転異者 Ss
学生の方はもう長期休暇に入ったのでしょうか?
学校のない今だからこそ、出来ることをやってくださいね。
暖かな日差しに照らされながら、ルンルンとした気分で家に向かっていた。
なんて言ったって今日は、人生で初のお給料をもらったのだ。
さて、今日はどこか良いところでご飯を食べたいな。
ん?
人集りが出来ているな。
なんだ?
所々、焦げたような形跡と臭いがする。
一体……?
「あの、なにがあったのです?」
「え? あぁ、なんか爆発があったようでな。何らかのテロ行為として警察が今調べてるんだ」
「爆発……」
浮かれてた気持ちが一気に凹んだ。
なんてもんに遭遇してしまったんだ。
はぁ、なにかまた起きる前に帰ろう。
ふと視界の端に不思議なものが見えた。
でも遠くからで良く見えない。
嫌な予感がする……だけど、確かめなければならないとも本能が言っている。
恐る恐る、そちらへ向かう。
距離が数メートルに達したところでようやくそれが何かがつかめてきた。
「なんだ……これ?」
俺は思わず声に出ていた。
それは、空間の裂け目だった。
裂け目からは明るい光が漏れ出ていて、暖からも冷たさも感じない。
でもそれは目の前にあった。
警察とかに連絡した方がいいのか?
未知の物体……いや、そもそも実体があるのか?
じっと観察していると、突然周りが光に包まれた。
ぐにゃりと視界が歪み、ひどい頭痛に襲われる。
俺は死ぬのか!?
そう思えるほどの痛みと長さだった。
脳が勢いよく揺さぶられるような感覚で、体が拗られ引き伸ばされているような妙な感じがした。こちらの痛みは無い。
徐々に徐々に頭の痛みが和らぎ、視界もはっきりし始めた。周りを見渡すと……森の中だった。
そして目の前には1匹の巨大な銀色の狼が……?
その異様な程の毛並みの美しさからは、逆に恐ろしさまで感じる。
待て、なんだこの状況。
ここはどこなんだ?
地球なのか?
いやまずこの狼なんで見てるの。
美味しくないよ、、、?
ほら、あっちに行って?
こちらに視線を固定して動く気配はない。
(貴様、何者だ。)
え!?
どこから声が!?
しかも脳内に!?
キョロキョロ辺りを見渡していると再び声がかかった。
(私だ。目の前にいるだろ。)
……ゴクリ
「なんで狼が喋っているんだ?」
(質問しているのは私の方だ。言わないのなら噛み殺すそ。)
そう言って狼は鋭く尖った牙を剥き出しにする。
「わ、分かりました! 俺の名前は桜樹 蒼空! 新入社員です!」
(新入社員? 訳の分からぬことを言いおって。)
そうか、ここは地球ではないのか。
でも言葉は分かるんだな。
それとも、そもそも狼だから知らないだけかもしれないが……
(私を単なる狼と言うか。面白いやつだ。)
「え?」
狼じゃないのか?
そしてなんで分かったんだ?
と、二重の意味で驚いた。
(ふん、私はこのマルカナ大森林の主にして、この世界の最高位種、王種の1柱。『冥界の王』の名を持つ賢狼である。)
「バサイユルルフ……」
(意味は冥界の王だ。銀狼 バサイユルルフと聞いたことはないのか?)
「いや、ないです。そもそもこの世界にたった今来たところなんで」
ラノベを読み漁っていた俺には分かる。
これは恐らく、これは異世界転移と呼ばれるものだろう。
つまり、ここは異世界ということだ。
(この世界にきた? どういう訳だ?)
「どういう訳かは俺も知りたいです。でも、俺は本当にたった今、別の世界からこの世界にきたんです」
(……良くはわからんが、まぁこの森に害を成す訳では無いのなら見逃してやろう。さぁ、どこにでも行くがよい。)
急展開だな。
にしてもどこにでも、か、右も左も分からないんだが?
とりあえず宿か。
そこでゆっくり、これからの事を考えよう。
宿ってことは街だよな?
「なぁバサイユルルフさん?」
(さん、だと? この王種の私に向かって……まぁよい。して、なんだ?)
「街ってどこにあるんですか?」
(人間の街か。そうだな、ここからだと1番近いのは首都ルビオラだろうか?)
「どの方角に何キロぐらい歩けば着きますかね?」
キロでいいよな。
(方向はこっちだ。距離は……数ヶ月歩いていれば着くだろう。)
「は……?」
(どうした?)
「あまりにも遠くて……」
(大森林と言っただろう? この森はこのナルタ大陸の一割を占めている。そしてここは森のほぼ中心、仕方ないだろう。)
「食糧もなにも持ってないんですよ? 死んじゃいます!」
(運んでいってやりたいが……そうだ。)
「なにか案が?」
バサイユルルフさんがニヤリと笑う。
(お前を不老不死にしてやろう。そうすればなんとかなるだろう。)
……それってそう簡単にしていいものなのか?
いや、それよりも不老不死って危険な気がする。
「あの……」
(ん?)
「出来れば不老不死にはなりたくないんですが……」
(なに? なりたくない?)
「いやその、、」
顔が近い……
怒らせてしまった?
殺されるのか?
(ふふふ、ふはははは、本当に面白い奴だ。不老不死を欲しがるものは多い。なんなら手に入れるために生贄まで使う。だと言うのに、お前はそれを拒む。くく、実に面白い。)
大丈夫……なのか?
(良いだろう。生きる術を教えてやる。それから街にでも行けばいいだろう。)
急ぎでもないしな。
この案はすごく有難い。
「ありがとうございます!」
(あぁ。最も、お前の魔力量なら初歩的な魔法を覚えるだけでも良さそうだがな。)
「魔法があるんですか!?」
考えてはいたけど、まさか本当にあるとは……
(あるぞ? 魔法もない世界から来たのか……いや、それもそうか。あったら覚えているだろうし、今困ってもないか。じゃあついてこい。私の寝床へ案内する。)
「は、はい!」




