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独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第三章 大運河都市リバーウォール
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領主様へのプレゼンテーション

 リバーウォールの町の中には、縦横無尽(おうじゅうむじん)に小さな川が流れていて、全ての川はリバーウォール湾へと繋がっていた。


 日本では、毎年夏近くになると台風の影響で、河川(かせん)が集中している地域での浸水ニュースが流れていたので、この世界ではそんな事はないんだろうか?等と考えながら、領主館の窓からリバーウォール湾を眺めていた。


 今日は、アリーナ・ローゼンベルグが言っていた、リバーウォール領主、コンラート・バウムガルデンとの面会の日だった。


 なんの為の面会かって?先日言ってた、日本式で言う『特許』や『商標』に関するプレゼンをバウムガルデンやお偉いさん方に行う事になってるんだよ。まあ、今日は特許だけの話になると思うけど。


 ついでに言うと、今日はティルデは来ていない。ティルデは、どうもこういうシステマチックな話は苦手なようで、何か聞かれても足をひっぱりそうな気がする、との理由で辞退していた。


 そもそも日本でのシステムをそのまま持ってこようと言う話なので、元々異世界の住人であるティルデに短期間で理解しろっていうのは、土台無理な話だろう。


「コレナガシン様、バウムガルデン様がお越しです」


 執事のような人の案内で、俺は座っていた席から立ちあがった。そしてすぐに、バウムガルデンが入室してきたので、リバーサイド国の方式の乗っ取った挨拶(あいさつ)を行う。


「よく来たコレナガシン、まあ掛けたまえ」


 そう言って、自身も会議室に用意された椅子にドカッと座る。


 さてと、左斜め前方に座っておられるこのお方、バウムガルデンに俺の意見が採用されるか否かで、俺の今後の生き方が決定づけられると言っても過言ではないので、絶対に失敗はしたくない。


 そう失敗は許されないのだ・・あれ?そうなると俺一人ってのはやばくないか?だって、これまでは大体ティルデが傍にいてくれたわけで、誰か居るだけでも全く気持ちに余裕が出るものだ。


 あーしまった!やっぱり付いて来てもらうだけでも頼めばよかった!


「どうしたのだコレナガシン?まだ始まらんのか?」


「は、はい!ただいま!」


 やばい、しばらくぼーっとしてた!ファーストインプレッションは最悪だ!プレゼンで大事なのは第一印象とよく言われるが、完全に印象が悪いぞこれ。


 しかし落ち着け!まだ慌てるような時間じゃない。俺の軽快なトークで巻き返せればいいじゃないか!


「ええ、今日は大変天気も良く、さわやかな風と心地よい太陽の光がさんさんと降り注ぐ、絶好の会議日和となりまして・・・」


「会議に天気もくそもないじゃろう。あと、リバーウォールは1年通してこの気候だぞ」


「・・・・・」


 そういう事じゃないんだよ!ちょっとは察してよ俺の気持ちも!


 ええい!もういい!さっさと今日の議題に入った方が傷が広がらない気がしてきた。なので俺は、さっそく特許について話をすることにする。と言っても、あまりに細かい話をしても、理解してもらえなければ意味がないので、簡単に説明していくことにする。


「今日お集まり頂いたのは、リバーウォールにおける、魔法の販売についてのご提案の為です」


 やっと本題に入ったか、という顔を皆さんしていらっしゃる。畜生!こんなんだったらさっさと話を始めりゃ良かったよ・・・。


「皆様もご存じの通り、現在、新しく開発した魔法を販売するには、開発者が直接店舗で交渉して、それから販売するか、もしくは自分で直接販売するのが主流となっています」


 いや、それは当たり前なんだけど、何が言いたいかと言うと、自分が作った魔法を「A」という店で販売するよう契約したとする。で、次に「B」という店で販売してもらおうと思ったら断られてしまった。まあ、これも無い話ではない。


 ところが俺が諦めて帰った後、「B」の主人は、俺が持ってきた魔法を自分が制作したように見せかけて店舗で販売し始める。俺が後で文句を言っても「証拠は?」と言われ、泣き寝入りするしかない。


 さらに、「A」の主人が「B」の主人に働きかけ、さっき俺が持ってきた魔法を「A」の主人と「B」の主人で共同で制作したことにして、「B]の店で売る、と言ったことも可能だ。


 ようするにパクり放題なのだ。この街、と言うより、この世界では商品の売買は個人間で取引される契約という認識があるので、この件に関する直接的な法律は定まって無い。


「しかしそれは当たり前ではないのか?自分が売るものは自分で管理販売する。これは商売の鉄則だぞ」


「もちろんそうです。ただ、それがこの町の進歩を妨げているとしたら、バウムガルデン様はどう思われますか?」


「ほう・・・。続けるが良い」


「はっ!では、引き続き、ご説明させて頂きます」


 領主の了解を得て、俺は引き続きプレゼンを続ける。今のところ、バウムガルデンの興味を引いてはいるようだ。


「先ほど述べたように、現在のやり方では、自分が作ったものを真似されないように自己防衛が必要になっています」


「うむ、当たり前のことじゃな」


 一番多いのが、自分の開発した商品をパクらないように一筆書いてもらう事らしい。しかし、後でどうとでも言えるので、トラブルが後を絶たないんだと。そりゃそうだろうな。


「ですが現在、同じような商品が「違う開発者名義」で、市場にあふれる事態となっています。」


 そうなんだ。例えばファイアーの魔法が売っているとしよう。隣の店では、同じ性能の魔法が「フィアー」とか「ファイノ」とかいう名前で堂々と売られているんだ。たいていが、店の主人名義でだ。ひどい時には名前まで同じ事もあるとはアリーナの弁。


「このような状況では、斬新なアイデアを持った商品は民間から生まれることは無いでしょう。なぜならすぐに真似され、他者にアイデアを横取りされてしまうからです」


「ふむ・・・」


 バウムガルデンは、しばらく考える仕草を見せた後、俺に話しかけてくる。


「それではそなたは、それを解決する案を持っている、そう言うのだな?」


「はい」


 即答した。こういうのは迷ったらだめだ。自信満々で答えることで、相手への印象もかなり違ってくるからだ。もちろん俺の体験だ。( ノД`)


「では聞かせてもらおうか?」


「はい!」


 きたきたきたきた!こっからが本番だ。俺の提案は特許をほぼ丸パクリなので、領主館が多大な負担を背負うことになる。予算的にもね。なので、それをどう解消するかが問題なんだが、それもまあ解決策はある。


「現在、作った商品の権利を証明するには、製作者が自分で工夫するしかないわけですが、これを領主館が一括で行うのが、私からの提案です」


「この領主館でか?」


「そうです」


「しかしどのようにだ。誰が作ったかなど、我々にわかるはずか無いではないか」


 この質問も想定済みだ。なので、俺の考えをバウムガルデンに説明していくことにする。


「この、マザープレートを使用して、製作者の管理を行います」


「あああああああああああああああああ!」


 と、そこでいきなりアリーナ・ローゼンベルグが叫んだので、会議室に居た全員が椅子から飛び上がるという珍事が起きてしまった。まじでびっくりしたあ。なんなんだ一体・・・。


「マザープレートそのものに、魔法の仕様と製作者を紐づけて登録するのではないですか!?」


 おおっと!さすが領主付きの魔導士。理解が早い!


「はい、その通りです」


「どういうことだ、アリーナ」


 バウムガルデンの問いかけに、アリーナは意気揚々と返答する。


「マザープレートは、冒険者のレベルやクエスト等を管理するツールで、それをギルドで一括管理しています。それと同じことをやるんですよねコレナガシンさん」


「その通りです」


 つまりだ。マザープレートでは、冒険者の個人情報を登録記録して、その人がどんなクエストを申し込んだか、そして達成したかなどを一律管理している


 と、言う事はだ。誰が商品を開発しどんな仕様になっているかなど、マザープレートに登録する事は可能だ、という事になる。


「ですので、自分が開発した魔法をのシステムを、一度領主館にて申請・登録してしまえば、誰かが勝手に別の名前で販売する事は出来なくなってしまうでしょう」


「つまり、マザープレートに登録すれば、領主のお墨付きであることを証明できるわけか?」


「そのような感じです」


 実際にはちょっと違うんだけど、まあ細かい所は後で調整すればいい。


「なるほどな、マザープレートの活用とは恐れ入ったわ」


 おお、これはかなり手ごたえあるんじゃね?なんか行ける気がしてきた!


「ただし、問題点があるな」


 おっと、まだ浮かれるのは早かったか。


「バウムガルデン様、問題点とはなんですか?これはかなり有用なシステムに思えるのですが?」

 

 アリーナの疑問にバルムガウデンは笑いながら答える。


「魔導士のお前からみたらそうだろう。だが、領主の私からの視点ではちょっと違うのだ」


 バウムガルデンの言う問題点はたぶんあれだ。日本でもそれが一番のネックになる、


「私の言う問題点、それは金だ」

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