13,修行② 魔物討伐 前編
修行を始めてから4ヶ月が経った。
今日は実践をするらしい。
そして、何故だろう。
何故僕の視界には危険度5の魔物が二体もいるのだろう?
(では、頑張ってください。)
「頑張ってください。じゃねーよ! 前まで、危険度3の魔物でさえ手こずってたんだぞ!」
(今のアレン様なら余裕です。)
「……死んだら出てやる!」
(不老不死ですって。)
前を見る。
一体はクイーンクレスプ。
クイーンの名がついてるから分かると思うけど、クレーっていう蜂型の魔蟲の女王様ね。
クレーは、巣に近づけば近づくほど強力な個体になる。羽を用いた高速移動、立体機動がだいぶ厄介な危険度4の魔物で、大きさは平均3mぐらい?
そんな危なっかしいやつが群れで行動するのは良くないと思う。巣から離れた若い個体は基本的に偵察隊として一体だけで行動している。そんな個体なら恐らく、村の大人なら倒せるんだろう。
というか、たまに村の近くに巣を見つけたら大人たちが集まって壊しに行くから……やっぱりうちの村おかしかったのかも。
偵察隊の若い個体から兵隊、隊長、近衛兵となるにつれどんどん体格は大きくなり最大で5m近くなる。けれどクイーンになると、今度は一気に小さくなって、1m強になる。でも、小さくなったから弱いって訳じゃなくて、動きが洗練されてより素早く、より攻撃的になる。
そして、なんと言っても恐ろしいのがこのクイーンクレスプ、他のクレーを統率してしまいます!
ウルフルのこと覚えてる?
200体で襲ってくるやつ、あれは危険度2。危険度2は村をいくつか潰せるぐらい。
でもクレーは危険度4……町がひとつ潰れるぐらい。
そして群……しかも動きが統制されている。
無理ゲーじゃねーか!
まぁその代わり、群れの規模は200体とかじゃなくて60体くらい。
多いのか少ないのか、どっちだろうねー?
で、目の前の状況。
これクイーン攻撃したら絶対襲ってくるよ?
単純にクイーン一体殺るだけに巨大な蜂60体を相手にしなきゃなんないよ?
鬼畜過ぎない?
反対で動くもう1体を見る。大蛇だ。
こいつはテーナースアと呼ばれる蛇の魔物で、めちゃくちゃデカい。小さいやつでも15mはある。
いや、魔物としては普通ぐらいなのかな?
今見える個体は、恐らく20mは超えてる。
毒で相手を弱らせ、その巨体で絞め殺していく。
毒蛇と大蛇をかけてしまった魔物だね!
ないわー。
こっちの方が殺りやすそうだけど……
僕達の気配を感じたのかとぐろ巻いてしまっていて隙がない。
こいつらを殺れと?
ルイフさんパネェっすわ。
僕はスー達にそんなことさせてないぞ?
ちゃんと適正を見て戦わせてる。
はぁ、余裕なわけないだろうに…
同士討ちとかしないかなー?
離れてるし無理かぁ。
……あぁ、殺るか。
『身体強化・速』
とりあえず身体強化で素早さを上げて、クイーンへ近づく。
単純に身体強化と言っても、それは幾つか種類がある。
自分のスピードを上げるなら、脚に。
自分の攻撃を上げるなら、腕、肩、腰に。
防御力を上げるなら、部分、脚、腰に。
その他諸々、使い分ける必要がある。
今は1番単純な素早さアップ。
「おっと!」
未だにスピードに慣れていなくてちょっと行き過ぎた。
むむ、きついな。
普通に走っちゃダメなのか。
クイーンが気付く。
そして、クレー達を向かわせてきた。
あぁ、多いなー。
全部落とせるかな?
やってみるか!
『氷の礫よ、敵に降り注げ』
空気中に氷の礫が作られていく。
これを、こうして、ここを、こうと。うん、ムズい!
そんなに沢山は要らないから、サイズを大きくして100個ぐらいにしてみたけど、なかなか骨が折れる。まあ、ある程度出来ればいいかな。
個数150の大きさは1.5倍!
さあ、撃ち落としてやれ!
氷の礫が一斉にクレーへと降り注ぐ。
しかし、殆どが避けられる。
なんでだ!
どうしてこうなった!?
……ホーミング機能いるってことだよね?
今の僕には無理じゃね?
じゃあどうする?
んー。
考えているうちに、彼らがもうすぐそこにまで来ていた。
早くね?
魔法の射程範囲には入るよう近づいてはいたけどさ。
んん? 早い?
いいのあんじゃん!
『光の束よ、敵を射抜け』
相手が避けるんだったら、避けられない速さで当てればいい。
単純明快、脳筋プレー。
クレーが次々と光線に当てられて落とされていく。
ククク。
これなら、いける!
…チクッ
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」
背中にとてつもない痛みが走ると同時に反射で叫んでしまった。恐らく、テーナースアにも気づかれたかもしれない。
そんなことよりさ、刺されたァ!
おっきい蜂に! 刺されたァ!
痛い! 死ぬ!
……あっ、死なないんだ。
なんか怖いなこれ。不死者かよ!
いや不死者じゃん!
『光よ、傷を癒せ』
みるみると傷が塞がっていく。
「あいつめ! 絶対許さん!」
『闇よ、敵に死を与えよ』
上空へと逃げた一体のクレーもとい、僕を刺した張本蜂を、闇の霧が包んでいく。そして霧が晴れるとそこには、死骸すら残っていなかった。
いやあ、死を与える系統ってヤバいな。
特にこの闇!
火も灰すら残らないけど、あれは空気中に物質が残っているからまた別。
この闇属性は、吸収の属性。
だから、吸おうと思えばなんだって吸えてしまう。そして、自分のエネルギーに変換。
……今みたいに、命すらね。
逆に光属性は、放出の属性。
つまり、こちらは生命を吹き込むことすら出来る。
さっきの治癒魔法はこの光。
ちなみに聖術の治癒はまた違った性質を持っている。
この生死に関した技は超高難度で、僕も今初めて使った。
おっと、まだ戦闘の途中だった。
なんだかんだで残りのクレーは12体にまで減っている。
いけるな!
跳ぶ。
クレーが僕を中心に集まってきた。
『剣よ浮かべ』
自分の剣を魔法で操る。
そして、自分の周りを回転させる。
……素早く!
もっと早く!
どんどん早くなっていき、徐々に旋風が巻き起こり始める。
まだ……もっともっと!
更に早くなり、竜巻となる。
きた!
剣によって生まれた竜巻は、巻き込む物を全て切り刻んでいく。それはクレーも例外ではなく、12体全てが地に落ちた。
「どうだ! 『新技:ソードトルネード』は。カッケーだろ!?」
と、誰も聞いていないのに自慢する僕。
なかなか良い技だと個人的に気に入っているんだ。
まぁ、だいぶ集中力使って疲れたけどね……
クイーン?
あぁ、あいつはクレー達任せにしてたから離れてて、巻き込まれることは無かった。一緒になってくれれば楽だったのに。
じゃあ、最後の仕事だ。撃つか。
『光よ、……』
ドスッ!!
「え? なに?」
魔法を唱え始めた途端、お腹に大きな衝撃が走り、気がついたら地面の上に仰向けになっていた。
「いった! ほんとなんだ!?」
ドンッ!!
立ち上がったと思ったら、今度は背中に衝撃が。
だが今度は倒れる前に魔法を発動する。
『身体強化・防』
あっぶねー、ギリギリ耐えた。
……で一体何が?
顔を上げると目の前には、先程まで遠く離れていたはずのクイーンクレスプがふわりと浮遊していた。