ちよこれいと怖い その1
いきなり季節物のお話です。バレンタインのお話です。(体調がっつり崩して、めっちゃ過ぎていまい増したが……)
鴉さんがナチュラルに恋人を本名呼びしてます。
「我々の命は、君にかかっている」
場末のスナックに呼び出され、突然重すぎる使命を託された。
それも託してきた相手は、憧れてやまない噺家の大先輩たちである。
「すこし、大げさやしませんか。……それに、この状況はおかしくないですか」
スナックの中央に置かれたソファに座らされた俺を、取り囲んでいる顔はざっと見積もっても三十。
落語界の重鎮から気鋭の若手まで、そうそうたる顔ぶれである。
一方自分はまだ前座であり、本来なら彼らに取り囲まれたあげく酒を奢られる立場ではない。人より奇特な人生を歩んできた自覚はあるが、これほど奇妙な状況は初めてだった。
「大げさではなく死活問題だ。だから夜鴉、俺たちのためにどうか犠牲になってくれ」
そう言って深々と頭を下げたのは、俺の師匠である冬風亭圓山だ。
それにあわせて他の噺家たちも「このとおりだ」と頭を下げ始めたので、さすがに慌てる。
「いや、犠牲……になるのはともかく、自分に出来ることならやりますが」
「ならあいつを……小雀を止めてくれ!」
師匠を筆頭に、縋るような眼差しを向けられる。
その表情から毎年の苦労が察せられ、俺はつがれたばかりの酒を置き、「わかりました」と頷いた。
「それで、私は何をすれば――」
「「「小雀にバレンタインのチョコを作らせるな!!!」」」
俺の言葉を遮る勢いで、放たれた言葉は見事に重なっていた。
芸風も年齢も性格も違う噺家たちをここまでひとつにさせるとは、我が姉弟子『冬風亭小雀』こと小鳥遊 雲雀は本当に凄まじいなと、思わずにはいられない瞬間だった。