表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の婚約者は  作者: 透明な石
4/8

ダンスが好きです。

私の婚約者は、ダンスが好きです。


パーティーの最初と最後の曲は私と踊ります。

彼にエスコートされながら、会場の中央で王家の方々と一緒に踊るのです。紳士的にリードする彼の姿に会場中の女性が見とれています。その中に一人、夜の帳でもひときわ輝く美しい髪を持つ少女がいました。


普段ならば、最初のダンスが終われば二人で挨拶に回り、それぞれ数名の方と踊ったり話をして過ごす。そして、最後の曲が流れ始めれば、彼はご丁寧にも私の手を取り、ダンスの申し込みをする。


今日は、最初の曲が終わると彼の友人の一人がそっと彼に耳打ちする。

彼はひどく驚いた顔をして、戸惑うように私をみる。

「私のことでしたらお気になさらずに」

「・・・しかし、」

「ご安心を、今夜は従兄弟のパトリックもおります。殿下はやるべきことをなさってください」

「そうか・・・」

「私は殿下を信頼しております」

未だに躊躇している彼を友人がせかす。

「すまない」

そういって、彼は私に背を向けて走り出す。

謝る必要なんてない。

私は、彼を信頼している。

この国を担うものとして、正しい選択ができると。


「リリア姉さん」

「あら」

振り返れば従兄弟が不敵な笑みを浮かべて後ろに立っていた。

「早いわね」

少し嫌みを込めていうと、彼はゆっくりと私の隣にきた。

「姉さんが飲み過ぎて踊れなくなってないか確認さ」

もっていたグラスをみれば、いつの間にか空になっていた。幾分か酔いが回っているのを感じるが、何の支障もない。

「無様な姿を見せた方が、おもしろい劇になるかしら」

婚約者がパーティの途中で抜け出してしまったのだ。表だって口にするものはいないが、視線を感じずにはいられない。

「おもしろい劇?必要なのは英雄譚。後生まで伝えられる美しい劇さ」

「そうね・・・」

従兄弟は私のからになったグラスを受け取ろうと、顔を寄せる。

「おわったようだ」

その言葉に目線だけ、窓辺に向けると、闇夜の中を男女が走ってくるのが見えた。彼女のドレスは泥で汚れており、いくつか引き裂かれているようだ。そして、彼女の肩には、王家の紋の入った上着がかけられている。


「やはり僕は子供だね。劇は見ている方が楽しい」

「私もそう思っていたけど、やってみれば刺激的で嫌ではないわよ」


ぼろぼろのドレスでは、パーティー会場に戻れないのだろう。

躊躇する二人にかまわず、曲が始まる。


「せっかくの舞台じゃない。練習だと思えばいいわ」

私が手を差し出すと、従兄弟は恭しい礼をしてその手を取る。


きらきらと輝く会場をしばらく二人はみていた。

いくつか言葉を交わすと、ゆっくりと手を取り、つたないながらも楽しそうに踊り始めた。


私のやるべきことは土台の一端だろう。この土台ができあがった後は、彼やこの従兄弟が土台の上に作り上げていくのだろう。

だが、私はなにを作り上げようとしているのか知らない。知る必要がないのだ。

「次は貴方たちの舞台よ」

励ましたつもりでいったはずなのに、なぜか従兄弟はつらそうに顔を下げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ