ようこそ!
「そう言うわけで、残念ながら君は、ビルから落下してきた看板の下敷きになって死んでしまった、というわけさ」
俺は「俺がここにいる理由」をこいつから説明されているところだ。
さっき高校生の男から殴られて、それで立ち上がって空を見上げてたら、上から何かが降ってきたのが見えたんだけど、あれはビルの看板だったらしい。で、それの下敷きになってしまった俺は当然死んでしまった。じゃあ、今ここにいる俺はなんなのか?
こいつに言わせると、いわゆる「異世界に転生した俺」ということらしい。あ、さっきから俺が「こいつ」って呼んでるのは、この世界の神様なんだって。
それを馬鹿正直に信じたのか?って声が聞こえてきそうだが、馬鹿を言ってはいけない。こう見えても俺は用心深いんだよ。
俺は以前「かぶを買いませんか?」って言われて、野菜のかぶを高額で買わされて以来、こういうのには用心深くなってるんだ!簡単にはダマされないぞ!
「いやえっと、それはお気の毒だったね・・・」
すんげえ気の毒そうな声で同情された。言わなきゃ良かった。とにかく俺が疑いの目で見ていたので、こいつはそれを払拭するために映像を俺に見せたんだ。
俺が死んだ時の映像をね。
映像の中の俺は、上から落下してきた看板の押しつぶされていた。看板の隙間から、俺の手足と共に、真っ赤な液体が流れ出ている。もちろん、その前の高校生たちとのやりとりも映っていた。
「あー、理解してもらえたかな?」
こいつの言葉に俺は頷くしか術を持ってなかったよ。どうやら本当に死んで、そして生まれ変わったようだ。
あれ?でもちょっと待てよ?大抵さ、こういう転生物って、赤ちゃんとかお母さんのお腹の中にいる子どもとして生まれ変わるんじゃないの?俺、身長160くらいあると思うんだけど・・・。
「あーそれについてはね、普通は誰かの子供として転生させるんだけど、君の場合ほら、もういい年した40のおっさんだったろ?なので子供への転生は無理だったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
転生つったらさあ、赤ちゃんに生まれ変わって、んで母親とはいえ他人に近い女性のおっぱいを吸って揉んで、んでもって、可愛い妹やら幼なじみやら女の子の家庭教師やらとキャッキャウフフするもんじゃないですか!
「いや、君のその偏った知識はどっからきたの?」
「俺が日本で読んでたお気に入りの転生物の小説」
「なんかごめん。そういうの気の利いた設定は用意できなかったわ・・・」
神様が申し訳無さそうに謝ってきた。全く使えないぜ。
「はい、これ見て」
気を取り直すように突然こいつが鏡を出現させる。一体なんだと言うんだ・・・。あ!転生って事は、顔や人種なんかも変わってる可能性があるのか?できればイケメン俳優や、芸能事務所所属アイドルみたいなイケメンになってますように!
そして俺は恐る恐る鏡を覗き込む。
「・・・・あれ?」
あれれ?この顔どっかで見たことあるぞ?どこでだったっけかなあ。絶対見覚えあるんだけど・・・。
「あー悪いけど、君の年齢を15歳まで巻き戻させてもらったからねー」
あ!これ、俺が高校入学したくらいの顔だよ!そりゃあ見覚えあるはずだ・・。これが今の俺なの?
「あれ?でも転生って、生まれ変わるって事では・・?」
「そうだよ。残念ながら君の体は、看板の下敷きになってしまって再起不能だったからね。体は僕が新しく用意させてもらったよ。で、そこに君の魂を吹き込んだのさ。まあ生前と同じ40歳だと色々と支障が出るだろうと思って、15歳くらいの年齢に設定させてもらったけどね。」
なるほど。同じ人格と見た目だけど、体を構成する物は完全に別物か。ちょっと待ってくれよ・・・。と言うことはだよ?俺はこのまま成長したとして、またあんなブサメンになってしまうと言うことか!?
「何てことしてくれるんすか!どうせなら!どうせなら、イケメン俳優のような見た目にしてくれても良かったじゃないですかー!」
そうやって俺は泣きわめいた!だってせっかくの転生だよ?何が悲しゅうて、あのイケてない容姿で人生を再スタートさせにゃならんのだ。
「いやいや、人は生き方次第で顔つきなんか変わるものだよ。生前の君は自信に満ち溢れた人生だったかい?」
そう問われて転生前の自分の人生を思い出す。ゲームとアニメとエロゲしか自慢できるものがないな。
「え?それ自慢なの!?」
嘘だよ!スルーしてよ恥ずかしい!
「ま、まあとにかく、今後君がどうなっていくかは君の生き方次第ってことだよ」
俺次第・・・・か。そういえば、俺がこの世界に呼ばれた理由とかまだ聞いてなかったな。
「あー、それはまた今度話すよ。とりあえず今はここの生活に慣れることが一番だからね」
ちょっと勿体つけた言い方が気になるが、確かにこの世界での生き方には慣れておかなければいけないだろうな。
「じゃあ、ちょっとだけこの世界を紹介するね」
そう言うと神様は、俺達を囲んでいた壁を全部取り払う。
一瞬強風にあおられ目をつむってしまう。そして再び目を開けると、そこには美しい空と緑と水で構成された、ファンタジーと呼ぶにふさわしい世界が広がっていた。
プレステなんかでファンタジー系のRPGをやった事のあるやつならわかると思うけど、ちょうどあんな世界が目の前に広がってるんだ。
アスファルトではなく土や石畳の道路、そこには車やバイクではなく馬や牛、そして馬車が走っている。そしてこの世界特有の衣装を身にまとった、人間を含む様々な種族達。
「どう?やっていけそう?」
ここが、この大自然に恵まれた世界が、一度は諦めかけていた俺の第二の人生になるのか・・・。しかも、15歳という思春期の年齢からもう一度やり直せる。
会社をリストラされた夜も、エロゲやってればいいやとか強がってはいたけど、たぶん俺は精神的に限界だったんだと思う。だって、自分の頬を伝う涙が全然止まらないんだよ!
そんな俺の肩を神様はがしっと掴んだ。
「ようこそ僕達の世界へ!歓迎するよ」