根深い問題
バンッ!
突然ダリオが自分の目の前の机を叩いた。大きな音が室内に響き渡り、一瞬で部屋の中が静かになった。そして静かになったオーナー達へ向けてこう言い放った。
「まあとりあえず最後まで話を聞こうや。その上でふざけた事を言いやがったら、俺もこいつをぼこぼこにして叩き出してやらあ」
シーンと静まり返る室内。こ、怖いぜダリオ・・・。俺の実年齢よりたかだか十年前後年上の奴の貫禄とはとても思えねえ。あと追い出すとか本気じゃないよね?ね?あとユリアーナ、お前は慌てて背筋を伸ばしてんじゃねえ。
こいつ最初だけはすまし顔でシャンとしてたんだが、多分途中で飽きてきたんだろう。ぼけ~っとしやがってたからな。
「お前さんも話し方には気を付けるこった。こいつら気が荒いからな」
「は、はい!」
ダリオにそう言われて、俺は委縮しながら返事をした。いやあんたが一番怖いけどな!そう思いつつ、俺は再び説明を再開する事に。
「えー、皆さんがご心配されるのも当然かと思われます。しかしこの計画は、皆さんの経営を脅かすものでは決してありません」
俺はここで一旦オーナーたちの様子を見た。さっきのダリオの言葉が効いているのか、皆おとなしく俺の話を聞いてくれている。
「何故なら、この計画には皆さんのご協力がぜひとも必要だからです」
「俺達の協力だって?」
「どういうことだ?」
すると再びざわざわと室内が騒がしくなってきた。しかしさっきのような怒号が飛び交っているわけでは無かったので、俺はそのまま本題に入ることにした。
「皆さん、女王陛下が所有しておられる屋敷の個人オーナーになりませんか?」
すると再びシーンと静まり返る会議室。恐らく何を言われたのかよくわからないのだろう。
「俺達であの屋敷を管理しろって事なのか?」
しばらくの沈黙が続いた後、オーナーの中の一人がそう聞いてきた。
「その事についてより詳しい説明を続けさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
するとオーナーたちは目でコンタクトを取りながら、頷きあっていた。
「続けてくれ」
「ありがとうございます」
さっき俺に質問してきたおっさんが代表してOKを出してくれたので、俺はいよいよ詳細を話すことにする。
「まず、あの屋敷の所有権は女王陛下のままとなっております。しかし今回私が管理運営を任されることとなりました。それで色々考えたのですが、あの屋敷にある膨大な数の部屋を私共だけで管理するのは不可能だと結論付けました」
そこで俺は再びオーナー達を見回してみたが、みんな俺の話を真剣に聞いてくれているようだ。なのでそのまま話を続けることに。
「そこで私共は部屋毎にオーナーを募り、そのオーナーに部屋を管理運営してもらおうと考えたのです。そして今日はそのオーナーを皆様にして頂けないだろうか?というご相談に参ったわけです」
「部屋毎にオーナー?それを俺達にだと?」
「え?どういうことだ?」
俺がそう話すと、オーナー達は訳が分からない、という感じで次々に俺に質問攻めにしてきた。そりゃそうだろうなあ。俺だっていきなりこんな話をされたら混乱する自信がある。
「さらにご説明しますから、席についてください」
俺はオーナたちを席につかせてから、話を再開する。話の続きが気になるからか、オーナー達はおとなしく座ってくれたよ。
「まず、部屋のオーナーになっていただいた方には、部屋のベッドメイクを含む部屋の管理を全て行っていただきます。その諸経費についてはオーナー様の負担となります。ただし・・」
俺はここで一旦話を区切って皆の注目をより集めてから次の発言を行った。
「お客様が宿泊して料金を支払わない限り、オーナー様へ部屋代は一切請求しないものとします」
室内は一瞬シーンと静まり返る。しかしすぐに喧騒に包まれることとなった。
「え!?部屋代が発生しない!?どういうことだ!」
「家賃がいらないって事なのか!?」
家賃と言う言葉が出てきたので、俺は再び説明を再開した。
「はい、家賃は徴収いたしません。ただし、お客様が宿泊され、オーナー様が受け取った宿泊料金の中から手数料をもらいうけます。ただしお部屋の管理メンテナンスはオーナー様にやっていただきます」」
ここまで説明しても「一体どういう事なんだ?」とか「お前分かった?」「いやわからん」等と言うやり取りがされている。あれ~、俺の説明難しかったか?
「つまりあれだろ?客が来なかったら家賃はとらねー。でも客が泊まったら手数料と言う名の家賃を払え、つまりはそういうこったろ?」
俺がどうしよう・・・と困惑していると、ダリオが俺の言う事を簡単に説明してくれた!
「そ、そうです!その通りです!後はベッドメイクやお部屋の清掃等は普段皆さんがしている通りにやって欲しいという事です」
あれか?手数料だの管理メンテナンスだの、普段使い慣れない言葉を使ったのが敗因か?いるよな~聞いてる奴がわからないであろう横文字をやたら使いたがるやつとか。まさに今の俺じゃねーか・・・。
「おい、それだったら俺達にも悪い話じゃないんじゃないか?」
「なんか、そんな気がしてきた・・・」
ダリオの簡潔でわかりやすい説明により俺がへこんでいると、肯定的な意見が次々と飛び出してきていた。
「だけどよ~」
「はいなんでしょう?」
その中の一人が俺に向かって話してきた。やめてくれよ、ここまで来て良い流れをぶった切るような発言は・・・。
「これ、俺達には美味しいけど、女王は損するんじゃねーの?」
この人物は明らかに俺を疑うような眼差しで見ていた。あまりにも美味しすぎる内容なので、この話自体を疑っているんだろうか?そういえば、この国の女王陛下の評判は最悪だったんだな。
「最初は私達も大手の紹介に一括で管理運営をお任せしたほうが良いのでは?と提案したのです」
「じゃあなんでこんな面倒な方法を女王はやってんだよ?」
「陛下がおっしゃるには、この街の住人に利益が還元されなければ意味が無いとの事でした」
「ふん、そうかよ」
そういうと、男は自分の席へと戻っていった。あれ?それだけ?もっと色々いちゃもん付けられるかと思ったんだけど・・・。でもまあとりあえず話はよい方向へ行きそうだな。そう思ってたら・・・。
「ふざけんなよ!」
突然後方の席に座っていた男がそう叫び出した。
「あの女王の考えてる事だぞ!俺は絶対に反対だね!」
その言葉に呼応するように、数人の男たちが立ち上がって賛同し始めた。
「あんたはよそ者だから知らないだろうけどな、あの女王は俺達が必至で働いている時も、国の金で贅沢三昧なんだ!あの屋敷だってそうだろうが!あんな建物無駄以外の何物でもねーよ!」
「そうだ!その女王が企んでる事だぞ!俺は絶対ごめんだね!」
やばい!そういう声は出てくるだろうとは予想していたが、実際大きな声でそういわれると焦ってくるな。
「ですから、その建物を有効活用しようというのが今回の取り組みとなります。しかもお客様が宿泊しなければ家賃も頂きません。有効的な取り組みだとは思いませんか?」
「だったら最初から国に譲渡して、国が有効活用すればよかったんじゃねーか。ずっとそれ断ってたんだろ?俺達の税金使って無駄な事しやがって!」
実際は陛下が自分たちで工面した金でどうにかしてるんだけどな。けどここでそれを指摘すると、コレナガ商会が女王陛下の回し者のような印象を与えてしまうかもしれない。
「それについては我々はどうこう申し上げることはございません。我々の目的は今回の計画について皆様にご説明し、ご協力を仰ぐことですので」
「うるせえ!とにかく俺はこんな計画絶対協力しねえ!お前らも協力なんかしやがったら、あの女王側だって思われるんだからな!」
そう言うと、ドアを乱暴に開けて外へと出て行った。そして同じように男に賛同していた奴らも一緒に出て行った。
いや、わかってはいたけど、正直あんな反応を目の当たりにして、なんか初めて実感したかもしれん。これは相当に根深い問題だぞ・・・。
伊達に時間をかけて陛下のイメージ操作を行っていたわけじゃないって事だろう。この分だとサクラなんかも相当仕込んでいるんだろうなあ・・・。