在である。バルクスト王国の国王は文武両方に長け、特に、代々軍師としての才能に秀でていた。現在の国王も例外ではない。


 現在の国王の名は、ソーク・ロメリア・フォン・バルクスト。彼は、かつて賢王と呼ばれていた。そう、あくまで過去の話である。

 彼は、歴代最高の賢王だと呼ばれていた。

 彼が率いた軍は、魔物相手でも人間相手でも、百戦百勝だった。

 そんな彼に、変な噂が流れたのは、一昔前のことである。


「バルクスト国王は変わってしまった」


 そう言われるようになったのである。1番最初は、

 些細な変化だった。生活習慣が変わり、剣の稽古をサボるようになったりと、そのような事だった。

 だが、噂が立ってから5年後、事件は起きたのだ。


 バルクスト王国の北部には北方山脈という、大陸を横断する大きな山脈があった。その山脈付近に竜が現れたのである。

竜とは、全生物最強と言われ、その力は大国家の軍事勢力に匹敵すると言われている。

 バルクスト国王は、自ら軍を率いて、討伐に向かった。国民も、国王自ら討伐に向かったのならば一安心と思い見送った。

しかし、竜討伐軍は勝ったものの、3分の1の兵士が今後戦うことの出来ない体になってしまった。それは、大国家の3分の1の兵を失ったのと同じことである。決して少なくない数である。


 その原因としては、バルクスト国王の指揮である。

 彼は、三流の軍師でもわかるミスを連発していたのである。軍の幹部たちは、なにか理由があっての事だと思い、従順に従った。その結果が、これである。

 誰もが言った、


「あの、賢王は、いなくなってしまった」


 と。


***


 ―バルクスト王宮殿、玉座の間


 玉座の間は、夜の月明かりに照らされ不気味な雰囲気を醸し出していた。そこには2つの影がある。

 ひとつは玉座に座り。もうひとつは、玉座の前に四つん這いになっている。


「……ふふっ。ふははははっ!」


 玉座の間に、人間を馬鹿にするかのような声が聞こえる。その声の主は玉座に座っている、宮廷魔法士団副団長メリアである。


メリアは13年前、バルクスト王国の宮廷魔法士団に入団した。メリアの魔法士としての才能はすさまじく、約三年で副団長の座に就いた。


宮廷魔法士団の団長の座にも推薦されているが、断り続けているという変わり者である。


「勇者たちも馬鹿よね?そのうち殺されるとも知らずに。まるで、食べられるためだけに生まれてきた豚のように。ねぇ?あなたもそう思うでしょ?バルクスト国王、ソーク・ロメリア・フォン・バルクスト?」

「……」


 メリアは足下にいる、バルクスト国王に問いかける。だが、返事は帰ってこない。メリアの足置きにされることに、何も文句を言わず従順である。目はうつろで、口は半開きである。


バルクスト国王はかろうじて生きているが、目からは光が失い、死んでいるも同然の状態である。


「あの勇者どもが、太り切ったところで貪り食うの。勇者どもは、恐怖の声を上げる。魔族に対抗する希望を失った世界からは絶望が。そうすれば、そうすれば、また、あのお方に合うことが出来る!」


 そう言って、メリアは両手で肩を押さえ、ゾクゾクと震えあがった。自分が計画していたものが成功し、目標に達成できるという、気持ちから。


「それまで、付き合ってもらうわよ?ソーク・ロメリア・フォン・バルクスト国王さま♡」


 メリアは、そこらに居る小汚い豚を見るような目で、足下にいる、国王を踏みつけながら言う。


 バルクスト国王の目には、少しの涙が見え、

 メリアからは歓喜の笑い声が聞こえた。


     ***


 -バルクスト王国 宮殿内訓練場


クレイネとの訓練は終わったが、少しでも黒峰に追いつくため一人で練習をしている。

今日のこの素振りだけで、黒峰に追いつけるとは思っていない。ただの、気休め程度のことだろう。しかし、少しでもこの努力が実になるというのならば、寝る間も惜しんでやって見せる。


訓練場で素振りを続けていると、黒峰たちが訓練場にやってきた。


「やあやあ。精が出るね。そんなことをしても意味がないというのに。やはり、無能のやることは、全く理解できない」

「はははっ!全くその通りですね!」

「黒峰様。実は私、見てしまったんですよ。あいつのステータス。あいつのステータスの平均は約15なんですよ!」

「なんだそりゃっ!この世界の一般人と変わんねーじゃん」

「無能は無能らしく部屋でおとなしくしとけ!」


ステータスみられてたのか。


「じゃあ、勇者であるこの俺様が、戦い方ってやつを教えてやるよ。ほら構えろよ」


何をしても、勝てないだろう。黒峰の取り巻きたちに囲まれ逃げ場はない。


仕方ない戦おう。短いけれど努力してきたんだ。


俺に合わせて、黒峰も剣を構える。


勝負は唐突に始まった。黒峰が一蹴りで間合いに入ってくる。


黒峰の動きが目で追えず、腹に一撃を食らい吹き飛ぶ。


「ぐっ!!」

「おいおい。こんなんじゃねえよな」


これが勇者の力。こんなにも差があるのか。こんなにも違うものなのか。


「ほら。立てよ」


立ちたくても立てない。喰らった一撃が重すぎた。いや、恐怖で立つことができないのだ。足が震えている。


「ちっ!しょうがねえな。お前ら立たせてやれ」

「「はい!」」

「そのまま抑えてろ。火野坂。お前のVIT上げ手伝ってやるよ。まあ、ほんとに上がるかは知らねえけどなっ」


俺のステータスは黒峰の取り巻きよりも低い。逃げられない。HPが減っていく。このままじゃ、死ぬ。

何もできずに。香蓮と一緒に帰るって約束したのに。


「何をやっているのですかっ!」


俺と黒峰のわずかな隙間に、銀色のきれいな長い髪の女性が一瞬で入り込んできた。クレイネだ。


「ヒノサカ様方。このようなお時間に何をしていらっしゃるのですか?」

「見てわかんねえのかよ。特訓だよ。特訓」

「それは関心ですね。では、私も勇者様の手ほどきを受けたいのですが、よろしいですか?」

「ちっ!めんどくせえ女だな。後悔してもしらねえからなぁ!」


黒峰はクレイネに思いっきり木刀を叩き込んだ。

木剣はクレイネの腹に直撃した。しかし、クレイネは眉一つ動かさず受け切り、当たった衝撃で木剣は半ばから折れてしまった。


「あら。大変ですね。せっかく勇者様から手ほどきを受けられると思っていたのに、剣が折れてしまいました。今日はここで終わりにして、また今度お願いしてもよろしいですか?」

「しょ、しょうがねえな。お前ら行くぞっ」

「「は、はいっ!」」


そう言って黒峰たちは、訓練場から出て行った。

黒峰たちが見えなくなった後、クレイネはとても悲しい顔をしていた。


「もっと早く、気づいていればよかった。そしたら、ヒノサカ様がこんなことにならずに済んだのに」


立ち上がることのできなかった俺は、クレイネの部屋に連れていかれた。


クレイネは、「魔法が使えなくてごめんなさい」と言いながら応急処置をしてくれた。朝になったら、医者の所に行くようにも言われた。


「なぜこのようになったかを教えていただけますか?」


俺は今回の経緯を事細かに説明した。


「勇者様がそのようなことを、、。申し訳ありません。私の力では、勇者様を処罰することはできません。勇者様は人類の希望。国王陛下でも処罰することは難しいかと、、」


今現在、黒峰を処罰する方法は一切ないのだろう。俺はこのまま、黒峰にやられっぱなしなのだろうか。


「打開する方法はあります。それは、ヒノサカ様が強くなればいいのです」

「でも、ステータスであいつに勝つことはできません」

「今行っている訓練はステータスに左右されない、潜在能力を上げる訓練です。ステータスで勝てなくとも、技術で勝てばいいのです。命を懸けた戦いにステータスなど関係なく、必要なものは己の心に燈している信念なのです」

「己の心に燈している信念、、」


俺は黒峰のことを他人任せにしていた。何よりも大事なのは、俺の気持ちだというのに。


「すみませんが、私と訓練する時間は、短くなるかもしれません」

「何でですか?」

「明日から魔法の訓練も始まります。ヒノサカ様に魔法の才があった場合、魔法の訓練もしてもらわなければなりません。ですが、剣の訓練がなくなるわけではないので、これからもよろしくお願いいたします」

「はい!よろしくお願いします!」

「クロミネ様のことで何かあったら私に言ってください。私にできることなら力をお貸しいたします」


最後に聞いておきたい。


「なんでそこまでしてくれるんですか?」


その問いの答えはすぐに返ってきた。


「なんでって。私はヒノサカ様の師匠なんですからっ!当然のことです!」


そう言って、クレイネはにっこりと笑った。


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