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独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第四章 炭鉱都市ロックストーン
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聞いて驚くなって言われても

 それから15分くらいして、俺は鉱山事務所のドアをノックした。テレジア・ロンネフェルトから話し合いの場に一緒に着くよう言われたからだ。


 勝手に鉱山のシステムを変えたりしてたんで、それについて怒られるんじゃないかと、内心びくびくしてたんだけど、どうもそんな雰囲気ではなかった。逆にその辺りについては、手渡された資料を興味深く見ている。


 テレジアは昼食を摂ってる間、バリーから鉱山のシステム変更についての説明を受けていた。それを聞いてる間のゾルタンの顔ったら、すげえしかめっ面になってて、そのうち絶対ブチ切れるのを確信したね。


「この労働時間はなんだ!?もっと働けば、もっと採掘量は上がったではないか!それになんだ、この奴隷の毎週の献立(こんだて)表は!予算はどうなっているんだ!」


 バリーのおっさんからの渡された資料を見たゾルタンは、みるみる顔を真っ赤にしていった。これに対しては、俺ではなくバリーのおっさんから説明した。


「労働時間に関しては、閣下からのノルマを元に最適な労働工程を作成しております。こちらで勝手にノルマを変更できませぬゆえ。」


 いや正論だ。正論だけど、そんな事いったらゾルタンの奴ノルマ増やしたりするんじゃねーの?


「奴隷の食事メニューに関しましては、別途予算資料を見てもらえればわかりますが、予算は閣下から与えられた物でやりくりしております」


 バリーから配られた予算資料を見る、テレジアとゾルタン。


「馬鹿な!予算の増額無しで、なぜ献立を変更できるのだ!?おかしいではないか!」


「それについては、先ほどお見せした、労働行程の見直しと関係がありまして、見直しにより出来た空白日の一つを、近隣の山での狩りへと充てさせてもらいました」


「か、狩りだとおおおおおおおおおお!」


 ゾルタンがマジ切れした。顔に血管が浮き出てるんじゃないかと思うような形相だ。


「貴様は、勝手に奴隷どもの休日を増やした挙句、遊びの時間にそれを充てたと言うのか!」


「それは違いますぞ閣下!」


 ずいっと前に出るバリー。若干のけ反ってしまうゾルタン。実はさきからずっとゾルタンがキレてるんだけど、全然怖くねーの。テレジアなんか、呑気(のんき)に紅茶飲んでるからな。


「良いですかな。狩りにはストレスを発散させる効果があります。それに加え、限られた予算で組まれた献立を、予算を増やすことなくバランスの良いものに変更できています。一体、閣下は何が不満なのですか!?」


 バリーの言う事には筋が通っている。ゾルタンのノルマはクリアしつつ、労働時間を減らし、食生活を改善、適度な運動も取り入れた。これによって、奴隷の健康状態も向上し、人件費もかなり浮いた。鉱山にも領主館にも良い事ばかりなんだ。Win-Winの関係と言える。


 早い話が、テレジア姉さんの前で自分の知らない話がどんどん出てきたのが気に食わないんだろう。しかも自分が課したノルマを、より合理的に改良までしていて、恥をかかされたと感じてるんだと思う。


 しかし俺から言わせれば、ゾルタンはこの2年間、まったく視察にも来てないんだぜ?そっちの方が恥ずかしくないんかねとも思う。完全に監督不行き届きってやつだ。


「しかしよく、これだけの完成されたプランをたてれたものね。これ、あなたが作ったの?」


 それまでずっと黙って資料を呼んでいたテレジアがバリーに質問してきた。ゾルタンの主張に関しては無視である。


「いや、これはそこにいるコレナガシンが作ったものです」


「へえ、さっきのプレートに続いてまたあなたなの?」


 そう言いながら、俺の方を流し目で見るテレジア閣下。


 その目で見られると、俺の中の何かが暴走してしまいそうになるからやめて欲しい。外国人のファンタジーRPGのコスプレとか見たことのある奴はわかるとおもうが、あんな人に見つめられるんだぞ?辛抱たまらんっつーの。


「コレナガシンは凄いですぞ。ロックストーン領主様や我々でさえ気にも留めなかった事を指摘し、実際に結果も出していますからな」


 あんまり褒められるとちょっと心が痛むな。そもそも、劣悪な環境をなんとかしたいと思ったのは、自分が死なないためだからな。人の為っつーより、ほぼ100%自分の為だ。結果、鉱山にも利益となったんだけどね。


「で、どういう経緯で3級奴隷になったのか聞かせてもらえるかしら?」


 資料を一通り読み終えたテレジアが、俺とバリーにそう聞いてくる。俺が3級奴隷なのに、魔法が使える事とか、俺を奴隷にしたのがレオンハルトであるってとこが、テレジアの興味を引いたようだ。理由はわからんけど。


 なので俺は、リバーウォールでの出来事を全部話すことにした。アリーナ・ローゼンベルグと話し合って販売システムの構築を提案した事、領主であるコンラート・バウムガルデンからお墨付きを得たこと、そしてアルフレート・アイヒマンの妨害、そしてレオンハルト・ロンネフェルトからの提案の却下と、3級奴隷の身分降格の懲罰を受けたことを。


「ふむ」


 テレジアは、しばらく何かをじっと考えてから、俺に対して質問をしてきた。


「コレナガシン、あなたの提案した『販売システム』とはどんな物なの?」


 あ、やっぱり気になりますよね。というか、バリーも、「ワシもそれが気になっとった」等と言ってくる始末だ。ゾルタンは何の事かわかってない様子だった。


 なので俺は、以前リバーウォール領主のバウムガルデンに話した事を、今度はテレジアとバリーに話していく。新しい魔法を開発した際に、領主館への申告を行う事により、コピーされて無許可で販売されるのを防ぐシステムね。特許とか商標とか、そんな感じの奴。


「面白いシステムね!」


 俺の話を聞いたテレジアは、そりゃもうノリノリだった。途中であれこれ質問を挟んでくるもんだから、話が全く進まなかったが、前のめりで聞いてくれるってのは正直気分が良かったので、俺もノリノリで話していたと思う。バリーとゾルタンは、途中で飽きてしまって退屈そうにしてたけどな。


 ただ、あまり嬉しくない推測も話された。


「リバーウォールでは、間違いなく今のシステムが採用されているはずよ」


 テレジアの話によれば、レオンハルトはこのシステムを少しだけ変更して、アルフレートの提案としてほぼ間違いなく採用するだろうとの事だった。それだけ、レオンハルトはアルフレートを大事にしてるらしい。まあ、自分の事を持ち上げてくれる奴は大事にしとこうってのはわからんでもないけどね。


「コレナガシンには面白くない話かもしれないが、これは私にもどうにも出来ない」


 さすがに第二王位継承者のやった事に口を出すとなると、それなりの代償も必要になってくるみたいだからな。それに見合った何かをテレジアに提供するのは、俺にはちょっと無理かも。


「いえ、リバーウォールにはとてもお世話になりました。なので、私の案であの地が豊かになるなら、私にとっても喜ぶべきことです」


 まあ、テレジアの、俺にに対する印象を良くしようとした側面は否定しないよ。でも、リバーウォールの、アリーナや領主、気の良い兵士の奴らとか、色んなお世話になったあの街の人達が活気付くなら、それは悪いことじゃない。


 俺の言葉を、テレジアがどういう風に受け取ったかはわからないが、その件に関してはそれで話は終わった。そしてその日は、テレジアとゾルタンも鉱山からロックストーンの首都へと戻っていった。


 俺の平和は、とりあえずは守られたようだ。ようするに、いつもの奴隷の日常に戻るって事だ。


 それから3日後、夜勤を終えて宿舎で俺が爆睡していると、いきなりドアがバーン!という音と共に派手に開けられた。


「コレナガシンはいるか!」


 バリーである。このおっさん、いい加減に静かにドアを開けてくれっつーの!毎回心臓が口から飛び出そうになるわ!


「シン!聞いて驚くなよ!?俺とお前は、リバーランドへの転属が決まったぞ!」


「・・・は?」


 そんな事言われたら驚くに決まってる!リバーランド本国へ俺が行くって、どういうことだよ・・・。

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