神と呼ばれた者たち
遠くから太鼓の音が聞こえていた。
「春祭りか? 人間は暇つぶしが上手だな」
ふんと呆れたように言う影がある。
樹齢何年か分からない大きな木の中程のぽっかりと空いた穴に二つの影があった。ひとつは人型で、もうひとつは人の半分くらいの大きさで楕円の形をしていて、干草の上の横たわっていた。
「いいじゃないかやることがあって。俺たちのやることといえば日向ぼっこくらいだ」
「何かしようと思わないからだろ。しようと思えば何でもできるさ」
「子孫を増やすことはできないだろ。生殖機能がないんだから」
「死なない俺たちには必要ないことだろ」
「その代わりにあるのが仲間を増やすことができることかもしれないが」
「はっ、仲間を増やすなんて冗談じゃない。俺たちの体になりたい人間なんてろくなもんじゃない。その結果がこの壊滅状態じゃないか。残ったのは俺たち2人だけだ。おい、お前もしかして、仲間を増やすなんてことをしたのか? その生体エネルギーのひどい減少はそのためだったのか? 」
人型の影が揺れていた。
「仲間を増やすつもりじゃなかったんだよ。瀕死の人間を助けただけだ」
「はあ? 何やってるんだよ。人間なんて下等な生物は放っておけばいいだろ」
「下等だとは限らないだろ。俺たちにはできないことができるんだから」
「生殖能力がそんなに魅力的か? それであいつらを認めたわけか? まだあと何十年も動けるはずのエネルギーを失うほど!」
人型が声を荒げる。
「日向ぼっこを邪魔されたんだ」
「ほら、するのはやっぱりろくでもないことじゃないか」
「ちょっとからかいたくなったんだよ。かわいい恋人同士のようだった。怪我してる男を助けてくれたらなんでもするって女が言うんだ。自分の命と引き換えだと知ったらどうするのか気になったんだ」
「ふん。そんなやつほど大事な時に逃げ出すもんだ」
「女はその気になったみたいだが、男が止めた」
「へえ」
「他の方法を探すと言っていたよ」
「ほう。で、その助けたやつは今どこにいるんだよ」
「人間に戻った」
「えっ? 本当にそんなことできるのか? 俺は人間の血を浴びてまだらの体でのたうちまわって死んだやつしか知らないぞ」
「涙が媒介になったんだ。媒介にするものによって、痛みが変わるのかもしれない。涙は思いの結晶だろ? 」
「お前いつからそんな詩人になったんだ」
「すごく綺麗だったんだ。ゆっくりと動く光の螺旋が人間を形取っていくんだ。見とれていた」
「そんなことしてるから、片足がサナギになりかけて動けなくなってるんだ。俺が見つけなかったらどうするつもりだったんだ。そのままサナギになって鳥にでもつつかれたら一貫の終わりだぞ」
「はは。マグマにでも溶かされなきゃ絶えない再生能力も鳥一羽にやられるとは冴えないもんだな」
「冗談言ってる場合じゃないぞ」
「それでもいいと思ったんだ」
「は? 」
「何のために生きてるんだと思ってさ」
「俺を一人にするつもりかよ。そんなことはさせないぞ。そろそろおしゃべりも終わりだろ。お前は再生することに神経を注げよ」
「なあ、俺が再生したら旅にでないか? どこかに仲間がいるかもしれない」
「再生してから聞くよ」
「ああ。しばらくの別れだな」
太鼓の音は鳴り響いている。
木の洞穴の中では静寂が訪れた。
Fin.
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