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独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第九章 第三都市アルターラ
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自我

「自我が無い?」


 俺はユリアーナの言葉をもう一度繰り返す様に質問した。


「正確には自我が無いように見えるほど、自分と言うものが無い人だったらしいよ」


 俺の問いかけにユリアーナはもう一度答える。自我が無いというのはソフィーの兄の事だ。


 ソフィーが両親を失い、兄と生き別れになった経緯を聞いてからしばらく後、俺とユリアーナはアルターラの街を散策していた。


 これは単なる散歩ではなく、これから暮らすことになる街を少しでも知っておいてはどうか?という、エレオノーレさんの提案に従った散策だ。エレオノーレさんはソフィーと一緒にお留守番をしている。


 それと街を回りながらティルデ達の情報収集も行う。と言うか、こっちが本来はメインだけどな。


 そしてその散歩中に、ユリアーナがソフィーから聞いたという、彼女の兄の情報のシェアを行っている所だ。


「例えば、シンちゃんがお腹すいたとするよね」


「はい」


「この場合、ソフィーに頼むか、もしくは自分で何か作ったり買ったりするよね」


「まあそうですね」


 俺の場合自分でも料理出来るので、ちょっとした物をぱぱっと作ってしまうかもしれないな。


「でもソフィーのお兄さんは、誰かがご飯を食べようと言わない限りご飯を食べないし、食べたいと意思表示もしなかったらしいの」


「え?お腹がすいててもですか?」


「うん。そもそも、お腹がすいてるのかどうかもわからなかったって」


 なんだそりゃ。犬や猫だって腹が減れば、わんわん吠えたりにゃーにゃ鳴いたりするぞ。それさえもしないって事か?


「どこかへ行きたいとも言わないし、欲しいものがあるかどうかもわからない。そしていつもニコニコ微笑んでいるような人なんだって」


「なんだかよくわからない話ですね」


 ユリアーナの話を要約すると「自分からの意思表示はほとんどなく、いつもニコニコ微笑んでいる人」という事になる。


 これじゃあ単なる良いひとじゃねーか。でもそうではないんだよなあ。妹のソフィーが自我が無いっていうほどだし、俺達じゃ想像もできないような感じだったんだろう。


 そしてそんな、言い方は悪いが毒にも薬にもならないような人物をハイランド王国は無理やり連れ去った。


「しかし自我が・・・希薄・・・とでも言っときましょうか。なぜそのような事に?」


「それはわからないんだって。ソフィーが物心ついた時にはそんな感じだったらしいよ」


「もしかして、彼が適格者かもしれない事が関係してたりしますかね?」


 俺とエレオノーレさんで話した、ソフィーの兄が適格者かもしれないという話は、すでにユリアーナとも共有している。


「いやあどうだろう。今までにそんなケースは見た事ないよ」


 んー、もしかしたら転生した事が影響を及ぼしたんじゃ?と、一瞬考えたんだが、どうもその可能性は低いのか?


「あ、でも・・・」


「何か思い当たることがありますか?」


「あくまでも仮定の話しなんだけど。シンちゃんって、ハーフって話をしてたじゃない?澤チンと話し合いをしたときに」


 俺がハーフってのは、幻想神と現代神がせめぎあった末に、俺がこの世界に転生してきたって意味の事だろう。以前澤田から聞いた話だ。


「はい、確かに澤田さんはそう言ってました」


「でね?シンちゃんって、こっちに来た時はすでに15歳だったのよね?」


「ええ、元の僕の年齢がネックとなり、15歳の姿が限界だったと聞きました」


 出来れば、俺が日本で読んだ転生物の小説のように、日本での記憶や大人の知識と知恵を持ったまま生まれてきて、しかも膨大な魔力やスキルを持って生まれてきて、この子は凄い!とかちやほやされたかったんだけどな。


「それ、嘘かもよ?」


「へ?15歳でしか転生出来なかったって事がですか?」


「うん」


 嘘ってどういうことだ?そんな嘘をつく理由がどこにあるというんだ?俺がそう考えながら怪訝な顔をしていると、ユリアーナが自分の見解を説明してくれた。


「つまりさ、二人の神のせめぎあいの結果、15歳という中途半端な年齢でしか転生できなかったんじゃないかって話」


「ああ、なるほど!」


 つまりユリアーナが言いたいのは、幻想神と現代神が俺の転生への主導権を争った結果、副作用として15歳の姿でしか転生できなかったのでは?という事だ。


 なるほどなあ、たしかにそれは有り得る話かもしれない。かもしれないけど・・・。


「えっと、それがソフィーのお兄さんの件と何か関係が?」


「ええっ!シンちゃん鈍すぎるでしょう・・・」


 ええっ!なんだよ全然わかんねーよ!


「つまりさ、彼女のお兄さんもシンちゃんと同じ状況で、その副作用で自我が希薄になっている可能性はゼロではないんじゃない?」


「ああっ!なるほど・・・」


 確かに、俺達と同じ年齢で転生しているって事は、その可能性はあるってことだよな。


「シンちゃんって、なんで時々スーパーにぶチンになっちゃうわけ?」


「・・・すみませんね」


 仕方ねーじゃん!大体俺は元からポンコツだったんだよ!日本に居た時も仕事が出来てたわけじゃねーし、今もいっぱいいっぱいですよーだ!


 うん、今の「よーだ」は無しな。俺が使っても全然可愛くねえ。


「何変な顔してんのよ?」


 俺がそんな不毛な思考を巡らせていると、ユリアーナさんからさらなる暴言が飛んで来た。


「ぶさいくなのは元からです!ほっといてください!」


「そんな事言ってないじゃない!」


 そして、そのまま二人でギャーギャー騒ぎながら家路についた。明日は絶対エレオノーレさんと出かけてやる。


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