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世界樹の根

 空を飛んで、しばらくすると、木の柵で囲まれている村が見えてきた。関所の街よりも少し小さいくらいの村だ。


「見えてきたよ。あれがナシュ村だよ」


 村の入口手前で降り、村の中に入った。すると、村人達がアリアのもとへ近づいてきた。


「アリアさん。おかえりなさい」

「薬草はあったかい?」


 村の人たちはアリアにいろいろなことを訪ねている。

 アリアは村の人達にとても頼りにされているように見える。風の大賢者ともなれば、頼られるものなのかもしれない。


「村長のところに行かなくちゃいけないから、またあとでね」


 アリアが人だかりを割って通っていくので、ついて行く。

 着いた場所は、村の中で1番大きな家だ。

 アリアはドアをノックして中に入っていく。


「村長さん。居る?」

「風の大賢者様。おかえりなさい」


 家の奥から出てきたのは、髭が立派で眼鏡をかけている、おじいさんだ。見るからにこの人が、村長なのだろう。


「その呼び方辞めてってば。村に住まわせてもらってるのはこっちの方なんだから」

「こちらの方が、助けてもらっているのでこの呼び方は辞められません。村の人々も風の大賢者様にはとても感謝しています」


 アリアは深いため息をついて、話を変える。


「依頼されてた、ブラッディ・ベアーは倒してきたよ。あと薬草とかその他諸々」

「ありがとうございます。ブラッディ・ベアーはこのまま放置していたら、この村にも被害が出ていたかもしれないので、大変助かります」

「気にしないで。このくらいしか、恩返しできないから」

「もう充分恩返しできてますよ」

「何か言った?」

「いえいえ。今日はもう、お帰りになって、お体をお休めになってください。ところで、先程から思っていたのですが、その少年は誰でしょうか?」


 アリアは俺のことを思い出したかのように答えた。


「あぁ。忘れてた。この村に来る途中で、ブラッディ・ベアーに襲われていた所を私が助けたの。元々、この村に用があったみたいだから、連れてきたわけ。名前は確か…」


 やっぱり忘れていたんだ。名前も忘れられている。


「レゼルと言います」

「一旦、この子を私の家に連れてくけどいい?」

「はい。風の大賢者様が見ていてくれるのならば、安心です。」


 村長との話も終わり、アリアについて行くと、村の外れに家があった。村長の家ほど大きくはないが、この村の家の中では豪華な方だと思う。


「さあ。入って、そこに座ってて」

「はい。お邪魔します」


 しばらくして、アリアが帰ってきた。よく見るとラグナーンの街では見なかった髪の色だ。エメラルドグリーンの長髪だ。目は深い緑の色をしていて、耳がとんがっている。

 そう、耳がとんがっているのだ。ラノベを少ししか読んでいなかった俺でも分かる。異世界の定番種族。


 エルフだ。


「何?そんなに人のことをじろじろと見て」

「いや、エルフなのかと思いまして…」

「惜しい。ハイ・エルフだよ。これでも、結構長い年生きてる」


 ハイ・エルフ?初めて聞いた。聞く限り、エルフの上位互換なのかもしれない。


「そんなことは置いといて。レゼル君。いや、ヒノサカ ショウ。君が何故ここに来ようとしたのか、教えてくれる?」


 やっぱり、バレてた。でもこの人は、ナシュ村の魔女で間違いないだろう。メリアの手下かもしれないが、ここまでばれてしまっているので言っても言わなくても変わらない。正直に言おう。


「俺の本当の名前は、火野坂 翔と言います。この世界の住人ではありません」


  ***


「なるほどね。王女様の助言でここに来たってわけね。さっき言ってた、手紙を見せてくれる?」


 魔法鞄(マジック・バック)からナシュ村の魔女宛の手紙を取り出す。アリアは真剣な眼差しで手紙を読んだ。


「よしっ!詳しいこともわかった。王女様からのお願いごとじゃあ断れないしね。君を鍛えてあげる」


 どうしてこうなった?まあ、鍛えてくれるのはありがたいけど…。


「まず最初に、名前。変えよっか。着いてきて」


 案内されたのはアリアの家の裏にある森だった。


「まずは、世界樹の根に元々の名前を刻まなきゃいけない。世界樹の根に手をかざして魔力で刻んでいくの。イメージしながらね」


 世界樹の根に、手をかざしてイメージする。

 火野坂 翔というこれから捨てる名前を。少しずつ魔力が無くなっていくのがわかる。世界樹の根を見てみると、ガタガタだが火野坂 翔と刻まれている。


「そうそう。いい感じ。次はその名前に線を引いて、その隣に、新しい名前を刻んで」


 火野坂 翔に、線を引いて、隣に新しい名前を刻む。


「出来た?そしたら、世界樹の根を地面に植えるだけ。だけど、ここで聞いとくね。これで名前は変わる。世界樹の根って面白くてね。世界中に根が張ってて、世界樹から発せられる魔力は、全世界の人々に変化をもたらすの。

 だから、君が世界樹の根を植えた瞬間に、人々の記憶から消え去るってわけじゃないんだけど、ステータスの表記が変わる。火野坂 翔という人物がいた証明はできない。死んだも同然ってことだね。それでも新しい名前で生きていく覚悟はある?」


 リーズからの手紙にも書いてあった通り、世界樹の根を植えたら火野坂 翔は消えてなくなる。変えるも変えないも俺次第。


「このままじゃ。火野坂 翔のままだと、俺は強くなれない気がします。俺はリーズ様と約束したんです。必ず戻るって。そのためには、あいつを、メリアを倒すためには強くならなくちゃいけない。そのためだったら、名前が変わるくらい、どうだっていいことです!」

「ふふっ。よく言った!君の覚悟しっかりと聞かせてもらった。なら、その世界樹の根を植えて、新たな人生を始めよう!!」


 世界樹の根を植え込むと、地響きが鳴り響いた。すると、地面の所々から、虹色の光が漏れ出てくる。

 キレイ。虹色の光が世界を包んだ。


「ステータスを確認してみ?」

「ステータスオープン!!」


 レゼル・アルバーン

 Lv:1

 HP:20/20

 MP:25/25

 STR:15

 VIT:12

 INT:20

 MND:15

 DEX:15

 AGI:18

  SP:0

<魔法>


 火属性Lv.1


<スキル>

 言語理解 片手剣Lv.2


<称号>

 巻き込まれし者


「どんな名前にしたの?」

「レゼル・アルバーンです。レゼルは羽ばたく、アルバーンはこの世界では夜明けという意味だと聞いたので、夜明けへ羽ばたくという意味で…。直訳なんですけど、これが一番いいかなって、おかしいですかね?」

「そんなことない。いい名前だね」


 火野坂 翔はもう居ない。

 人々の記憶には残るのかもしれないが、今この時から、俺は、レゼル・アルバーンだ。


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