異世界召喚
改訂版の異世界英雄冒険譚です。
世界が炎と氷で包まれる。
蒼白の竜は天に向かい咆哮する。その叫びは全てを凍らせる。
黒髪黒眼の少年は、蒼白の竜に向かい叫び、全てを燃やす。
叫び合う大きな影と小さな影は、目の前の敵を滅ぼさんと、力をぶつけあう…
***
日本は平和な国。誰がそんなことを言ったのだろうか。
戦争をしていないからなのだろうか。だが、俺、火野坂翔の人生は平和ではない。
この高校で、黒峰良樹という人物にいじめられているからだ。それも相当たちが悪いいじめを。
上履きを隠される。なんてものは、比べ物にならない。
この前弁当がなくなったことがあった。隠されるだけなら、まだよかった。返ってきた弁当は、砂が大量に混ぜ込まれていた。そして、黒峰とその取り巻きたちはそれを食べさせてきたのだ。食べられないと言うと、数十発殴られた後、無理やり食べさせられた。
通りかかった先生に助けを求めるも、無視されてしまう。同情の目を向けられ悲しい顔をする。
それもそうだ。助けてくれるわけがない。黒峰は、ある大企業のぼんぼんなのだ。入学するとき、この学校に多額の補助金を払ったという噂がある。
黒峰のお父さんである社長は、とても良い人だ。黒峰には、いい子に育ってほしいという意味を込めて良樹という名前を付けたらしい。だが、思ったようには育たなかったらしく、凶悪な子になってしまった。
黒峰は、いつも社長である父に叱られているため、ストレスがたまり俺で発散している。
半年ほど、俺がいじめられている光景を見た職員は、すぐに校長に掛け合ったが、病気のため教員をやめた。
これは、黒峰が裏で何かしたのだろうと誰もが察した。
そして誰もが黒峰に逆らわなくなった。
黒峰は、親の期待を見事に裏切り、この高校を牛耳ったのである。
「はぁ〜」
「どうしたの?」
「今日もあいつらに会うと思うと、気分が乗らなくてさ」
「またあいつらかー。もう一回殺ってやろうかしら」
「今日はまだ何もされてないよ」
この子は、水上香蓮という俺の幼馴染だ。どうやら黒峰は、香蓮のことが好きらしく何をされても香蓮にだけは、やり返さないのだ。香蓮の笑顔に俺は癒されている。香蓮がいるおかげで、毎日学校に来ることができる。
香蓮と話していると、教室に黒峰が入ってきた。黒峰の後ろにいる三人は黒峰の取り巻きだ。
目と目が合い黒峰がニヤッと笑う。
憂鬱な気分になり、ため息をついた瞬間足元が光る。あまりの眩しさに目を閉じる。瞼を閉じてもなお、頭の中に光が侵入して来る。照り付ける光。だんだん光は強くなり、俺は意識を手放した。
***
夢を見ていた。小さい頃の夢。
「お母さん!僕ね!大きくなったら、英雄になりたいんだっ!」
段ボールで作った、剣を掲げて高らかに宣言する。
「そうなの?きっと、翔ならできるわ」
母は、にっこりと笑いかける。
本当の社会を見ていない小さい頃の俺は、
本当になれるものだと思ってた。
「たくさんの人を救うんだっ!」
小さい俺は、夢物語をずっと話している。
この世界では叶うことの無い夢を…。
***
朝自然と目が覚めるように俺は起きた。
目を擦りながら起き上がり、周囲を見渡す。パッと見正方形の部屋で、四方には大理石と思える真っ白な柱がたっている。隣には香蓮とクラスメート達がいた。起きているもの、未だに寝ているものなど、様々だ。
「香蓮。大丈夫?」
「うん。ここどこだろう」
周りからは困惑の声が聞こえる。見たこともない場所だ。気絶してしまった時のことを思い出す。足元が急に光って、気づいたらここに寝ていた。床をよく見ると、黒い何かでいろんな模様が描かれていた。
「ははっ…まさかね…」
考えついた答えは、
「異世界に来ちゃった?」
「はい。その通りでございます。勇者様方」
俺の問いに答えたのは純白のシスター風の服を着た女性だった。
「どういう事だよ」
イジメグループのリーダーである黒峯が
女性に強めに問いかける。
「私の名は、メリア。あなた方を遠い異邦の地より召喚したものです。」
「は?召喚?」
「はい。あなた方にはこのバルクスト王国の勇者となって魔王を倒して貰います。」
「魔王?」
「はい。500年前に英雄によって封印された魔王が、今封印から解き放たれようとしています。なので、あなた方にはその魔王を倒して貰い、この人間世界を救ってもらいます。」
魔王を倒してください。貴方は勇者に選ばれました。
異世界転生王道パターンである。
「では、皆様方には我が国の王と謁見してもらいます。」
「おいっ!何勝手に話進めてんだよ」
黒嶺がメリアに反論する。
「そーだそーだ」
「帰らせろー」
「めんどくせー」
それに便乗し、他の奴らも言いたい放題言う。
「静まりなさい」
メリアから冷たい声が発せられ、それと共に見えないなにかに空気ごと潰される感覚に陥る。クラスメート達は、その空気に耐えきれず黙る。
「あなた方に、反論する権利はございません。さぁ、着いてきてください」
誰も抵抗しようとはせずについて行く。しばらく歩くと、これまで見たどの扉よりも重厚感のある豪華な扉。
豪華な門が開き、大きな謁見の広場が出てくる。広場の左右には、大勢の人達がこちらを見ながら何かを喋っている。広場のまっすぐ前を見ると数段の階段があり、その1番上には豪華な椅子が置かれていた。
玉座と言われるものなのだろうか。
「国王陛下が参られます。静粛に。」
玉座の隣にいる宰相と思われる人がそういった数秒後、玉座の隣にある扉が開く。そこから出てきたのは、王冠をかぶりいかにも王様というような、50~60代位の男だ。しかし、威厳がありそうな雰囲気はあまりない。顔は青白く病人のようだ。
国王と思われる人が出てきた瞬間に、広場いる俺たち以外の人達が、膝をつく。
「我の名は、ソーク・ロメリア・フォン・バルクスト。バルクスト王国、国王である。勇者たちよ。よくぞ召喚に応じてくれた。感謝する。勇者達には魔王を倒していただきたい。ベルト」
「はっ。私の名はベル・ベルトと申します。バルクスト王国の宰相をしております。詳しいことは私がお話致します。約500年前、この世界には魔族が多く溢れかえっていました。魔族は人を喰らい、暴虐の限りを尽くしたのです。しかし、人間族の中に勇者というお方が現れ、魔王を倒すまでには行きませんでしたが、封印することが出来ました。しかし、その封印が解き放たれようとしているのです。そこで、我々は勇者と呼ばれる者達を召喚し戦ってもらうことにしたのです。」
「その勇者達ってのが俺らってわけか。」
「その通りでございます。クロミネ様」
「なんで俺の名前を」
「見えておりますゆえ」
「??」
どういう事だ?見えている?俺たちのことを召喚したと言っていた。やはり、魔法というものがあるのだろうか?
「魔王を倒す?馬鹿なこと言ってねえで、どうやったら帰れるか教えろよ!」
「申し訳ありませんが、元の世界には帰ることができません。帰れるとしても百年以上後でしょう」
「は?」
この世界で残りの人生を生きて行けってことなのか?詳しく説明をしてもらいたい。
「今日のところはこのぐらいにしまして、この世界の詳しいことは、また明日にでもお話致します。衛兵!勇者様方を各部屋へお連れしろ!」
「「はっ!」」
そして衛兵は暴れる黒峰と俺たちを連れて、それぞれの部屋へ案内した。
「翔?私たちどうなっちゃうんだろうね」
香蓮は小さく震えていた。これから先どうなってしまうのかは誰にもわからない。
魔王を倒すということは、殺し合いをするということだろう。日本では、到底考えることのできないことだろう。
「大丈夫だよ。一緒に日本に戻ろう」
「うん!」
やっぱり、香蓮の笑顔には勇気をもらうことができる。
窓から空の景色を見る。薄暗くなった空には無数の星たちがきらめいている。
しかし、夜空に浮かんでいるのは月ではなく、二つの大きな惑星である。
やはり俺たちは異世界に来てしまったのだろう。