模擬戦
今現在いる場所は、家の裏にある森の中に作られた、ちょっとした広場だ。
アリアが、「練習場が欲しいわね」と言って、魔法を使い、約十分ほどで作った練習場である。
そこで何をしているのかと言ったら、対人戦の訓練である。と言っても、一方的に叩きのめされているだけである。
「戦闘中に余計なこと考えないの!」
目の前から水で形成された矢が大量に飛んでくる。
「『土壁』!」
土の壁で水の矢を受け止める。凄まじい激突音が聞こえる。中級魔法とは思えない威力だ。
模擬戦でやる威力ではない。
しかも、魔法名も発さずによくこれほどの魔法が打てるのだろうか。
失敗した。目の前に壁があるため、アリアを視認できない。<魔力探知>は集中しないと正確に発動できないため、今は使い物にならない。
どこからか、風を切る音が聞こえる。
その場に立ったままだと、ヤバイと本能が言っている。後ろに飛ぶと、壁を迂回するように飛んできた風魔法によって地面が爆ぜた。
「よくわかったわね!」
「この威力、殺そうとしてますよね!?」
「じゃなきゃ、訓練にならないじゃない。これは、死なないようにするための訓練よっ!」
次々と、風の魔法が飛んでくる。そして、地面が凸凹になっていく。
アリアが放っている風魔法はすべて、初級魔法である。普通、初級魔法で地面が爆ぜることはない。
「ほらほら!避けるだけじゃ勝てないよ!」
「くそっ!【敵を穿ち 燃え盛れ】『炎の矢』」
放った炎の矢は、アリアに届く前に風魔法によって相殺されてしまった。相殺というよりは、『炎の矢』だけが打ち消され、アリアの風魔法は威力は少し落ちたがなんともなかったかのように、飛んできた。
「そんな弱い魔法じゃ、私の所まで届かないよっ!」
だから何で、中級魔法が初級魔法に負けるんだよ。もっと強い魔法。もっと強い魔法。
「判断は早く!」
アリアが一瞬で懐に入ってきて、横腹を杖で殴打する。
「っ!」
防御など間に合うはずもなく吹き飛ばされた。
「結構力抑えてるんだよ~。今の問題点は近接戦がなってないことだね。今の杖術だって、普通なら止められるよ。守ってもらうだけの魔法使いなんて三流だからね。しばらく近接戦の練習をした方がいいかもね」
確かに近接戦の練習など、王宮でクレイネに習って以来、全くと言っていいほどやっていない。
「あの、近接戦の練習をするなら剣でもいいですか?」
「魔法使いなら杖術の方がいいかな。杖を使わない魔法使いもいるけど、いい杖なら使った方がいいし。杖術なら、そのまま近接戦に持ってけるしね」
「魔法を習う前は、剣を教えてもらってたんです。今はどうなったかわからないけど、俺の命を救ってくれた人に教わったのが、剣なんです。俺は、どうしても剣を捨てることはできません。お願いします」
クレイネは、俺の尊敬する師匠の一人であり、命の恩人だ。クレイネが俺にくれた戦い方を捨てたくはない。
「確か、クレイネ君だったね。……いいよ。もともと私にそのことについて否定するつもりはなかったし。だけど、やるからにはしっかりとやってね」
「はいっ!」
「剣術はさすがに教えられないから、教えてもらえそうな人心当たりあるから、指導頼めるか聞いといてあげる」
「本当ですか?!ありがとうございます!」
***
村の入口のところに、男の人が二人立っている。
なぜ村の入り口に来ているかと言ったら、男の人のどちらかが剣術の指導をしてくれるらしい。
二人とも遠くから見てもわかるほど、体つきがいい。
一人は40代くらいのおじさんで、もう一人は、20代前半くらいの若い人だ。
この人たちは、この村が雇っている傭兵である。
「おっ?お前か?俺に剣術を習いたいってやつは」
若い傭兵の人が喋りかけてきた。この人が剣術を教えてくれる人らしい。
「はいっ!レゼル・アルバーンと言います。これからよろしくお願いします」
「おうよ。俺はローリーってもんだ。じゃあ、先輩。村の警護お願いします」
あんま遠くに行くなよ。とだけ言われローリーと
一緒に周りに何も無い、草原に来た。
「よし。周りに魔物はいねぇな。じゃあ、ここで特訓でもすっか。少しは剣習ってたんだっけ?」
「はい。今は使ってないんですけど…」
「そうか、じゃあ俺と少し打ち合ってみるか。レゼルがどんだけできるかも知りたいしな」
そう言って、ローリーは木剣を構えた。俺もローリーに渡された木剣を構え、5メートルほど距離をとる。
「じゃあ好きに来い」
「お言葉に甘えて」
この前上げたステータスの力で一気に間合いを詰める。今のAGIは1000を超えているため一瞬で間合いに入ることが出来る。
そこで左下から切り上げる。
ローリーは一瞬で懐に入られたことに少し驚いていたが、難なくで攻撃を受け止めた。まるで、そこに攻撃が来るのを察していたかのように、静かに止められたのである。
だが、こんなところで止まってはいけない。俺とローリーが使っている木剣は同じものなので、俺の間合いとローリーの間合いは同じである。攻撃の手を止めたらやられる。
体を反転させ、回転の力と共にさっきとは逆側に攻撃を入れる。
しかし、これも難なくとめられてしまう。
「こんなもんか~?レゼル。じゃあ、おれからもいくぞっ!」
そこからは一瞬だった。押し飛ばされ、体勢を立て直す時にはもうローリーは俺の懐に入り、左右に連撃をくらわしてきた。一、二回は剣で受け止められたものの、大半の攻撃はくらってしまい、身体中が悲鳴をあげていた。
「おっと。やりすぎちまったな。立てるか?」
「はい。何とか」
骨などは折れていない。手加減をしてくれていたようだ。手加減されていなかったら、こんなものじゃなかっただろう。やはり、ローリーは自分で言うだけあって、剣の腕は相当だった。
今回は俺の実力を知るためのものだったので、本当なら開始早々やられていた。これが真剣であったら、みじん切りにでもなっていただろう。
「これから俺はレゼルに駆け引きを教えようと思ってる」
「駆け引き?」
「そうだ。対人戦での駆け引きは自分一人だけでは、上達しにくい。1人で上達することが出来るのは才能のあるやつだけだな。まあ、俺は1人でもまあまあ出来たけどな。」
ローリーは腕を組んで、尊敬したか、とでも言う風に俺の方を見ている。
ローリーは俺に技はそれなりに出来ていると言った。でも、まだ駆け引きが未熟だとも言った。
魔物は、高度な知能を持っていないので駆け引きなどなくても、討伐できる時の方が多い。
ただ対人戦となると、戦いの読み合いが発生する。それが駆け引きである。
ローリーが、俺の剣を難なく止めることが出来たのも駆け引きだそうだ。相手の打ち込んでくる場所が分かってしまえば、そこに防御を間に合わせるだけである。
「まあ。一瞬で懐に入られたのは、さすがにビビったけどな。大賢者さんが、まだまだ未熟者って言うからよ、油断しちまってたよ。そのあとの回転切りはバツだな。一度、敵から目を離す愚行。しかも回転しちまってるから攻撃が来る方向が分かっちまう。ここに関しては、未熟者だな!」
ぐうの音も出ない。まったくもってその通りである。
「まあまあ。そんな落ち込むなよ。それを改善するために俺のところまで来たんだろ?安心しろ!俺はそこらのへぼ傭兵とは違うからよ!大船に乗ったつもりでいろ!」
「はい!よろしくお願いします!」
「そんじゃあ、今日の目標は…そうだな。俺の気が済むまでということにしよう」
そんな、ハッキリとしない目標のもと、剣の訓練が始まった。