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独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第三章 大運河都市リバーウォール
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フォンシュタイン家とハイランド

「なるほど」


 そう言って、白髪初老の男は、俺とティルデから一旦目を離して何かを考えているようだった。


 ここは、ハイランド市とはエルミーラ運河を挟んだ向かい側にあるリバーウォール市だ。リバーウォールは、リバーランド王国でも3番目の規模を持つ街なんだとか。


 そして今、俺たちの目の前にいるこの男が、リバーウォール市の領主「コンラート・バウムガルデン」、つまりここで一番偉い奴ってわけだ。


 俺たちは丸一日、恐らくは亡命者用の施設だろうと思う場所で軟禁されていた。まあ、風呂もベッドも飯もあったんで、不自由ではなかったんだけどね。で、今日になって領主から聴取を受けてるわけだ。


 ハイランドでマルセルに追われた俺たちは、一瞬の隙をついて奴らから逃げ出すことに成功した。そして、以前俺が実習訓練中にトラウマが発覚した場所、あの場所にあった船を利用してこのリバーウォールに逃れてきたんだ。


 なんで逃げる場所としてリバーウォールを選んだのかと言うと、この街が、ハイランドと敵対関係にあるからなんだと。


 リバーウォールのハイランドに対する敵対行動は徹底していて、ハイランドからの訪問客には、マザープレートの無効化、その代わりにリバーウォールのプレート所持の徹底。さらに、リバーウォール市内での行動制限、つまり行ける場所を制限される。


 というより、そもそもハイランドからリバーウォールへの入国はほぼ認められない。


 これは、他の街を経由しようとも変わらない。マザープレートには、どの国や街に立ち寄ったかが記録されているので誤魔化しようがない。そういう意味では、ハイランドの影響力が一番届きにくい地域とも言える。


 そのリバーウォールの領主館で、ティルデは俺にしたのとほとんど同じ説明を、バウムガルデンに行ったところだ。


 俺たちがマルセルの追撃をかわして、エルミーラ運河から向こう岸のリバーウォールへと向かっている途中に聞いた話だ。


 まず、事の発端は、20年前にフォンシュタイン家の前当主である「アルベルト・フォンシュタイン」が急死したことから始まった。


 アルベルトの死後、新しく当主となった「アンゼルム・フォンシュタイン」は、それまでのアルベルトのような、誰にでも等しく公平に振る舞う方法ではなく、フォンシュタイン家がハイランドにおいて全ての実権を握り、全ての事に責任を持つという、君主制のような制度を執った。


 また、マザープレートによる領民の管理、これは元々リバーウォールでは行われていた方法だが、ハイランドでも識別番号による管理をスタートさせた。まあ、マイナンバーの強化版みたいなもんだな。


 それから4年後に、南リップシュタート諸島に突如、「現代神」と名乗る者が現れ、ハイランドの「幻想神」への宣戦布告を宣言。


 南リップシュタート諸島はリバーウォール湾内にある為、リバーウォールへリップシュタート攻撃の為の湾内への侵攻許可を求めたが、リバーウォールはこれを拒否。一気に、ハイランドとリバーウォールの関係が悪化する。


 ハイランド領主アンゼルムは、幻想神などと存在しない神を理由に、ハイランドへの攻撃を企てる現代神に対抗する防衛策として、秘密裏に適格者制度を画策、そして実行する。


 この計画では、フォンシュタインによって選ばれた者たちが、本人にも知られる事無く1年間のテスト期間を得て、認められた者だけが現代神と戦うために選ばれた戦士となるのだという。


 テストに失格した者は失格者の烙印を押され、フォンシュタイン家によって処分される。処分とは文字通り、この世界から処分されると言う事だ。


 ハイランドにおける冒険者ギルドの主な役割は、適格者を手助けする事にあった。そして、職業訓練所は、そんな適格者をまさに補助するための施設なのだという。


 考えてみれば俺の卒業の日に、まるで今生の別れのように俺と接したヴィルヘルミーナは、あの日俺が処分されることを知っていたんだろう。


 現代神と幻想神の話が出てきたときは、俺を異世界へ召喚した神様の奴の話かと思っていたんだ。あいつが召喚した人間が「適格者」なのかってね。でも、フォンシュタイン家は「幻想神」の存在を否定している。


 ティルデが失格者がどう扱われるかを知ったのは、今から約1年前、正確には俺とユーディーが、マルセルに森での事件を聴取されたちょっと後くらいになるらしい。新しく赴任してきたフォンシュタイン家の兵士であるマルセルが、うっかり口を滑らしたんだと。今年は、俺、そしてなんとユーディーも適格者だったらしい。


 しっかし、自分が出来事の張本人として経験していなければ、とても信じられるような話じゃないな。わけがわからない事ばかりだよ。


 全てを聞き終えた領主、バウムガルデンは、しばらく腕を組んで何事かを考え込んでいたが、近くに居た女魔術師と、俺たちに聞こえないような声で会話すると、改めて俺たちに向き直った。


「ティルデと言ったか。そなたが話した情報が我々が手にしている情報とほぼ一致した。なので、この領主館に置ける制限付きの行動を許可しよう。亡命を一時的に許可する」


 よ、よかったあああ!いや、まじで助かった!場合によっては、ハイランドに送り返される可能性もあったらしいからね!ほら、スパイ容疑とかさ!


 俺がそんな風に心の底から安どしていると、さっきまで領主の傍にいた女魔術師が近くにやってきた。長い黒髪が特徴的な人だった。どちらかと言えば、俺と同じ日本人寄りの顔と言えるかも。


 ・・・・・まさかね・・・?


 俺のそんな不躾な視線を感じたのか、領主から「アリーナ」と呼ばれていた彼女は、俺の方へ向き直った。


「私の髪の黒さは、出身地である北リップシュタート地域の出身者特有の物なのです。コレナガシン様も綺麗な黒髪をされていますね」


 そう言ってニコッと微笑む。早い話が、お前だって黒髪じゃねーか。ジロジロ見てんじゃねーって事だろう。すみませんでした><


 さて、アリーナさんに連れて来られたのは、俺たちが最初に連れて来られた建物だった。


「正式な認可が出るまでは、この建物を含めた幾つかの場所だけに行動が制限されますのでご注意ください。何かありましたら、メイドまでお申し付け下さい」


 それでは失礼します。と頭を深々と下げながら、アリーナさんは領主館の本館へと去っていった。


 案内された建物には、メイドさんが3人と兵士が2名常駐するようだ。身の回りの世話という名目での見張りだろうな。風呂やトイレといった場所以外では、ほとんどの場所においてメイドさん達の目が光っていることになる。


 けどまあ、命を狙われる心配が無いだけでもありがたい話だ。マルセルに襲われてからと言うもの、ここ2日くらいロクに寝てないからな。


 そしてその日の夜、見知らぬ土地で緊張はしていたものの、ひさしぶりにぐっすりと寝ることが出来た。

第三章となります。よろしくお願いします。

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