42.連合都市ギリュアリュ前
「よし、なんだかんだあったが明日には無事ギリュアリュに着きそうだな」
「そうだね」
てことはここらで最後の野宿かな?
脇に小川が流れてるしそこがいいか
にしてもほんとなんだかんだあったね
そのなんだかんだでギリュアリュに向かう必要もなくなった気もしたけど
「でも本当にいるの? そのパーンクァフルって【王種】は」
「いるかいないかでいえば間違いなくいらっしゃる。ま、姿を見せてくださるかはお前次第だ」
「ふーん」
─出てこないなら私が引きずり出してやる─
いや、やめとけ!
そもそも【王種】相手にそんなこと出来るのか?
─分からない─
じゃあ危ないからやめとこうな?
そう、なぜ未だにギリュアリュを目指しているのかというと。そこにいるからだ、【王種】が。
実際には離れた洞窟にいるってことらしいけど。
「きっと会えるでしょ。あの性悪な鳥も言ってたじゃない」
「いや、会うようには言ったけど、会ってくれるかは分からないし」
「まあその時はその時よ。別に時間はあるんだから」
確かに。そう急ぐ旅でもない。
気ままに行って無理なら無理で後回しって手もあるし。
「久しぶりのギリュアリュだ。ゆっくりしようぜ」
「やっぱタマは行ったことあるんだね。魔法猫として仕事ほったらかして」
「え? あ、いやあん時はまだ若くてだな」
タマがあからさまな反応をする。
魔法猫の役割は村を見守ることって、自分で言ってたはずだ。
「まあいいじゃねえか。息抜きぐらいさせろよ」
「いや、別にいいんだけどさ」
その晩も特に何事もなく、次の日を迎えた。
陽の光に照らされ目を覚ます。
近くに2人の姿はなく、既に起きていてすぐ出れるようだった。
少し先で、タマが馬に餌を上げてたのを見つけたから声をかける。
「おはよう」
「ん? あぁ、おはよう」
「もう行く?」
「そうだな、もうすぐそこだが何かあるかもしれないし早く出た方がいいだろ。ほら、顔洗ってこい」
「うい」
うん、やっぱ朝は苦手だ。もっと寝てたい。
言われた通り顔を洗うために小川の方へ向かう。
そこにアンナもいた。
「アンナおはよう」
「おはようアレン。顔洗いに来たのね」
「そ」
素っ気ないのも仕方が無い。眠たいのだから。
屈んで手で水を掬い、顔を洗う。
水はひんやりしていて、強い眠気も一瞬で吹き飛ばした。
ああ、さっぱりする~
「んで、アンナは何をしてたんだ?」
「別に何も? しいて言うなら魔法制御の練習ね」
「普通にやってんじゃん」
確かに、よく見てみるとアンナの身体が魔力で覆われている。それはとても薄く貼られていて言われてみないと気づかないぐらいだ。
なるほど、これなら魔法制御にうってつけか。
こう細かい制御って地味だけど大切だからなー
今度僕も真似してやっていこう。
もちろん、修行してたんだからそれなりには出来てるけど、普段やってるのとやってないのとじゃ天地の差ができるからね。
「もう出発?」
「うん、そうだね」
「ルビアス様身体が大きいけど……」
「ま、珍しいとはいえ龍もいるにはいるんだろ? なら大丈夫!」
本当は竜ですけどね。
未だにアンナには黙ってるし気づかれてもいないはず。
「そうね、別にそれで入国拒否なんてされないし」
(2人とも軽く飯作ったから戻ってこい。食ったらすぐ出るぞ)
タマからの念話だ。
念話ってやっぱ便利だ。
さてさて今日の朝食はなんだろうな?
「行きましょアレン。今日の朝食はなんなのか気になるわね」
アンナが舌なめずりする……顔面偏差値が元から高いからこの行為すら様になってるのはずるいな。
結局、その日のご飯はコサコだった。隣川だしね。
でも、やっぱりタマの料理は美味い!
これまで毎食どれもハズレ無しなんだからすごい。これだけで王都とかで余裕で暮らせる。王都行ったことないから基準がわかってないけど。
「さ、食い終わったな? 行くぞ」
食後の運動は嫌……なんて言ったら睨まれるだろうな。そう思いスっと馬に乗る。
よし、準備OK!
─数刻後─
「お~! すごい長蛇の列! さすがは連合都市ギリュアリュ!!」
「いやあ、田舎国家の冒険者の私もここで一攫千金できるかな」
「おいお前聞いたか? この前このギリュアリュで勇者が出たんだってよ」
「どんな奴がいるか楽しみだな! ライカ!」
「ちょ、ちょっとあれ! 龍じゃない!? 凄い! てことはあの青年は……龍契者???」
……人多。
そんでうるさッ!
「よし、アレンにアンナ。ここに並べ」
「え? 入れないの?」
「いや、入るためにだな。ここで荷物検査とかやるんだ」
「へぇ」
「……ねえ、おふたりさん?」
アンナがプルプルしながら話しかけてきた。
目はこっちではなく列の前の方へ向いている。
「どうした?」
「いや、それが。あそこ、龍契者が」
「「え?」」
言われてアンナの目線の先を追う。
そこには黄色、と言うよりかは少し暗い鱗を持つ龍と、その相棒らしき青年がいた。ただ、彼の纏う覇気はそこらの人間とは明らかに違う。というか、村長並じゃ……?
なるほど、さっきのおばさんかなにかの呟きは彼らのことかな?
なにせ、ルビアスはここに呼んでいないからだ。
「ほほー、これは珍しい。本物の龍契者か」
「え? 本物?」
「ゴホン! アレン以外の龍契者か。しかも見たことない顔だ」
「そうね。でもなにが驚くかってあの覇気……アレンはともかく、同じ龍契者のベリア様に引けを取らないなんて!」
え!? ベリア様、龍契者なの!?
驚きが顔に出てたらしく、アンナが目敏く見つけてきた。
「大聖女も龍契者って話でしょ? そう考えれば対抗勢力のベリア様が龍契者ってのも納得じゃない?」
「確かに」
てなると名前なんだろうな?
大聖女の方は長かったけども。後で聞いてみるか。
「しかしまあ、他の龍契者か。トラブルには巻き込まれたくないからあまり近寄らないでおこうな」
「そうですね」「そうだね」
さて、これからまた登場人物が増える予定です……
これまでもこれからもギリュアリュ編が一番多くなるんじゃないかな?




