表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第九章 第三都市アルターラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/149

5年の歳月

 ボフッ!


 ベッドで横になってくつろいでいた俺の顔面に枕が飛んで来た。枕が飛んできた方向を見ると、ユリアーナがペロッと舌を出していた。


「何ですか!?いきなり枕を投げつけるなんて!」


「だって日本の夜は枕投げをするのが一般的な風習じゃない?」


 猛烈に抗議した俺の言葉にユリアーナがきょとんとした顔でそう答える。


 このおねーちゃんは、日本文化に興味津々なこの世界・・・つまり俺にとっての異世界出身の、真っ赤な髪が特徴的なローフィル族だ。


彼女は日本の風習に「枕投げ」なるものが存在する事を知っており、宿に泊まった時は必ず「枕投げ」をするのだとか。


 全くこれだからリア充は嫌なんだよ。この45年間で枕投げなんか一度もした事ないっつーの。枕は俺にとって寝るときに頭を置くものなんだよ。


「そりゃ枕投げはある意味伝統ですが、やるなら巻き込まないで下さいよ・・・」


「ごめんごめん」


 こいつ絶対悪いと思ってない顔だぞ。


 ちらっと横を見ると、エレオノーレさんが俺達を見てくすくすと笑っている。エレオノーレさんもこの世界出身の人だが、ユリアーナと同じく自ら進んで転生者に協力してくれている人間族だ。


 そしてユリアーナと違い、極めて常識人である彼女に、俺は助けを求めた。


「ちょっとエレオノーレさん、黙って見てないで、このお姉さんをどうにかしてくださいよ」


「あら、いいじゃないですか。私もちょっと興味ありますし」


「そうですか・・・」


 最後の砦であるエレオノーレさんにこう言われたら、もうユリアーナを止めるものは誰もいないだろう。そもそもエレオノーレさんも楽しそうに枕投げをしていたしな。


 俺達が今現在何をやっているかと言うと、ロザリア達と別れ、乗合馬車でアスタリータ商店を出発した後、今は街道沿いの宿場町に来ているんだ。


 ここは「バルサナ王国」国境と「フォレスタ王国」の「グリーンヒルの街」そして俺達が目指している「アルターラの街」の中間地点にある。なので、各町からの旅行者や貿易を行う人達でかなり賑わっているんだ。


 ちょうど街道が交わる場所に、誰かが宿を作ったらそれが繁盛したため、他の奴も真似して宿を作りってのが重なって小さな町になったんだって。


 小さな宿場町と言っても、今ではここが故郷と言う人間もいるくらいには歴史があるようだ。馬車の便も多く、多くの旅人や商人などが定期的に集まる事から、この街に住み着いて商売を始める人も多いという話しだ。


 で、この宿場町には「馬車のターミナル」的な場所も有り、ここで各町への馬車に乗り換えたりする。


 俺達の乗って来た馬車も本来の目的地はバルサナ王国なので、ここでアルターラ行きの馬車へ乗り換えることになる。


「ああっ!なんで今の避けちゃうのよー!ずるいよー」


 そんな事を考えていると、ユリアーナの文句が聞こえて来た。とは言っても、それは俺に向けたものではない。


 俺が昼間エレオノーレさんから受けた説明を思い返している間に、ユリアーナとエレオノーレさんが枕投げ合戦を再開していた。なんか楽しそうだな。


 そしてそんな二人を寝転んだ体制で眺めながら、俺はこれまでの事やこれからの事を考えていた。




 現代日本で事故に巻き込まれた俺は、自分を神様だと名乗る存在にこの世界、つまり俺からすれば異世界に召喚され、そしてそのまま異世界の一都市「ハイランド」で暮らすことになり冒険者の学校にも入った。


 そしてそこでそうとは知らずに「適格者」としての素質があるかどうかをテストされ「非適格者」となった。つまり不合格になったって事だ。


 適格者ってのは簡単に言えば、この異世界に混ざってしまった「地球人の血を根絶やしにする」という使命を与えられた者達の事だ。そして俺はそのテストに失格し、非適格者となった。


 非適格者は殺されることを知っていたティルデは、俺をリバーランドへと命がけで亡命させてくれた。しかし俺はそのリバーランドで、貴族の「アルフレート・アイヒマン」に目を付けられ、奴隷として鉱山に送られてしまったんだ。


 そしてティルデとはここで離ればなれになってしまう。その後のティルデの行方も分かっていない。


 しかしどういう運命のいたずらか、俺はそこでリバーランドの王位継承1位のテレジア・ロンネフェルトに気に入られ、貴族の地位を手にするまでになった。


 そりゃあ喜んだよ。俺が考案した「著作権」や「商標権」のシステムが評価されたと思ってたからね。


 でもそれも、俺が「非適格者」だったことから、俺を監視するために近くに置いておきたいというテレジアの単なる意向だったようだ。


 この時点で俺はかなりへこんでいた。ようやく手に入れた居場所が、またもや消えてなくなってしまったわけだからね。


 いつかリバーランドに牙をむくのではとテレジアに疑われた俺は、同じ地球からの転生者である「澤田」や「アリサ」、そしてこの世界の住人ながら転生者の仲間となった「ユリアーナ」や「エレオノーレ」さんに助けられる。


 そしてそこで彼らのこの世界での目的を知ることが出来た。


 その全てに賛同できたわけではない。けれど俺はこの世界が好きだし、違う方向で何とか力になれないかと協力を申し出たんだ。


 そして今は、行方不明となっている俺の恩人「ティルデ」と、ティルデと一緒に行動しているであろう「アリーナ」を探す旅の途中だ。


 こうやって簡単にこれまでの経緯を思い出すだけでも、なんというか、濃ゆすぎる第二の人生を送ってるよな。まだこっちの世界に来てから五年しか経ってないんだぜ・・・。


 日本で生活した40年間なんか、この五年に比べれば無かったも同然のように感じるよ。今になってから、もっとしっかりと生きていれば良かったと後悔する始末だ。


そう、つい最近ここにきて5年になった。


 便宜上、転生した日を誕生日にしたので20歳だ。俺は神様の都合とやらで15歳の姿で転生したんで、この世界では5年しか経ってないけど年齢は20になる。


 なんか変な気分だ。そして日本での生活を考えると、40年+5年で45歳に・・・。ついに彼女いない歴も45年になってしまった。


 まあでも、この世界での出来事の経緯を知った今では、結婚して子孫を残したいという気持ちなんか無くなってしまったよ。


 そういう考え方自体が、俺達が敵対する「幻想神」を利する行為だとしても、その思いは変わらないだろう。


 そう考えると物凄い親不孝者だよな俺。両親がすでに他界しているのが救いか。妹とは元々疎遠だったしな。


「そっか、もう5年経つのか・・・」


 俺は何となくそうつぶやいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=318070502&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ