新しい仲間
「初めまして、ルーカス・ニールマンです」
「あ、初めまして、コレナ・・シン・コレナガです」
危ない危ない、また名前を間違えるところだった。ハイランドに居るころから、コレナガシンと名乗ってたのが実は間違いだったと先日気付いて、シン・コレナガと名乗るようになったんだよ。しかし全然しっくりこないな。こんなんだったら、海外の有名ミュージシャンの名前とかにしときゃ良かった。あ、俺洋楽全然わかんないんだった。アニソンしかわからんわ。くそー、それだったら水木の兄貴の名前でも良かったじゃん!
いや、そんな事はどうでもよくて。実はベアトリクスから、俺と一緒に法案を煮詰めていくスタッフを紹介されたんだ。一人は今自己紹介したルーカス。笑顔が素敵なナイスガイだ。もう一人は『フェルテン・ルーデンドルフ』という、若いけど、すげえ無愛想な奴だった。
「フェルテン・ルーデンドルフ。よろしく」
挨拶これだけだぞ?まったく最近の若い奴は年上を敬う気持ちが・・・・って、俺はこの世界じゃ18歳だった!奴から見れば年下相手にしてる感覚か。なら仕方ないな。
この二人は、リバーランド大学の経済学部の出身らしく、あまりこの市の経済に明るくない俺をサポートしてくれるだろうって事だった。確かに、俺はこの世界の経済状況について全く詳しくない。サポートしてくれるって言うのなら大歓迎だ。
「じゃあ、親睦も兼ねて、今晩一緒に食事でもどうですか?」
俺が日本に居た頃には絶対言わなかったセリフを二人に言ってみた。これから一緒に仕事をやっていく仲間だしな。俺は日本に居た頃とは違うのだよ!
「あ、すみません。今日、彼女と約束がありまして・・・」
イケメンの彼から即座に断りが入る。ぬう、異世界でもやはりイケメンはイケメンだった。やはり俺たちのようなブサメンとは相容れない関係なのだ。
「僕は大丈夫だけど・・・」
さっきの無愛想なフェルテンはどうやらOKらしい。まじかよ、こいつと二人での食事とか、罰ゲーム以外の何ものでもないんじゃないか・・・。あ!ベアトリクスも誘えばいいんじゃね!?そうだ!そうしよう!
「ごめんなさい、今日はバリーと今後の打ち合わせをしなきゃいけなくて、遅くなりそうなの」
頼みの綱だったベアトリクスにも断られ、俺はルーデンドルフと二人で食事する事にあった。あれだ、慣れない事はするもんじゃないなと心の底から思った瞬間だった。
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次の日、俺はベアトリクスから案内された宿舎で目を覚ました。起きた瞬間、自分がどこに居るのか一瞬わからなくなった。昨晩、久しぶりに酒を飲んだせいもあるかもしれないな。
いやあ、すげえ無愛想に見えたルーデンドルフだけど、自分の好きな物の話になった途端に饒舌になりやがった。
昨日さ、前半は本当に黙って飯を食うだけの会になってたんだよ。で、沈黙に耐えかねた俺が「そういえば、ルーデンドルフさんは趣味とかないんですか?」って聞いたわけ。そしたら、なんでもリバーランドで活動している「女子楽団」にはまってるんだとか。
リバーランドの広場で、日曜日に不定期で音楽を演奏する為に、仲良しの女の子が集まって演奏していたのが始まりで、現在では毎週のように音楽演奏をしているらしい。ルーデンドルフとしては、リバーランドの中央広場だけで完結しているのがもったいないらしく、国中にその良さを広めるのが夢なのだとか。
まあ、現代日本でいう所のアイドルみたいなもんなのかな?そんなにはまってるんだったら、俺も一度見に行ってみようかな。って思ってしまうくらいに熱く語られてしまった。まあ、夢中になれるものがあるってのは良い事だよな。
さて、それはともかく、今日はルーデンドルフとニールマン、そしてベアトリクスも含めた4人で、登録型魔法制度について話し合いを行う日だ。会議ではまず俺が、ベアトリクスに説明したのと同じような内容を、もう一度説明した。
登録にかかる費用や保護年数なんかの話ね。それに加えて、これを採用する事のメリットについても説明したが、効果については前例が無いので検証しようが無いと言われた。そりゃそうか。まあとにかくやってみようという事にはなったんだけどね。
最後に質問は無いかと聞いたら、ニールマンが手を挙げた。
「これだけシステムが変わると、魔法の制作者も、魔法を販売する側も、色々と混乱する事が予想されますけど、それについての対策はあるんですか?」
おお!いや、いままで色んな人にシステムの説明をしてきたけど、そういう疑問をぶつけて来た人はあまり居なかった気がする。ニールマン、イケメンなだけじゃなく仕事も出来る男なのか!?
「それについては資料の14ページに書いてある通り、サポートセンターを作ろうと思っています」
「サポートセンター?」
何それ?とベアトリクスが聞いてきた。この世界ってさ、基本的に、商売に関しては自己責任の部分が非常に大きいんだよね。なので、サポートセンターのような物が基本的に無い。日本じゃ考えられないよね。まあ、あって無いようなサポートも多いけど。
「サポートセンターと言うのは、登録型魔法制度のスタートによって生じると思われる、色んな問題を解決する場所です。研修を受けて、このシステムを理解した人が、訪れた人の問題を解決する事になります」
一応さ、システムが変わるので、販売者向けの説明会は行う予定なんだけど、それでも色んな問題は出てくると思うんだよね。なので、わからない事があったらサポートセンターまで問い合わせるよう説明会で言うつもりなんだ。
「なるほど。じゃあ、あなたやニールマン、ルーデンドルフがサポートする係に着くわけ?」
「いやいや、僕らだけじゃ絶対に人数が足りませんよ」
たぶん、当日から数カ月は、サポートセンターがパンクするくらい問い合わせが来ると予想している。なので、相当の人数を確保しておかなければいけないだろう。リバーランドの魔法取り扱い店の数と、1カ月に平均してどれほどの新しい魔法が販売されるのかをリサーチしなきゃなあ。
「じゃあ、サポートの人数については、調査結果を踏まえてから割り出すと言う事でいいわね?」
会議に参加していた面々が、ベアトリクスの言葉に頷く。
「では今回の決定事項を、テレジア閣下にご報告し、その後許可が下りたらすぐに事業に乗り出すわよ」
いやあ、この案を思いついてから2年。やっと実行に移すことが出来るんだなあ。とは言っても、マザープレートのアップデートやら王城にある基本プレートのシステム変更やら、住民への説明と業者への説明で、軽く1年はかかりそうと言われたんだけどね。
とにかく明日から忙しくなりそうだ!