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独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第八章 森と砂漠の国「フォレスタ」
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未来への投資だよ!

「なんだよ、俺の顔になんか付いてんのか?」


「いえいえいえ、なんでもないです!」


「あ?変な奴だな」


 アスタリータ家に帰ったら、リビングにいたウルバノさんに出くわしてしまい、ついまじまじと見てしまった。

 

「あなたの娘さん女性と付き合ってますよ?しかも濃厚な路チューしてました」


 などとは口が裂けても言えないだろう。

 言ったが最後、俺の命が危機にさらされそうだ。


 しかしそう考えると、リーノの奴、あんなにロザリアの事が好きなのに、報われることは無いわけか。ちょっとかわいそうだな。


 なーんて思うわけがねえ!

 あの野郎、俺にあんなに偉そうな態度取ってた割に、自分は女の子にロザリア持っていかれてるじゃねーか!

 心の中で指さして笑ってやるよwww


「シンちゃん、さっきから顔がキモイ」


「・・・」


 おっと、こんなどうでも良い事考えている場合じゃなかった。


「ウルバノさん、サランドラとの契約書を見せてもらえませんか?」


「あ?それならそこの机の上に置いてあるぞ。でも、今更そんなもんどうするんだ?」


「いや、ちょっと気になる事がありまして・・・」


 俺がそう答えると、ウルバノさんは「そうかい」と言いながら、倉庫へと歩いて行った。


「ねえシンちゃん、ウルバノのおじさんに、さっきの話をしてあげないの?絶対喜ぶんじゃない?」


 ユリアーナが言う「さっきの話」とは、スタンドプレートの注文制に関する話の事だ。

 ロザリアが女の子と路チューしていた話では決してない。


「んー、ここ最近、ずっと最終的にがっかりするような方向に話が進んでいますので、出来れば全部「確定」してからお話ししようかと・・・」


「ああ・・・。そうだよねえ。すっごいがっかりしてたもんねー」


 そうなんだよなあ。ウルバノのおっさん、あれからあんまり元気ないんだよ。

 さすがにこんな事が続いたら、精神面できついだろ。

 なので、話すのは全部終わってからだ。


 さて、俺が調べたいのは、スタンドプレートの店での取り扱いについてだ。

 今回のやりかたでは実際に店舗には現物を置かず、現金での支払いを持って注文を確定。そして、サランドラにスタンドプレートを発注し、お客様へお渡しとなる。

 でも、契約書の中に、店舗での現物の展示や、実際に仕入れてから販売しなければいけないような条文が書かれていたら、今回の案件はアウトとなる。


「どう?」


 ユリアーナが顔を覗き込みながら聞いてくる。その隣ではエレオノーレさんも心配そうに見つめている。


「うん、大丈夫」


「ホント!?」


「ええ」


 契約書の中には、現物の取り扱いや実際に現金での仕入れの強制については何も書かれていなかった。

 ただ単に「取り扱う事が条件」と書かれているだけだ。

 まあでも、これは気休めくらいに考えた方が良さそうだ。

 結局は向こうがどう取るか次第だからね。


 とりあえずこの線で攻めてみたいと思う。

 問題は、フィリッポさん達、つまり営業所にどれだけ権限が与えられているかだ。これを確認しなければ実行には移せない。

 明日、早速サランドラへ確認に行く事にしよう。



◇◆◇◆◇



「注文制ですか?」


「はい」


 次の日、俺とエレオノーレさんとで、早速サランドラ商会へと向かった。

 ウルバノさんには、契約内容に関して細かい所を話してきますとだけ言った。

 朝食時に話したので、となりにロザリアが座っており、ウルバノさんとロザリアが同じ視界に入ることで、俺はかなり動揺してかみかみになってしまった。


「コレナガさん大丈夫?」


 ロザリアが心配して俺をのぞき込んできたが、彼女の顔を見ると、昨日のあれが鮮明に思い出され、さらにどもりまくりのかみかみになってしまった。

 くそっ!これだから、彼女いない歴45年のモテナイブサ男は!


 その後ユリアーナから「シンちゃん昨日、夜遅くまで考え事してたみたいなんで、ちょっと寝不足入ってるみたいなのっ!」とフォローをされてしまった。


 あー、あんな場面を見てもさらっと流せるくらいの大人な余裕が欲しいぜ。


 まあ、それはともかく、今はフィリッポさんに集中だ。


「はい。スタンドプレートは実際に店舗には置かずに、注文が入ってからサランドラへ発注をしたいのです」


「なるほど・・・。つまり、実際に注文が入ってから商品を仕入れたいと・・・」


「はい」


 さすがフィリッポさん、理解が早い。


「可能ですか?」


 俺からの問いに、フィリッポさんは考え込んでいるようだった。

 考え込んでいるという事は、たぶんだけど、出来る余地はあるように見える。


「期間を限定して頂けるなら可能です」


「期間ですか?」


「はい」


 フィリッポさんが、期間限定について説明を行ってくれた。


「まず、我々は本社に定期的に業績を報告しています」


「はい」


「報告は月ごとに、つまり今回なら「秋の月」終了と共に報告を行う必要があります」


「ふむ」


 この世界では、1年の周期は日本と同じ12か月だ。

 

 第一季「初冬の月」「冬の月」「冬終の月」

 第二季「初春の月」「春の月」「春終の月」

 第三季「初夏の月」「夏の月」「夏終の月」

 第四季「初秋の月」「秋の月」「秋終の月」


 大きく分けて、4つのシーズンになる。

 で、今は秋の月、つまり11月ってとこだ。


「それで、アスタリータ商店は「秋の月の4日に再オープンとのことですので、秋の月の月末までは待つことが出来ます」



 という事は、約1か月しか猶予は無いって事か・・・。

 やっぱウルバノさんに伝えなくて正解だったかも。


「帳簿は大丈夫なんですか?」


「そんなもの、私共でどうとでもなりますよ」


「サランドラとの契約書では、取り扱いに関する記述は特に書かれてはいなかったのですが、それでも無理ですか?」


「我々の常識では、取り扱いとは「仕入れて店に置くこと」を意味します。なので、契約書の話は通用しないでしょう」


 フィリッポさんが言うには、本社にバレた場合、先ほど俺がアスタリータで確認した契約書の件をごりおしてどうにかするらしい。

 まあとにかく、今回のオープンに間に合わせることは不可能みたいだ。


「わかりました。ただ、この件は今後新しい取引の仕方として提案させて頂きたいのですが」


「注文を受けてから仕入れる方法ですか?」


「はい。この方法だと、アスタリータのような小規模な個人商店でも、ある程度高価な商品も取り扱えるチャンスが生まれると思うんです」


「ふむ、色々と問題点はありそうですが、検討してみる価値はありそうですね」


「ええ、ぜひともお願いします」


 まあ、とりあえず秋の月いっぱいの猶予はもらった。

 その間も、本社には新しい取引の導入を提案してくれるそうだ。

 秋の月の間に導入が決まれば万事解決となるんだろうけど、そううまくはいかないだろうな。


 なんか考えてみると、あんまり事態は好転してない気がするな・・・。

 まあ、オープンまでだった猶予が秋の月いっぱいにまで伸びたんだし、ここは前向きに考えることにしよう。

 アスタリータの未来への投資だよ!


◇◇◇◇◇



「すみませんでした」


「へ?」


 サランドラからの帰り道、唐突にエレオノーレさんに謝られてしまった。


「えっと、一体何がでしょう?」


「いえ、昨日私があんな提案をしてしまったばかりに、期待だけ大きくさせてしまったみたいで・・・」


 ああ、そういうことね。

 エレオノーレさん、本気でへこんでるみたいだ。


「あの、確かに今回の事だけでみればそれほど大きな成果ではありません」


「ですよね・・・」


「あああちょっと待って!最後まで話聞いて!」


 俺の言葉を受けたエレオノーレさん、泣きそうな顔になっちゃった!

 違うから!そうじゃないから!


「あの!エレオノーレさんの案は、実は長い目で見ると、アスタリータ商店にとってとても有益な案なんです」


「そうなんですか?」


「それはもう!さっきも言いましたけど、普通、アスタリータのような個人商店では扱えないような高価な物も、扱うことが出来る可能性があるわけです!」


 もちろん、色々とクリアしなければいけない問題はあるけどね。だけど、実際に長い目で見ればプラスになるのは間違いない。

 なので俺は、必死でそこの所をエレノアさんに力説だ。


「本当ですか?」


「もちろん!」


「わかりました」


 そういうと、やっとちょっとだけ笑顔になってくれたよ。

 そういや、フィリッポさんとの話し合いの途中から、あまり顔色がよろしくなかったんだよなあ。ずっと気にしてたんだろうね。

 

 よーっし、こうなったら出来る限りの事はやってやるぜ!彼女いない歴45年の童貞おっさんは、こんなブサ男に優しく接してくれる美人のお姉さんの為なら、なんだってやっちゃうもんね!


 とりあえずは、アスタリータ家の皆さんに、サランドラとの取引に関する報告会をしないとな。

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