0,アレン
陽が落ちかけ、あたりが真っ赤に染まり始める頃。山に囲まれたひとつの村─ガスティグ村─の広場でアレンは、1人の老年の語り部の話を他の子供たちと聞いていた。
広場は、小さな民家が数軒建つ程度の土地があるだけであり、他になにもない。
語り部は長く伸ばした自分の髭を少し撫でる。そして、老いを感じさせない切れ長のその瞳で周りを見渡し、また次の話を始めた。
アレンは14歳。今度の成人の儀式を乗り越えれば立派な大人の仲間入りだ。
茶色の目に黒々とした髪。まだ幼い雰囲気は残るものの、普段の山登りで足腰はそれなりに鍛えられ、ややたくましい体つきをしている。
彼は子どもたちの輪から抜け出し、ため息を吐きながら、とぼとぼとハーカバへと入っていく。
ハーカバは、ウルノメリア大陸北方に聳える巨大な山だ。幼少期からハーカバを訪れている彼は、村の者の中で一番この山を理解していると自負している。
最も危険がないというわけではなく、魔物も出る。更に、山頂に近づくにつれて環境は厳しくなり、魔物達もそれに比例して強くなっていくため、非常に過酷な地なのだ。
そのため、悠々と山道を歩けるのは村の中でもアレンを含め数少ない。
「あれ? こんなとこあったか?」
けもの道を二刻ほど歩いた頃、アレンはふと足を止めた。目の前には大きく口を開けた洞穴が見える。
いつもの道を歩いていたつもりだったが、見覚えのない洞穴を見つけたことで迷ったのかと思い、僅かな不安を覚える。
ひとまず中を確かめようと、彼は洞窟におそるおそる近づいていく。
覗くと祠のようなものがひとつ、奥に置かれていたのが目に入った。そこから発せられている、仄かな優しい緑色の光が、天井や壁を照らしている。
アレンは洞窟内に1歩踏み入れ、素早く飛び退く。が、特に何も起こらない。周囲も確認し、安全を確かめると、ゆっくりと祠の方へ歩を進める。
そして、その祠に祀られていたのはひとつの玉だった。
次回からはアレン視点で進行していきます。