現代神と幻想神1
「まずは、さっきのあんたの質問に答えよう。かなり長い話になるぜ」
さっきの俺の質問っていうのは、なぜ自分が転生してきたのかって質問だ。澤田から転生の条件は聞いたが、転生が行われる理由は聞かされていない。
「話はかなりの過去に遡る。それこそ、この世界の住人が誰も生を受けていない頃の話だ」
澤田の語った転生に関する話は長く、そしてにわかには信じがたい話しだった。
遠い昔世界は一つだった。
そしてそこには二人の住人がいた。
二人は今ある以上の何かを必要とせず、今いる以外の誰かを必要ともしていなかった。
しかしある時、その中の一人がこう言った。
【ねえ、私達と同じような生命体を作ってみたら、それは凄い事だと思わないかい?】
【どういう事だい?】
【私達に似た生命体を創って、彼らにも私達と似たような人生を送ってもらうんだ】
【それは素晴らしいね!】
そして一人は、現代地球の礎となる世界と生命を創造し、一人は幻想世界の元となる生命を創った。
「俺達転生者は、現代社会を作った神を「現代神」と呼び、この異世界を想像した奴を「幻想神」と勝手に呼んでいる」
「「現代神」と「幻想神」・・・」
現代神と幻想神の名は、ティルデから聞いたことがある。
南リップシュタートに現れた現代神が、ハイランドの幻想神に宣戦布告をするという話だ。
ただし、ハイランド側では幻想神の存在を認めていなかったはずだ。
「そしてこの二人の神が作った世界には、見た目以上に違いがあるんだ」
澤田はさらに話を続けた。
現代神が作った生命は一切の制約を受けずに、自らの意思で自由に生き、そして行動する事が出来るように造られた。
結果、文明が発達し、人類は宇宙にまで進出することが出来た。
幻想神が想像した世界では、自ら文明を発展させるという本能を幻想神は人類に与えなかった。
この世界では銃や近代兵器は生まれない。そして車や飛行機といった乗り物等も生まれてこない。
「そして、現在のような有様になっているってわけだ」
「・・・」
澤田の言う有様ってのは、決して良い意味でのニュアンスではないだろう。地球は汚染され、世界を一瞬で滅ぼしてしまうような兵器まで誕生した。
「しかし、この世界は色んな制約を受けていると言いましたが、それで人々が困っているようには見えませんね。むしろ、生き生きしているように見える」
「そうだな。そしてその事実が、現代神を悩ませることになった」
「悩み?神がですか?」
「神ってのは俺達が勝手にそう言っているだけだけどな。まあでも、創造主なんだから、間違ってはいないだろう?」
確かにそうかもな。そういえば、俺を転生させたあいつも自分を「神」と言っていたな。もしかしたら、あいつが幻想神なのか?
「で、その現代神の悩み、これがすべての始まりだったんだ」
自分が創った世界で、多くの人々が幸せな人生どころか、様々な問題点を抱えてしまうのを目の当たりにした現代神は、幻想神に相談を持ち掛けた。
【私の創造した世界で苦しんでいる子供たちがいる。どうしたら良いだろうか?】
幻想神はしばらく考えた後こう言ったらしい。
【では、悩みが深刻な子供たちを、こちらの世界で生まれ変わらせては?】
【生まれ変わらせる?】
【そう、こちらの世界で新たな生命として生まれ変わらせ、新しい人生を歩んでもらうんだ】
現代神にとって、それはとても魅力的な提案に思えた。
自分が創った世界に適応出来ない子供達だが、この幻想神が創った世界なら違う結果が生まれるかもしれない。
そして話し合った結果、自死を選んでしまった人間の中から、特に自身には何の責任もなく、悲惨な人生を歩んできた者だけを選び、この世界で生まれ変わらせることが決まった。
「これが転生の始まりだ」
「地球での生活に適応できなかった人類の救済ですか・・・」
「そうだ」
澤田の話は、今の所おかしな箇所は無いように見える。
ただ、俺の中でひとつの疑問が生じていた。
「質問を良いですか?」
「構わんよ」
「確か幻想神は、変化を望まず安定した世界を作っていたんですよね」
「そうだな」
ならば、絶対におかしな点がある。どう考えても矛盾している点が。
「なら何故、転生者等と言う、安定からは程遠い地球人を受け入れようとしたんでしょうか?地球人としての記憶を所持した人間なんて、イレギュラーそのものじゃないですか」
文明の進化を望まない幻想神が、なんで文明を発展し続けようとする種族を受け入れるんだ?
「それには理由がある」
「理由ですか?」
「ああ。二人の神は「新たな人格として生まれ変わらせよう」としたのであって「記憶を持ったまま転生させよう」としたわけじゃないってことだ」
「あ・・・」
「つまり、記憶を持ったまま生まれ変わってしまったのは、二人にとってもイレギュラーな事だったのさ」
澤田によれば、この事で一旦計画は白紙になったらしい。
何しろ、生前の記憶を持った地球人が紛れ込むわけだ。
安定を望み変化を望まない幻想神にとっては、全くありがたくない話だ。
「だが、これはそれほど問題にはならなかったんだ?」
「なぜです?幻想神にとっては死活問題なのでは?」
「そもそも、転生した人類は数千人、しかも彼らは地球での生活に幻滅した奴らだ。わざわざ地球の習慣や文明を持ち込みたいとは思わないだろう?」
「しかし気が変わることもあるかもしれませんよ」
「そうだな。だが、元々この世界に住んでる者は、そういう発想が無いんだ。つまり、今いる転生者が寿命や事故で死んで居なくなってしまえば、そこで文明の進化は終わる」
なるほど・・・。
転生者が文明を発達させようといくら頑張ろうが、元の世界の住人にそのつもりが無ければ、転生者の死後、それは無かったかのような扱いになるだろうな。
あれ?じゃあなんで、俺たちは転生させられたんだ?
もはや幻想神にとって、転生者を受け入れることなんて、何のメリットも無いじゃないか。
もしかして・・・。もしかして、現在行われている転生は、現代神が幻想神に対抗する為に行っているんだろうか?
幻想神は変化を嫌っている、ならば、勝手に転生をストップさせた幻想神に仕返しするために転生者を送り込むのはあり得る話だろう。
「話としては面白いが、残念ながらそうじゃない」
俺の推理は澤田に苦笑いされながら否定されてしまった。
「では、何故再び転生が行われているんでしょうか?」
現代神が転生を行っているわけではない。
もちろん幻想神は違うだろう。
じゃあ一体誰が転生を行ってるっていうんだよ。
「今行われている転生は、幻想神が行っているものだ」
「はあ?いやいや、だってさっき、幻想神は転生をストップさせたって言ってたじゃないですか」
おかしいだろ?自分がストップさせた計画をもう一度自分から始めるとか。
「そうだ、幻想神は変化を嫌う。だから、俺達を現代から呼び寄せたんだ」
変化を嫌って変化を好む現代地球人を異世界へ呼び寄せた?一体どういうこっちゃ!
俺が本気で分かっていないのを見て、澤田はさらに説明をしてきた。
頼むから、俺にわかるようにちゃんと説明してほしい。
「異変が起きたんだよ」
「異変・・・ですか?」
「そうだ。転生した者達が全て死去した後の世界に、文明を進化させようとする者が現れたんだ」
「新たな転生者が現れたという事ですか?」
「そうじゃない。子供だよ」
「子供?」
「そう、異世界に転生してきた奴らの子孫だ」
「あ!」
異世界に転生してきた者たちは、当然この世界で第二の人生をスタートさせる。もちろんその中のほとんどが結婚し、子をつくり家庭を築き上げていった。
そして生まれてきた子供達は例外なく、文明と共に生きてきた転生者の血を色濃く受け継いできた。
幻想神がそれに気づいたときには、すでに手遅れな状態だった。
転生者の子孫達は新しい娯楽や装置を手に入れ、それを謳歌していた。
そして一部の気の合う者達同士で集まるようになり、それは段々と規模を大きくし、やがて国家として成立するようになった。
そして自分達の領土を拡大するために、他国への侵攻を開始した。
「もちろん幻想神は黙ってみていたわけではないんだ。そういった者達を排除しようと、ありとあらゆる手段を講じたんだ」
「しかし上手くいかなかったと?」
「その通りだ。一番の原因は、幻想神は、自分の手で直接人を殺めることを良しとしなかったことだ」
「どういう事です?」
「それはずるいんだと」
はあ?自分の作った世界の危機に対して、ずるいってどういう事だ?
俺はもう色々とわからない事ばかりで、頭がパンクしそうだよ・・・。