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太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜  作者: 日孁
第1章~純白の支配者~
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転生者 TKH④

 父上の顔をうかがう。

 短く刈り揃えられた髭は実年齢である43歳よりも更に老けさせてみえ、また、椅子の肘掛に肘を立てて眉をひそめてうんうんと唸っているその仕草が余計に様になっている。


「さて、どうしたものかな」


 父上は虚空を見つめてそう呟いた。

 ここは父上の自室。

 そこで昨日起きたことの説明を促され、おおまかな事を説明したあとだ。

 ただ、転生者。という部分は省かせてもらっている。

 あくまでルイフが突如現れたということにしているが、誤魔化しきれているのかどうか……


「よし、そうだな。お前達にはウルメリア連合都市ギリュアリュの、聖魔交流学園に通ってもらう」

「は?」

「へ?」


 ウルメリア連合都市とは、このウルメリア大陸を牛耳っている南の大魔女、北の大聖女、西の四天王に東の三魔王の四大勢力の中心に位置する、一国にも劣らないほどの超巨大都市のことだ。

 ただ、そこは人族国家の領土であるために四大勢力の影響力はそうない。

 まぁ、逆に人族がそこを治めていてくれるおかげで、戦争の抑制になっているんだろうけど。

 だが、そこに俺達を編入させる意味がわからない。


「出発は三日後だ。しっかりと身支度を済ませておけ」

「お待ちください! あまりにも急で理解が追いつきません! 何故、その結論に至ったのか、その理由をお教え下さい!」

「いや……それは今ここで教えてしまうのは勿体ない。『時の奥義』を知りたいのなら、まずはそこで情報を集めてこい」


 そんな……

 いや、きっと父上には考えがあるのだろう。

 だがなんだ?

 わからない。

 ともかく、ハルトも呼んで話し合うしかないか。

 この世界にはまだまだわからないことが多い。

 前世と違って、ほとんど情報が入ってこないからだ。

 まず、ここが本当に前世と同じ世界なのかどうか。それすらも怪しい。

 魔法が実在すること、天王に魔王、王種という未知の存在。

 この世界がどんなシステムで回っているのか。

 俺達が何故転生したのか。

 これらを解明するためにも、ここは父上の言う通りにギリュアリュに向かった方がいいのかもしれない。

 そんな気がする。


「では、もう戻っていいぞ」

「はい……」


 部屋を出て、ハルトの住む屋敷に向かうまでに色々と考えを巡らす。

 だが、そのどれも答えは見つからない。

 いや、わからないことを考えるのはやめだ。

 まずは目先のことをなんとかしよう。

 とりあえずは、先生が言っていた魔物討伐に関して。

 もうすぐ連絡がくるだろうけど、どんな魔物だろうか?

 前世の記憶からだと、こういった初めての時はゴブリンにスライム辺りのイメージがあるけど。

 まさか(ドラゴン)だったり?

 クズヤの話だと転生者ってめちゃくちゃに強いってことだし、有り得なくはないのか?

 楽しみだなー。



 ──────────────────────



「よろしかったのですか?」


 二人が出て行ったあと、綺麗な高い声が部屋に響いた。その声の主である彼女は、まるで初めからそこにいたかのように立っていた。


「構わん。井の中の蛙になっているあの子らには大海を経験してきてもらわねばならん。そして、自分たちで生きていく術も必要だ。それにはあの場で学ぶのが最善であろう?」


 天王 デリック・コントラス・カーペンターはそれに驚く素振りも見せず、彼女へ返答した。


「それはまぁ」

「あそこにはさまざまな種類の書物が置いてあったはずだ。その中にゼロ達の知りたい情報も少しばかりあるだろうから嘘は言ってない。ちょうど良いタイミングだったな」

「はぁ……」


 彼女は大きくため息をつくと踵を返し部屋をあとにしようとし、ドアの前でふと足を止める。


「そういえば、あの子達の担当の教師から連絡がありました。魔物討伐に参加させたいとのことですけど、どうしますか?」


 デリックは少し思案顔を浮かばせるが、直ぐに表情を戻し発言する。


「ふむ、それぐらいはいいだろう。して、いつ、どんな魔物を狩ると?」

「確か明日。魔物については王からの意見が欲しいと」

「そうか。私よりもその者の方があの子らの力をわかっていように……」


 デリックが困ったように眉間にしわを寄せる。


「自身の独断で決めて、もしあの子達が怪我した時に責任を負うが怖いんでしょうね」

「血の繋がりで王が決まるなら、それも分かるのだがな」

「そうは言っても、今は貴方が王で、あの子達は貴方の息子であり王子です。現王のご子息になにかあればそれは重罪になりますよ」

「はぁ……できればこんな役職捨てたいものだ」

「そんなこと言わないでください。今の時代には貴方が、貴方の力が必要なのですよ?」

「分かっている。だが、他の天王2柱は三魔王(トライデント)を未だに敵視し、残りのエルフのあいつは一向に連絡を寄越さん。全く、今の状況を理解出来ていない」


 彼女はデリックの言葉に、少しばかりの憤りが含まれているのを感じた。


「それは……仕方ないですよ。四天王と三魔王の因縁は古来より続いていたのですから」


 しかし、デリックは首を振る。


「いいや、なにも仕方なくなどないよ。既に三魔王とは協力関係が築けるほどになったのだ。それなのに敵視する必要があるか? 疑うのならいい。王として民の安全を守るためには、そうそう信用してはならんからな。だが、実際に行っているのは魔族であるということのみでの差別だ。それも天王が、だ! 族の代表としてあるはずの天王がそんな馬鹿なことをしているのだぞ。それが仕方がないわけなかろう? 民もそれに感化されてしまい、本当に同盟が結べそうなのは私のところだけだろう。同じ天王だというのに、この差はなんなのだ。これでは同盟後、我々にも矛先が向きそうだ。……いや、それこそ違うのか。違うもの同士だからこそ、だな。天王という同じ役職についているとはいえ、元は別の出生であり育ちも違うし種族も違う。同じであるはずはないのだからな。それ故に私の仕事が多くなる。ったく、本当に嫌になる」


 その言葉を聞いて、彼女はやっと合点がいったというふうに頷いた。


「なるほど。だからあの子達をあの学校に向かわせるのですか。あの、四大勢力が交わる、天と魔とが集まる唯一のところに」

「ん? なんのことだ?」

「おとぼけにならなくても分かりますよ。どれだけの付き合いだと思っているのですか」

「……お前には、勝てんな」

「ふふ、やはりそういうことですか。貴方は厳しいように見えてとてもお優しい。まぁ、だから私は貴方のことを好きになったのですけど。私は最後まで貴方を支え続けます。この先何が起ころうとも、どれだけ貴方を味方が裏切っても、私だけは、ずっと貴方の味方です」


 そう言って彼女は微笑み、今度こそその場を去っていった。

 ……まるで幻だったかのように1つの音も出さずに。

 残ったのは、一人苦悩し続ける王と、王の感謝の言葉だけだった。

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