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独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第二章 ひとつ上の自分へ
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実践訓練の前に

 今日の実習は、野外での実践訓練だった。毎日の訓練の成果を、剣士は剣の修行の成果を試し、魔導士は自分の魔法スキルを、そして神官は回復魔法の出来栄えを実践で試すんだ。


 そして魔法剣士となった俺だが、この職業訓練所に入ってからは、まずは、戦闘状態になってもすぐにへたれない体作りが大切だと身に染みてわかったので、剣の修行を行っていた。なので、まずは剣の実践訓練に参加する。


 そういう説明を、俺たちは訓練所の教室で、町の衛生兵、マルセルから受けていた。


 町の兵士で、俺とユーディーが聴取を受けた時のあのおっさん・・・じゃなかったお兄ちゃんだ。


 訓練所は、基本ヴィルちゃんがすべての授業を受け持つんだけど、野外実習のような、引率が基本的に必要な授業の場合、軍や町の衛生兵などがその役割を担う場合もあるらしい。


「まあ、お前らひよっこの面倒見れるのは、実践経験に優れた俺たちみたいな兵士じゃなきゃ無理だろうな」


 等とほざきつつ、高笑いをしている。


 何が優れた俺たちだよ。俺みたいな素人にもわかるような不自然な聴取をしやがってたくせに。


 まあ、あいつがこんなにはりきってる理由は一つ。今回はティルデも引率として、実習に参加しているからだ。マルセルの奴、ティルデに気があるもんだからすげえはりきってるんだと思うわ。


 最近は、俺とティルデが毎晩一緒に飯食ってるって知って、露骨に俺に対抗意識を燃やしている。


「なあ、お前、巨大蜘蛛と遭遇したことあるか?」


「いえ、見たこともないです」


「え?うそまじで?俺なんか、お前くらいの年の時にはバンバン戦ってたんだけどなあ」


的な話を、ティルデと一緒の時に自慢気に話してくるんだ。


 本人は気付いて無いんだろうが、お前がその話をしている時のマルセルを見るティルデの生暖かい目ったら、逆にマルセルを心配してしまうくらいの物だったんだぞ。


 とどめがマルセルがどっか行った後「ごめんなさい、あの子まだ子供なのよ」と、27歳友人の幼稚な言動を15歳の俺に謝ってきた事だ。


 あまりにもかわいそう過ぎて、マルセルには同情すら覚えたよ。


 そんな事も知らずに当の本人は「お前ら、俺とティルデが戻ってくるまでにパーティー分けしとけよ!」などと偉そうに言っている。


「じゃあティルデ、俺たちは事務室で打ち合わせしようか?」


 と、俺に見せつけるように親し気にティルデに向かって話しかけるマルセル。


「はい、マルセル先生」


 とティルデに答えられて、マルセルは「どうだ見たか!?」というどや顔を俺に向けながら教室を出て行った。


 あいつ馬鹿じゃねーの?


 マルセルは先生とよばれて満足してるようだったが、あれ完全に距離を置かれてる格好だからね。ああいう所をわからないから、いつまでもティルデに子供扱いしかされないんだよ。


 さて、うるさいのが居なくなったんで、さっさとパーティーを組みたい所なんだけど、問題が一つだけある。


 俺、誰とパーティー組めばいいの?

 自慢じゃないが、俺はこの世界に来てから日が浅い。しかも、黒髪の思い切り日本人顔と言う、この世界でも珍しい人種なので、どちらかと言えば訓練所でも浮いてる存在だ。


 さらに言えば、もう一つ問題があった。それは何かというとだな・・・。


 俺がトイレに行こうと席を立った瞬間だった。机と机の間を歩いていると、急に何かに足が引っ掛かり、こけそうになった。慌てて後ろを振り返ると、そこには引っ掛かるような物は何もなく、そんな俺の姿をニヤニヤとみている、クラスメイト達の姿があるだけだった。


 そう、実は僕はいじめられてるんです。


 40歳にして、10代の子供たちからいじめられてるんです。


 いやもうびっくりしたね!まさかこの歳になっていじめられるとは思わなかったもん。しかもさ?俺が全然泣いたり怖がったりしないもんだから、意地でも泣かせちゃるって感じで、そりゃもう執拗にからんで来るんだよ。


 まあでも、会社勤めしてた頃の、上司からの嫌がらせとかに比べりゃかわいいもんだけどな。


 なので、本当に大変なのは俺じゃなくて、この前、ヴィルちゃんからのお仕置きをご褒美だと断言したアルフォンスの方だと思う。


 実はあいつは、俺が来る前からいじめられてたっぽいんだが、俺というイレギュラーな人種が登場したことで、一時期いじめからは解放されていたんだ。


 ところが、俺があまりにもいじめ甲斐が無いと判断したそいつらは、俺へのいじめは継続しつつ、再びアルフォンスをも標的にし始めたんだ。


 ほら、あいつさ、あーいう性格じゃん。


 ちょっと前に、、アルフォンスが俺に名乗ったんで俺も名乗り返したら、君の名前なんかどうでもいい!とか言いやがったからな。


 こいつは基本的に、他人を下に見る傾向がある。それがいじめを誘発している部分も少なからずあるように見える。だからと言っていじめが容認されていいとは思わないけどな。


 まあそういうわけで、足をかけられてこけそうになったものの、何事も無かったような顔をして、トイレへと旅立ったわけだ。そしてトイレから帰ってくると、案の定、アルフォンスへ絡んでいた。なんつーわかりやすい奴らなんだ・・・。


 なので俺は、アルフォンスに助け舟を出したかったわけじゃないが、マルセルからパーティーを組んどけと言われてたからな。


「アルフォンス、俺とパーティー組もうぜ」


 いじめっこ達に絡まれてる最中、構わずにアルフォンスにオファーを出した。いやあ、いじめっ子達の呆気にとられた顔ったら無かったねえ。「お前何やってんの?」って思考が、ありありと表情に出てたもん。


 けどまあ、いつまでも呆けているわけもなく、奴らの中の一人が俺の胸ぐらを掴みながら怒鳴り声を上げる。


「お前ふざけんなよ!調子に乗りやがって!」


 こういうセリフって、異世界でもお決まりのあれなのか?ってくらいの罵声が飛んできた。しかも、明らかに調子に乗ってるのはこいつの方だしな。


「いや、パーティー組んどけって言われてただろ?お前らも早く組んだ方がいいんじゃねーの?」


「ふざけんなーー!」


 その瞬間、俺の視界は殴られて暗転した。そしてすぐに「何をしている!」というマルセルの声が聞こえてくる。


(よっしゃー!)


 俺は殴られて若干めまいがするものの、絶妙のタイミングでマルセルとティルデが現れたことに、内心、ガッツポーズをしていた。


実はさっきトイレにいってる時に、廊下の方からマルセルのでかい声が聞こえてきたんだよ。なので、俺たちがいじめられている決定的な瞬間を、マルセルとティルデに見せれたらいいな~とか考えてたんだが、まさかこんなに上手くいくとは思わなかった。


 ちょうど殴られる直前にマルセルが入ってくるのが見えたもんなあ。殴った奴は茫然自失としてるぜ。


 俺はと言えば、ティルデに大丈夫?と頭を抱えられながら「役得役得」とか思っていたが、ここで最後のひと押しをしなければならない。


「実は、ずっと前からいじめられてたんです僕・・・」


 そうマルセルとティルデに言ってやった。


 二人は、俺がそんなしおらしい事を言うような奴じゃ無いとはわかってると思うが、今のは明らかに現行犯だからな。おーおー、いじめっ子達は顔面蒼白になってるよ。まさか俺がそんな事を先生二人に言うとは思わなかったんだろう。


 甘いな!子供の頃だったら、相手への恐怖とかかっこ悪さとかが邪魔をして、絶対先生に言ったりは出来なかっただろが、生憎俺は40歳のおっさんなんでな。そんな変なプライドとか無いんだよ。


 俺は、俺とアルフォンスをいじめていた奴らの名前を全員マルセルにチクってやった。当たり前だろ?いじめダメ絶対!


 アルフォンスは、そんな俺のやり取りをぽかーんとした顔で見ている。


 はあ、実務訓練の前に、こんな一波乱があるとは思ってもみなかったわ。しかもパーティーメンバー決まってないし!

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