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独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第八章 森と砂漠の国「フォレスタ」
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戦略会議

「一旦、という事は、店を完全に閉めてしまうわけではないんですね?」


 俺の言葉に最初に反応したのはエレオノーレさんだ。

 他の皆は店じまいって言葉に固まってしまっていた。


「はい。一旦店を閉めますが、準備が出来次第再開します」


 日本でもたまに見る店じまいとか広告入るあれだよ。


「なーんだ、店を閉めるって書いてるから、お店やめちゃうのかと思ったじゃない」


「全くだ。心臓が止まるかと思ったぜ」


 ユリアーナとロザリア父が、安どの言葉を繰り出す。

 いや俺、ちゃんと「一旦」って書いてたんだけどな・・・。まあいいや。


「それにしても、何故一度閉店するのでしょうか?店を改良していくにしても、営業しながらでも可能だと思うんですが・・・」


 そう聞いてきたのはエレオノーレさんだ。


「それに、店を閉めるとなると、その間の収入がゼロになってしまいます」


 続けて発言したのはロザリア母。そしてロザリアが「うんうん」と(うなず)いている。

 まあ俺だって、出来る事なら店を閉めずに改良出来れば良いんだけど、幾つかの理由からその案は消えた。


 一つは、圧倒的に人員が足りない事。

 いや、人はいるが、店舗運営の素人が半分を占めている現状では、とても運営しながらの改善業務は無理だ。

 そして、どうしても一時的に店を閉めたいもうひとつの理由がある。


「大丈夫。それにはちゃんとした理由があります。これからそれを説明しますね。さっきお渡しした計画表を見てください」


 たぶん、閉店のインパクトが強すぎて、皆、その後の展開をちゃんと読んでないと思うんだよね。


「明日以降、最長1週間で閉店セールを行います」


「閉店セール?」


 ロザリア父が怪訝(けげん)そうな表情で聞いてくる。

 もしかしたら、こちらの世界、もしくは国では馴染(なじ)みが無いのかもしれない。


「はい。現在、アスタリータ商店内にある在庫を原価もしくは原価割れ、つまり仕入れ代金ギリギリの所で、できるだけ安く販売してしまいます」


 ようするに、100円で仕入れたものを100円前後で売るって事だ。


「え?ですが、原価割れギリギリでは利益が全くでないのではないですか?」


 再びエレオノーレさんが聞いてくる。

 確かに原価ギリギリでは利益は出ないだろう。

 だけど、今回のセールの目的は利益を出すことではないんだ。


「はい。ですが、このセールの目的は利益を出すことではありません。現金を回収するのが目的です」


「現金を回収ですか?」


 今度はロザリアさんが俺にそう聞いてくる。


「はいそうです。えっと、ウルバノさん、店頭で売れ残った食品は最終的にはどうなります?」


 俺はロザリアさんに簡潔に答えてから、ウルバノさんに向き直る。


「売れ残りか?そうだな・・・。まあ、農家の肥料用に格安で譲るか、それでも余った場合は残念ながら廃棄、又は我が家の食卓に並ぶ」


「ようするに、全く利益にならないどころか、マイナスになる可能性もあるわけですね」


「そうだ」


「でしたらやはり、最悪原価割れでも良いので販売して、出来るだけ現金は回収したほうが良いと思います。そしてそのお金で再開店後の商品を仕入れることにしましょう」


「なるほど・・・。じゃあ全商品を原価で売るんだな?」


「いえ、原価で販売するのは、消費期限・・・つまり、腐る可能性のあるものだけです。木や石、鉄で出来た商品は売れ残っても、再開店後にも販売が可能ですから」


「そういうことか!了解した!」


 食品なんかはさっさと現金に変えて回収したほうが良いんだ。

 ほおっておけばその分マイナスだけど、最悪原価割れでも現金に変えた方が絶対良いに決まっているからね。


 そして今度は、エレオノーレさんとロザリア&母の疑問に答えていく事にする。


「それからえっと、営業しながらでも改良作業は出来るのではないかという質問ですが、出来るか出来ないかで言えば、強いて言えば出来ます」


「それではコレナガさんは、出来るのにあえてそれをしないという事ですか?何か理由があるんですね?」


 エレオノーレさんが俺にそう尋ねてくる。

 なので俺はそれに丁寧に答えていく。

 

「まずは人員が足りません。アスタリータ家の人達はともかく、僕ら3人は素人です。営業しながらなんて無理ですよ」


 そういうと、アスタリータ家の3人は「あー」という顔をする。

 素人が片手間で出来るような業務ではない事をよく知っているからだろう。


「そしてもう一つ、これは「驚き」の問題なんです」


「驚き?」


 今のはユリアーナだ。


「はい。店を開けたまま改良してもお客さんにはわかりにくいんですよ。ゆっくりと徐々に店内が変わっていくので。でも、ある日突然お店が変わってたら驚くでしょ?」


「あー、それは確かにびっくりするかも!」


「そしてそれは、街の人達の会話の中でも話題に上るはずです」


「ああ、つまり、それだけで宣伝になるんですね?」


 エレオノーレさんが俺の説明を補完してくれた。


「その通りです。ただしやりすぎると、飽きられる可能性大なんですけどね」


 まあ、アスタリータ商店の場合、これを失敗したら次は無いんだけど・・・。


「で、店を閉めている間の収入がゼロという問題ですが、このためにロザリアさんとユリアーナには狩りを頑張ってもらっていたし、僕らも微力ですがクエストを受注していました。予想以上に資金が集まったし、これは問題ないと思います」


「ああ!それで3週間分のお金を貯めろって言ってたんだ?」


 毎日狩りをやってくれてたユリアーナが反応する。


「そうです。実際3週分以上のお金が集まったし、再オープンに3週間もかかるとは思えないので、一応、念のために多めにお願いしたんですが、ユリアーナとロザリアさんが頑張ってくれたおかげでかなり余裕が生まれました」


「でっしょお!?私達頑張ったもんね!」


「そうですね。ユリアーナさん頑張ってました」


 ロザリアの言葉に、ユリアーナは超ご機嫌だ。実際かなり頑張ってくれたんだろう。


「なるほどな、あんたがやろうとしている事は大体わかってきた。じゃあこの後は、カペリ商店から商品を仕入れて、店の改良をして再オープンてとこか?」


 ウルバノさんが俺に質問してきた。


「そうですね。ですが仕入れに関しては、今よりも安い価格を提示してください」


「カペリにか?だがそれは一度断られたんだぞ?」


「断られても構いません。もちろんOKをもらえたらそれはそれで良いんですが、断られた場合、無理に交渉しないで下さい。でも、常識的な範囲内での安い価格の提示をお願いします」


「断られても大丈夫なのか?」


「はい。次回からは、サランドラ商会との取引も、ウルバノさんにはお願いしたいんです」


「サランドラ?いや、それは構わないが、値段的にはそう変わらねーぞ?」


「構いません。ただし、サランドラとの交渉には俺も参加させてもらいます」


 俺がそう言うと、ウルバノさんが何か言うよりも早く、ロザリアが口を出してきた。


「お父さんそれがいいよ!お父さんが交渉すると、大体無茶苦茶になっちゃうし!」


「・・・む」


 ウルバノさんは何か言いかけたが、黙ってそっぽを向いてしまう。

 恐らく、心当たりがあったんだろう。まあ、このおっさんを見てるとなんかわかる気はするわ。


 サランドラ商店は、俺の予想だと恐らく、少しくらいの値引き交渉には応じると思う。 

 何故かと言うと、カンパーナストアの登場により、結構な数の個人商店が店を畳んだからだ。

 という事は、それだけ品物の卸先も減ったという事だ。

 カペリ商店はその分をカンパーナへの出荷で補って余るくらいだろうけど、恐らくサランドラは客が減っただけだと思うんだ。

 なので、俺の予想では少しくらいの値下げなら食いつくと思う。

 最悪、オープン時の取引だけでも値下げには応じてくれるだろう。


「さて、とりあえずやらなければいけない事は以上です。ウルバノさん、他になにかありますか?」


「いや、特には無いな」


「そうですか。それでは、明日からのセールに備え、準備をしましょう。まずは価格表示の変更をやりましょうか」

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