レベルアップ
ナシュ村の見学をした日から約一週間がたった。
アリアの鬼の特訓にも慣れ、筋肉痛に襲われる日々とはおさらばした。
ただ、段々と特訓が過激化してきている。そのうち、魔力だけで机を持ち上げろとでも言われそうだ。
最近では朝ごはんも俺が作るようになり、ザ・弟子という感じになってきた。アリアはこれが師弟関係だとでも言わんばかりに、俺に仕事を押し付け、怠惰な生活を送っている。
「アリアさん。今日は何をするんですか?」
あほ面を晒し、ボーっとしているアリアに問いかける。
「今日はレベル上げにでも行こうか。そろそろステータスを更新したいでしょ」
STRやAGIなどのステータス値はレベルを上げることによって、最新のものに更新される。
だから、今の俺のステータス値は封印が少し解かれた時と変わっていない。
この一週間、鬼のような特訓を続けてきた。その成果を見てみたい。
「はい!行きましょう!はやくっ!」
「まあまあ急ぐでない。わが弟子よ。私はもうひと眠りしたいのだ。この気持ち分かってくれるかな?」
「これっぽちも分かりません。さあ、早く準備してください!」
アリアの怠けっぷりが半端ない。このままでは、ベッドから出ることがなくなってしまうのではないだろうか。
そんなアリアを椅子から無理やり立たせて外出の準備をさせる。もう、幼稚園児と言っても過言ではない。
521歳だというのに。
そんなこんなで、家の裏手にある森に来た。
この森には、ブラッディ・ベアー級の魔物がうじゃうじゃといるらしい。早くレベリングに行こうとは言ったが、魔物とのレベル差がありすぎると思う。
「アリアさん。この森の魔物ってレベル高いんですよね?」
「うん。他の土地よりは高い方だと思うよ。でも、大丈夫だよ。遠くの方から魔法で狙撃しちゃえばいいんだよ。簡単でしょ?」
これまでの経験上、アリアの言う簡単は簡単ではない。三歳の子供に高校の数学のテストをやって、百点を取ってこいと言っているのと同じである。
そして今俺は、魔物を倒せと言われている。もしかしたら、死ぬかもしれない。
「ほら、早くしなよ。今のレゼルなら大丈夫だよ」
やるしかない。魔物を倒してレベルアップをするんだ。
さっそく、魔物を見つけて……。魔物ってどうやって見つけるんだ?
「あの……。どうやって魔物見つけるんですか?」
「あっ!忘れてた。<魔力探知>教えてなかった。てへぺろっ」
この人は本当に、偉大な大賢者なのだろうか。とても不思議に思う。
「ごめんごめん。そんな睨まないでよぉ。
それでね、<魔力探知>って言うのは、その名の通り生物に宿る魔力を感知する方法なの。相手が魔力制御で魔力を抑えていない限り、感知することが出来るわ。
もちろん、魔力がないものは感知できないから。まあ、そんな生物普通はいないと思うけどね」
魔物には、魔力を制御して隠すことはないらしい。だから、魔物を討伐するときには重宝する。
「じゃあ、やり方ね。魔力を放出して、薄く周りに広げていくイメージよ」
これも魔力制御の一環なので、イメージが大事になってくる。
イメージするのは、波紋。静かな水面に一滴の水を垂らし、静かに円が広がっていくイメージ。
広がっていく途中で、何かにぶつかって波が乱される感覚が来る。
「おっ!うまく出来たみたいだね。一発でできるなんてすごいよ。しかも、すごくきれいで静かだった。やっぱり、魔法の才能があるよ」
こんなに褒められると照れくさい。
「魔力を広げた時に何か引っかかったような気がしたんですけど。それが、魔物ですか?」
「そうだよ。じゃあ、取り敢えずそこに行こうか」
<魔力探知>で感じたところに行くと、そこには大きな猪がいた。
「あれは、レッド・ボアだね。ブラッディ・ベアーよりは弱いから、レゼルでもすぐに倒せるよ。じゃあ、やってみよー」
まだ、レッド・ボアは俺のことに気づいていない。予定通り狙撃しよう。
「【敵を穿つは必中の矢 燃え盛りて焼却せよ】
『炎の矢』」
魔法名が発せられると、空中に一本の赤い炎の矢が形成され、レッド・ボアにまっすぐ飛んでいく。
その炎の矢は一寸の狂いもなくレッド・ボアの眉間に突き刺さり、レッド・ボアは炎に包まれた。
「いいねいいね。いい感じだよ。特訓した甲斐があったね。これも師匠である私のおかげかな?」
「そ、そうですね」
まさかここまでうまくいくとは思わなかった。ブラッディ・ベアーよりは弱いとはいえ、一発で倒すことが出来るとは思はなかった。
確かにこれは、アリアの特訓のおかげだ。あんなに弱かった俺をここまで強くしてくれるとは、感謝してもしきれない。
「アリアさん。ありがとうございます」
「…っ!ど、どうしたんだよ。急に。そんなにかしこまられると、逆に困っちゃうよ」
[レベルアップしました]
突如、目の前に変なものが表示された。レベルアップの通知だろうか。
「アリアさん。レベルアップしたらしいです」
「さっそくステータス見てみなよ」
レゼル・アルバーン
Lv:8
HP:1620/1620
MP:3360/3360
STR:600
VIT:580
INT:960
MND:640
DEX:700
AGI:660
SP:24
<魔法>
火炎属性Lv.3 風属性Lv.2 雷属性Lv.2 土属性lv.1
<スキル>
言語理解Lv.MAX 片手剣Lv.2 魔導Lv.2 鑑定Lv.2 魔力探知Lv.1
<称号>
巻き込まれし者 風の大賢者の弟子
魔力探知のスキルを手に入れられた。
そして何よりも、ステータス値がすごく上がってる。レベルは8しか上がっていないのに、ほとんどのステータスが12倍になっている。
これが、鬼の特訓の成果なのだろうか。アリア様、すごい。
「どうだった?すごい上がってたんじゃない?」
アリアにステータスを見せる。
「すごっ!こんな上がるとは思ってなかったわ~」
まさかのアリアも、ここまで上がるとは思っていなかったらしい。アリアが言うには、見習いの衛兵クラスのステータスらしい。衛兵の平均ステータスは、1000に行くか行かないかぐらいで、レベルは40ぐらいらしい。
今の話にはおかしな点がある。レベルが40で、ステータス値が1000ぐらいなのだ。
今の俺のレベルは8で、平均ステータス値は700ぐらいなのである。
俺って結構すごいのかもしれない。
「まあ、だいぶ上がったけど、まだまだだね。私のステータス、高いやつは五桁行ってるしね」
俺のステータスはまだまだでした。イキって申し訳ありませんでした。
「少年よ。そこまで落ち込むな。」
すごいドヤ顔をしてくるのだが。頭をポンポンするな。
取り敢えずもう少しレベルを上げよう。15ぐらいまではあげられればいいかな。
・現在ステータス
レゼル・アルバーン
Lv:15
HP:1620/1620
MP:3360/3360
STR:950
VIT:860
INT:1380
MND:920
DEX:980
AGI:1045
SP:45
<魔法>
火炎属性Lv.3 風属性Lv.3 雷属性Lv.3 土属性lv.2
<スキル>
言語理解Lv.MAX 片手剣Lv.2 魔導Lv.2 鑑定Lv.3 魔力探知Lv.2
<称号>
巻き込まれし者 風の大賢者の弟子