本当の魔法
午前中の座学が終わり、昼食をとってから、午後の魔法の訓練が始まった。
「詳しい話を聞く限り、メリアという女は必要最小限、魔法が行使できる程度の説明しかしてないね」
アリアの推測では勇者達に力をつけられると、後々殺すのが面倒になるため、ある程度しか教えてないのだろうということだった。
「まずは、基礎知識からね。この世界には、魔素というものが存在するわ。空気中にも存在するし、地面や人間にも存在してる。人間は体内にある魔素を魔力って呼んでるの。魔素には属性を変化させるまでの力はない。だけど、魔力は火や水に変化させる力を持ってるの」
「じゃあ、魔素は一体何なんですか?」
「少し意味合いが変わってくるかもだけど、簡単に言うのならば空気と同じ存在かしら。目で見ることはできないけれど、確かに存在するもの。そして、魔素はその名の通り魔力の素だね。ただし、体外に存在する魔素を直接体内に送ることはできないわ。エルフなどは例外だけど」
「なんでエルフは魔素を体内に取り込めるんですか?」
「詳しいことはわからないけど、普通の人間には体内で魔力を生成する器官があって、エルフには魔素を取り込み魔力にする器官があるって聞いたことがあるわ。だから、エルフは森の中を好むんだと思う。森の中には汚染されてない魔素があるからね。
しかも、魔素を取り込めるとなると魔法を使うとき、魔力をあまり気にしなくてもよくなる。だからエルフが魔法を使うと、とても強いの。さすがに無限に使いまくれるってわけじゃないけどね」
エルフは魔法に長けているらしい。日本で呼んでいたラノベに出てくるエルフの想像通りだ。エルフが魔法を得意としている理由が知れて少しうれしい。
この世界のエルフ、魔法に関して言ったら最強だと思う。魔力切れを気にせず魔法を使うことができる。
無限に使えるわけじゃないとアリアは言っていたが、それでも一般人の10倍は魔法を使えるだろう。
天然チートだ。
「次は魔法の階級ね。
魔法は、下級、中級、上級、超級、究極級という感じに階級が分かれてる。もちろん、究極が一番、習得が難しいけど、威力は一番高い。
別枠として、極大魔法なんてのもある。これは、巨大範囲魔法と言った方がいい。これは、大量の魔力を必要とする。巨大な魔物や敵が大勢いるときに使えるわ」
俺がこれまで使ってた魔法は、下級魔法。あの熊の魔物を倒せるはずがなかった。
「どうやったら、低級以上の魔法を使えるようになるんですか?」
「それにはまず、ステータスにある魔法のレベルについて教えなきゃね。ステータスの魔法の欄に火炎属性のレベルがあるでしょ?」
レゼル・アルバーン
Lv:1
HP:120/120
MP:200/200
STR:50
VIT:40
INT:60
MND:40
DEX:35
AGI:55
<魔法>
火炎属性Lv.1 風属性Lv.1 雷属性Lv.1
<スキル>
言語理解Lv.MAX 片手剣Lv.2 魔導Lv.1 鑑定Lv.1
<称号>
巻き込まれし者
「はい」
「そのレベルが上がっていくと、魔法の構築速度と威力が上がっていくわ。そしてレベルは、その属性の使える階級のストッパーになってるの。レベル2までは低級。レベル4までは中級。という風に上がっていって、レベルマックスの10になると究極級が使えるようになるわ。極大魔法は超級と同じ段階で使えるようになるわ」
「レベルはどうやって上げていくんですか?」
「取り敢えず、どんどん魔法を使っていくしかないわね。熟練度を上げていくようなものよ」
この話を聞く限りだと魔力量は足りていても、魔法レベルを上げていかないといけないらしい。
「じゃあ、次行きましょ。魔法を構築するのは、イメージと魔力量によって成り立ってるの。魔力を多く消費すればするほど魔法の規模、威力は大きくなっていく。そこに、詠唱で補助をする。
そして、それらを制御するために魔力制御の力が必要なの。魔力制御が上達すれば、火の魔法で自分を焼くことも無くなる。だから、魔力制御の訓練は必ずやりなさい」
「はい」
「とりあえず魔力制御の練習法から行きましょう。魔力だけを使ってこのコップを持ち上げるの。絶対に魔力を属性変化させないこと」
机の上に置かれている木製のコップを、魔力で持ち上げようとする。集中してやっているつもりだが、コップはピクリとも動かない。
「さっき魔法はイメージって言ったよね。魔力も同じ。ただ、魔力は火とかと違って目に見えないからイメージしずらいでしょ。そこが、魔力制御の難しいところなの」
「アリアさんはどうやって魔力をイメージしてるんですか?」
「私の場合は、魔力は自由自在に動く血液のようなものって思ってる。その魔力に色を付けて外に放出して形作ってる」
「魔力は血液…。色を付ける…。」
目を閉じ、体中にある魔力を意識する。熱く血液とは違う体中を満たしている力を感じる。これがきっと魔力だ。魔力は体の中を絶え間なく流れている。
この魔力に色を付ける。最初に思い浮かんだのは緋だ。血液とは違う鮮やかな緋。
その魔力を外に放出する。そして、コップを包むようにして持ち上げるイメージをする。
しかし、コップは五ミリほど浮いたところで落ちてしまった。
「あとちょっとだったのに…」
「そんな簡単にいかないよ。魔力制御を完璧に行える魔法使いはそうそういないもの。一発でできたら怖いわ。だから、やっといて損はないの。魔法を使うのも格段に楽になるしね」
三流の魔法使いだと魔法を構築するときに、魔力制御ができなく無駄な魔力を使ってしまう。そして、その分だけ魔力を消費してしまう。戦闘になると、魔力量はとても大事なものになる。魔力制御をすることは、自分の生死をわけるらしい。
それにしても、魔力を制御することは難しい。五秒もしたら疲れて集中できなくなる。
「魔力制御できたら生活が楽よ」
アリアはキッチンのほうに手を伸ばした。すると、薄い緑色の魔力がキッチンのほうまで伸び、ミルクが入っている瓶を浮かしながらテーブルの上に置いた。
「こんな風にね」
この光景を見ただけでアリアがどんだけすごいのかが分かる。今座っている場所からキッチンまでは三メートルはある。そして、ミルクが入っていた瓶の重さは一キロは超えているだろう。
今の俺の魔力はせいぜい三十センチ伸びるかどうかだろう。しかも、木のコップでも少ししか浮かせられなかった。
世界中の魔法使いたちの中でも、数人しか完璧にできない魔力制御を軽々しくこなしている。改めてアリアの力は規格外だと思う。
「さあさあ、どんどん行きましょう!次は詠唱の説明ね。詠唱は魔法構築の補助を行うものなの。例外として、威力などを上げる詠唱もあるわ。
魔力制御がしっかりとしていれば詠唱はいらない。だけど、高位の魔法になると、制御が難しいから、詠唱する方が楽に発動できる。
あなたの場合は<魔導>があるから、詠唱は楽にできるかもね」
メリアやリーズが俺のことを治療するときに使っていた、魔法の前に言っていた言葉が詠唱なんだろう。
「詠唱って暗記なんですか?」
「うん。大体は暗記だけど、作り出すことも出来るよ」
暗記はきつい。でも、<魔導>でどうにかならないかな?
「じゃ、詠唱の例ね。【火よ灯れ】って言ってみて。火属性の初級魔法『火』の詠唱よ」
「【火よ灯れ】-『火』」
掌の上に火が灯る。その大きさはマッチの火の大きさの五倍はある。もっと魔力を消費すればもう少し大きくすることができそうだ。やったら、この家が燃えてしまいそうなのでやめておこう。アリアに殺されてしまう。
「いい感じね。魔法を発動するの少し楽になったでしょ」
「でも、なんで楽になるんですか?」
「これも私の見解になるけど、詠唱によって魔法をイメージしやすくしているんだと思う。『火』を最初に使ったとき、何かをイメージしながらやったでしょ。それを言葉で代用してるの。
【風よ 我が前に在りし者を切り裂け】という詠唱から何の魔法が出てきそうかわかるでしょ?言葉もイメージなのよ。だから、詠唱は作れもするの」
どんどん魔法の謎が解かれていってる気がして面白い。
言葉がイメージになる。覚えておこう。
「まあ、無詠唱が一番いいけどね。魔法使いの戦闘において重要なのは、魔法を相手よりどれだけ早く打ち込めるかよ。詠唱はイメージしにくい魔法を使うときに唱えるといいわ」
対人戦の時は相手をより早く無力化したほうがいいらしい。無力化するために過剰な威力はいらない。ただし、魔物の場合はそうもいかないらしいが、無詠唱で魔法を放てることに悪いことはないようだ。
「大体の教えられることは教えたわ。さっそく特訓を始めましょう!」
こうして、地獄の特訓が始まった。