次にこの国を治める方です。
私の婚約者は、次にこの国を治める方です。
父親にそっくりなアイスグレーの瞳に、まだ幼さは残るものの鼻筋の通った精悍な顔立ちに、男女問わず国民に愛されています。
かくいう私についてですが、まぁ、時期国王の妻に奉り上げられる程度の家柄を持つものです。
婚約者の一つ上で、昨年学園を卒業し家の仕事を手伝いながら、王子の婚約者として勉強をしています。
政略結婚ということ以外思いつかない関係性の中で、彼は学業の傍らに体裁の為に私を訪れ、私は体裁のために彼を迎える。
「殿下におかれましては、ご多忙の中当家に足を運んでいただき、まことに恐悦にございます」
「リリア嬢、それは夫になるものとして当然のこと。僕こそ君の時間を奪ってしまって申し訳ないと思う」
淡々と婚約者どうしにしては味気ない言葉を交わしている間に、侍女がお茶の用意をすませ、部屋の隅に下がった。
「君の好みににあうかわからないが、プレゼントを持ってきたんだ」
そういうと、彼は後ろに控えていた男に手を差し出す。すると、後ろの男はなにもいわずに、小さな箱を彼に渡す。
「それは?」
彼は箱を開け、私に見せる。
「ああ、新作を取り寄せてみたんだ」
きらきらと光るブレスレットを受け取る。
「これは、西の都といわれるスイストリアで一番と評価されているスタッチアーノによるものですね。細かな装飾とデザイン性は他のものとは一線を画していると。実に、すばらしいものです。ありがとうございます」
そう答えると、彼の思い通りの返答だったのだろう、小さく頷かれた。
「君に喜んでもらえてうれしいよ」
私もその言葉に小さく頷く。出番の終わったブレスレットは箱に片づけた。
この、何の感情も生み出さない儀式を私と彼は続けている。
そっと窓に移る自分の姿をのぞく。
家柄以外に特に述べることがない女がそこにいた。
美貌も才能もない、これと行った特徴のない女だ。
本来であれば、彼の妻となるべき人間は他にいる。
同世代の尊い血をもつ女性は多々いる中で、私が選ばれた理由。
彼が私に恋することがないから
「・・・あ」
どうやら本当に気が抜けていたのだろう、カップが指からするりと抜け落ちていった。
茶色の液体がドレスにしみこんでいく。大量に残っていたわけではないが、じわりと広がる熱に皮膚を焼かれる感触がする。
「リリア嬢!!」
彼があわてて、私の側に駆け寄ってくる。その背後から、私の侍女もかけだしてくるのが見えた。
「・・・もう少しの辛抱でございます」
私の側でかがんでいる彼だけに聞こえるように。他の誰からも、聞こえないように。唇から悟られないように。
「すべてがうまくゆきます、必ず」
彼は目を見開いて私を見つめていた。