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独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第七章 幻想神と現代神
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二度目だからこそ

 転生者とこの世界についての話は、澤田から一通りの説明を聞くことが出来た。

 だからと言うわけではないが、あまり根詰めて話をしても仕方ないという事で、一旦お開きとなった。

 俺としても聞きたいことはまだまだたくさんあるんだけど、正直今日はもういいかも。

 色んな話が飛び出してきて、正直頭がパンクしそうだぜ・・・。


 俺達が応接室から出てくると、アンネローゼが心配そうに待っていた。

 俺の疲れ切った顔を見るや、すぐに駆け寄って来て俺の心配を始めるアンネローゼが可愛すぎてつらい。


「大丈夫ですよアンネローゼ。ちょっと長い話になったので、疲れただけですから」


「そう・・・ですか?」


 まあ、嘘はついてないよな。

 実際、夕方前から話し始めたってのに、すでにとっくに太陽は沈んで外は真っ暗だよ。

 5~6時間は話してたんじゃないかな。


「あれ?そういえばアンネローゼは、食事はどうしましたか?」


「大変申し訳ないとは思ったのですが、私は先ほど頂きました」


「そうですか、なら良かったです」


 自分の事に必死になりすぎて、アンネローゼの事をすっかり忘れていた。

 まあでも、夕食までもらったのなら安心かな。


「ほらね?あなたが先に食べてもご主人様は何も言わないでしょ?」


「ん?何かあったんですか?」


 何かあったのかと聞いてはみたものの、たぶんアンネローゼが、「ご主人様が食べておられないのに、私だけ頂くわけには参りません!」とか言ったであろうことは、簡単に想像できた。

 アンネローゼを連れてきた女の人も、苦笑いをしてたしな。


「実はアンネローゼさんが、「ご主人様が食べてないのに私だけ食べるわけには行きません」と仰ってたんです」


 あーやぱっりか。

 飯くらいとっとと食べておけばいいのに。


「なので、「あなたが食べてないと知ったら、ご主人様は心配されるのでは?」とお話ししたんです」


「そうでしたか。アンネローゼ、こういう場合は、遠慮なく先に食べててください。ずっと待ってるって知ったら、そっちの方が心配になりますからね?」


「・・・はいご主人様」


「あなたも本当にありがとうございました。えっと・・・」


「エレオノーレ・ブライトナーです」


「ありがとうございました、ブライトナーさん」


「いえいえ。それでは、シン・コレナガ様のお部屋をご案内しても?」


 ブライトナーさんは、俺へ向いていた視線を澤田に移して確認している。


「ああ、そうしてくれ。あんたも今日はゆっくり休んでくれ。ここ数週間、ろくに休むことも出来なかっただろう」


「そう・・・ですね」


 そして俺とアンネローゼは、それぞれ用意された部屋に案内された。

 途中ユリアーナが「一緒の部屋が良かった~?」とにやにやしながら言ってきたので、全無視してやった。

 なんか文句を言ってたけど、そんなの知らんわ!


 そして今俺は、自分に用意された部屋の中のベッドで考え事をしている。


 澤田からろくに寝てないだろうと言われて、俺はここ数週間の事を思い出していた。

 マルセルに襲われてからと言うもの、リバーランド軍兵士による見張りが常時付くことになった。

 もちろんセキュリティーの面では完ぺきだったんだが、自分達がどうなるのか全く分からない状況では、ゆっくり休むこともままならなかった。


 そういう意味ではここもあまり変わらないが、少なくとも彼らの言葉を信じれば、俺達は敵同士ではない。

 北リップシュタート領主館内にある建物だし、セキュリティー面も完璧だ。

 窓の外を見ると、リバーランド兵が数分おきに領主館の庭を巡回している。

 そうやすやすと、ここまで敵が入ってくることは無いだろう。


 さっき澤田から飯を勧められたんだが、正気さっきの話で俺はお腹いっぱい。

 とてもじゃないが、飯何か食う気がしねえ。


 ただ、これまで謎だった事が明らかになって、ちょっとは胸のつかえが取れた感はあるな。

 これまでに分かったことと言えば・・・。


・適格者とは、転生者とその子孫を根絶やしにする為に育成された地球からの転生者

・俺を転生させたのが幻想神であること

・澤田達の目的は、この異世界に自由な文化を根付かせること


 簡単に言えばこんな所だろうか?


 逆に、新たな疑問も湧いてきてしまった。


・澤田がこれほどに詳細をしっているのは何故か

・地球にしか存在しないであろう技術をどうやって異世界で展開しているのか


 これは推測だが、澤田が詳細を知っているのは、恐らくは現代神と言われる神に聞いたのではないだろうか?

 何しろ、この世界に転生してきたときに、俺は神と名乗る奴と会話している。

 だったら、澤田が同じように神から詳細を聞いていたとしても不思議じゃないな。


 むしろ不思議なのは、どうやって地球産の技術や食物を異世界に持ち込んだのかだ。

 転生した時にたまたま所持していたなんて、そんな都合の良い話なんてあるわけないしなあ。

 これも神様から送ってもらったのか?


 まあどちらにせよ、地球の文明や文化の異世界への浸透は、精神面と物資面の両方で行われてるんだろう。

 今は流通していないみたいだけど、そのうち茶葉なんかもテレジアあたりを使って流通させるんだろうさ。


 そうやって、最初はリバーランドを、そして最終的には異世界全土に地球の文化を広げる予定なんだろう。


 そして・・・そして、その後、澤田達はどうするんだろうか?

 地球と同じような環境を作り上げて、ここに住むのだろうか?


 澤田の話によれば、幻想神が適格者として選んだ地球人は、地球での生活に絶望している奴らばかりだと言っていた。

 なのに、この異世界を地球のようにしようというのだろう?


【コンコン】


 そんな答えも出るはずの無い問答を頭の中で繰り返していると、部屋のドアがノックされた。

 こんな時間に一体誰だ?


「えっと、どなたでしょうか?」


「転生者のアイドルユリアーナでーっす」


「あ、間に合ってます」


 そう答えてから、俺は再びベッドの上で考えを巡らせ始めた。


「ちょっと!可愛い女子が部屋を訪ねて来たのよ!?ちょっとドキドキする所でしょ!」


「ソウデスネ」


俺の返事を聞かずにどかどかとユリアーナが部屋に入って来たので、俺もちゃんと返事をしておいた。


 いやもう、マジで俺疲れてるんだけど、何しにきたんだよこの人・・・。


「うわー、なんて棒読み・・・。せっかく差し入れ持ってきたのに~」


「差し入れですか?」


「じゃーん!」


 そう言いながらユリアーナが差し出したのは、何かの液体の入った水差しだった。


「これは・・・なんでしょう?」


「はちみつレモン水だよ」


「・・・ホントに?」


 ユリアーナが俺の言葉にうんうんと頷く。

 おおおおお、まじかああああ!

 まさか異世界ではちみつレモン水が飲めるとは思わなかったぜ。

 いや、実はレモンはあるんだけど、はちみつが無いんだよ。

 砂糖じゃなんか違うしな。


「えっと、頂いても?」


「もちろんだよ~、その為に持って来たんだしねっ」


 ユリアーナのその言葉を聞いてから、俺は水差しに入ったレモン水をコップに注ぎ、少しだけ口に含んだが、結局我慢できずに一気に飲み干しちまった。

 うっめえええええええええええええ!

 あれだ、自分で思ってるよりも体と頭が疲れていたんだろうな。

 全身に染み渡るようだ。


「美味しい?」


「はい!とても!」


「良かった」


 ユリアーナはテーブルで頬杖を突きながら、超ニコニコで俺を眺めている。


「ねえ、シンちゃん」


「なんでしょうか?」


 俺がレモン水のおかわりをしようとしている時だった。


「あんまり、急がなくても良いんだよ?」


「へ?」


 ユリアーナの突然の言葉に、俺は一体何のことなのか全くわからなかった。

 急いでる?俺が?何を?


 俺が本気で分かっていない無いのを見て、ユリアーナがさらに話を続ける。


「なんて言うかね?シンちゃんの行動を見ていると、色んな情報を手に取るために、かなり無理しているように見えるのよ」


 ユリアーナが言うには、俺が、より短い期間で色んな情報を収集しようと、焦っているように見えたそうだ。


「私達はシンちゃんに、なんらかのアクションを早急に起こすように求めたりしないし、もっとのんびりしててもいいんだよ?ここなら身の安全も保障されるし」


 なるほど。どうも彼女は、その話をするために、わざわざレモン水を作って持って来てくれたらしい。

 ホント気を使わせているなあ。

 けど、俺にはゆっくりしている暇なんてないんだよ。


「お気遣いありがとうございます。ですが、私はのんびりとしているわけにはいかないんですよ」


「どうして?」


 どうして?・・・か。

 その問いに答えるなら、俺は一度、地球での生活で失敗しているからだ。


「ユリアーナは、地球人の寿命が80年ちょっとって話は知ってますか?」


「あ、うん!エルフとかの長寿族はいないんだってね」


「そうですね。だからこそ、のんびりできないんですよ」


「どういうこと?」


「僕は、地球での人生を一度失敗しています。地球で生きた40年間、僕は無駄に過ごしてきました。なので、二度目のチャンスであるこの世界で、1秒たりとも無駄にはしたくないんです」


 たぶんこれは俺だけじゃないぜ。

 澤田だってそうだろう。

 じゃなきゃ、俺達の北リップシュタート到着と同時に話し合いなんてしないさ。

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