親友とか戦友とか
ダリオが疑問に思っていた事とは、俺たちが何の為に女王の手伝いをしているのか?というものだった。
いや、その話はさっき散々したはずなのだが、このおっさん、実は聞いているようで全く聞いていなかったのか?さっきまで一生懸命説明していた貴重な時間を返せ。
「先ほど我々が説明させて頂いた通り、女王陛下の施設を通して住民の方々に少しでも還元していこうという・・・」
「あー、悪い悪い。俺の言い方が悪かった」
しかしダリオは俺の説明を途中で遮ってきてそう言った。
「女王に協力しているお前達の目的はなんだ?これならわかるだろう?」
なるほど・・・。確かにこれならわかりやすい。つまり、女王陛下の目的ではなく、俺達自身の目的について知りたがっている・・・という事だ。
「お前達も知っているとは思うが、この国の女王の評判は地に落ちているも同然だ」
「ダリオ殿、一体何を!」
ダリオの言葉を聞いてティルデ椅子から立ち上がった。そりゃあ、自分の尊敬する女王陛下がそんな風に言われたのでは、怒るのも無理は無いだろう。
「事実だ。違うか?」
「くっ・・・」
しかしダリオにそう断言されてティルデは次の言葉を言えずにいるようだ。
まあ、実際そうだからなあ。日本で政治家に対するデモ活動なんかは見慣れた光景だったけど、まさか異世界でも同じものが見られるとは思わなかったもんな。
「そしてお前さん達は、そんな最悪な評判の女王に協力しようとしている。おかしいと思うのは当然だろ?」
なるほど。ここまで聞いてやっとこのおっさんの言いたいことが分かってきた気がする。
はっきり言ってオルガ陛下に協力することのメリットが何一つ無いように思えるのに、俺達は女王陛下に協力している。これには何か裏があるんじゃないのか?ってのがダリオの不安要素なのだろう。
この街の観光協会会長・・・かどうかは知らんけど、責任ある立場にある以上、得体の知れない俺達の案に、そう易々と乗るわけにはいかない・・・って所か。
という事は、この問題さえクリアできれば協力はしてくれるって事?でもどう説明する?馬鹿正直に言うの?でもそれで納得してくれるのか?
「彼らは陛下の為を思って協力してくれているのよ。それじゃダメなわけ?」
俺が考え込んでいるのを見て、もしかしたらどう言えばいいかわからないと悩んでいる思ったのかもしれない。ティルデが助け舟を出してくれた。
「お前さん達には聞いておらん。おれはその若造に聞いとるんだ」
しかしティルデの助け舟は、おっさんによって撃沈されてしまった。つーか、若造って俺の事か?もう45だけど若造って事でいいんだよな?
そんな冗談は置いといて・・・。なんて説明するのが正解なのか全く思いつかない。だってそんな事聞かれるなんて思ってもみなかったもん。仕方ない。ここは馬鹿正直に話すしかないだろう。
あれこれ考えても仕方ないと思った俺は、ここまでの経緯を正直に話すことにした。とは言え、転生したとかそこらへんは割愛だ。
「ダリオさん。先ほど彼女が言ってくれた言葉は全くのウソではありません。我々は女王陛下のお役に立ちたいと思っています。ただ、それが一番ではないのです」
「ほう、じゃあ何の為にお前さん達は、あの落ち目の女王に協力してるって言うんだ?」
「実は私には友人が居まして」
「あん?なんだそりゃ、この話に関係あんのか?」
そりゃそうだ。話が無関係の方向に飛んでるようにしか聞こえないよな。
「はい、なのでこのまま聞いていただけると助かります」
「ふん」
「実はこの地にやってきたのは、その友人を探しだし連れ帰る為なんです。そして私はこの地で友人と会う事が出来ました」
「へ、そりゃ良かったじゃねーか」
「はい。ですが、困った出来事に遭遇してしまったのです」
「ふん、話してみろ」
良かった。とりあえずまだ話を聞いてくれるようだ。
「ありがとうございます。その困った出来事と言うのが、友人は女王陛下を大変尊敬しており恩義も感じているのです。なので、今の困難な状況をほったらかしのまま、私と一緒にいくわけには行かないと言うのです」
隣を見ると、ティルデが少しうつむいているようにも感じた。いや別にティルデを責めているわけでは無いんだが、彼女からしたら開き直れることでも無いんだろう。
「それで、その友人を連れて帰るためにお前たちは女王に加担している・・・ってわけか?」
「いえ、それは少し違うのです」
「は?今の話の流れだと、そういう風にしか聞こえなかったが?」
「その友人と言うのは、私にとって非常に大事な人なのです。彼女の為ならこの命を投げうっても構わないとさえ思っています」
うわーこれ恥ずかしい!俺の隣にその本人が座ってるのに・・・。怖くてティルデの方を見る事が出来ん・・・。
しかしこれは俺の本音だ。ハイランドで右も左もわからない俺をサポートし、森では文字通り命を救ってくれた。そして自分の人生と命をかけてまで、俺を亡命させてくれたんだ。正直今回の事くらいじゃ借りを返した気になんか全くならないね!
「そして、私の敬愛するその友人が尊敬してやまないのがこの国の女王陛下だと言うのです。だから、私が陛下に協力しないという選択肢はあり得ないのです。彼女が陛下に協力するというのなら、私もそうするまでです」
そして最後に、これが我々が女王陛下にご協力させて頂いている理由です。と付け加えた。
俺にとってこの赤い髪のローフィルの魔法戦士は、親友とか戦友とか、そんな言葉で片付けられる存在では無いのだ。
どうかな?ダリオのおっさんにはわかってもらえただろうか?俺は俺が思っていることを全部正直に話した。これ以上の上手い話し方も思いつかない。
おっさんはしばらくの間、腕を組んで考えているようだった。が、おもむろに立ち上がってこう言った。
「いいだろう。今度の宿屋のオーナー会合でお前らの話を提案してやろう」
「ホントですか!?」
「今更嘘をついてどうする。その会合でお前自身でその計画を説明しろ。いいな?」
「は、はい!ありがとうございます!」
やったぜ・・・。第一関門突破だ!と言うか、第二関門があるとは思ってなかったぜ・・・。けど、この超難易度のおっさんを説得できたことはちょっと自信になった。
「それと」
「はい?」
「お前のその大切な友人とやらが、さっきからぼろぼろだ。なんとかしてやれ」
「え?」
俺はダリオの言葉に驚き思わずティルデの方へ振り向いた。そこには涙で顔がぐしゃぐしゃになったティルデの姿があった。と言うか、ダリオには俺の友人がティルデだって事はばればれだったようだ。
「大丈夫ですかティルデ!」
俺は慌ててハンカチをティルデに手渡した。
「あなたがあんな事言うからじゃない・・・」
「・・・いえ、でもあれが僕の本音ですので・・・」
そう言うと、再びティルデの眼の大粒の涙がこぼれ始めた。よく見ればアリーナももらい泣きをしている。そっか、彼女も事情を知っているうえに、ずっとティルデと行動を共にしてきたんだもんな。
ティルデの為にも、俺は絶対この計画を成功させようと、固く心に誓った。