同行者
「で、アルターラを出てどこに行くの?」
俺達が話しをしているのは、サランドラ商会の事務所だ。そこでフィオリーナさんに近々アルターラを出るかも、と言う話しをしていた所だ。
「バルサナ王国です」
「バルサナかあ・・・」
フィオリーナさんは俺の答えに渋い顔をした。もしかしてバルサナ王国ってやばい所なのか?
「バルサナにはサランドラ商会が無いの」
「あ、そうなんですね」
なんだよ、たったそれだけかよ・・・。なんか内戦が行われているとか治安が悪いとかそういう話しかと思ったぜ。
「あ、何だそんな事か、とか思ったでしょ?」
ぎくっ。もしかして顔に出てたか?
「シンちゃん、思い切り顔に出てたよ」
答えたのはフィオリーナさんでは無くてユリアーナだった。でもさ、やり手のフィオリーナさんが深刻な顔して何言うかと思ったら、なんだそんな事かって思うだろう?
「フィオリーナさんが深刻な顔して言うから、内戦でも起きてるのかと心配したんですよ」
「内戦は起きてないけどね。けど、たちの悪い状態って意味では同じかも」
「たちが悪い・・・ですか?」
内戦と同じくらいの悪い状態ってどういう事だ?
「コレナガさん、先日お話した、バルサナが4つの国に面しているって事覚えてますか?」
ギルドからの帰り道にした話だな。覚えてるよ。なんか付き合いが面倒そうだな~って思ったのを覚えてる。
「バルサナは、その中でもアレスとガルドラに深く影響を受けているんです。政治的に」
「政治的に影響を受けている?でも確か、アレスとガルドラって小さい国なんですよね。リバーランドからの影響が大きいとかならわかりますけど」
だって、大抵影響を受けるなら大国からだろ?なんで小国からの影響がでかいんだ?
「まあ、それに加えバルサナは小国なので、我々が入る隙が無いのも実情なのよ」
「ああ、なるほど」
それはわかる。苦労して進出しても、それに見合った見返りが無いって事だろ。まあ政治の事はよくわからん。俺に関係ないし。
「じゃあ特に治安が悪いとかって話じゃないんですよね?」
「治安は良いわよー。もしかしたらアルターラよりもいいかも」
なんだ、じゃあ問題ないじゃん!
治安が悪かったらソフィーをどうしようとかすげえ考えちゃったよ。連れていけないなら、北リップシュタートで預かってもらうくらいしか選択肢無いんだけど・・・。
「うーん」
しかし当のフィオリーナさんは、腕を組んで頭を悩ませている様子だ。なんかそんな悩むようなことあったっけ?
「よし決めた!」
突然フィオリーナさんが「パンッ」と手を叩いて立ち上がった。
「支社から一人、あなた方に同行者を付けさせてもらいます」
「え?」
えーっと、つまりどういう事だ?俺達の旅にサランドラ商会からも加入させるって事?なんで?
「え?なんで?」
ユリアーナが大変素直な感想を、これまた素直にフィオリーナさんに言っていた。だよなあ、そう思うよなー。
「あなた達って、色々なスキルを持った人達が集まっているとは思うのだけど、唯一、交渉だけは得意じゃないよね?」
おう・・・。痛いところをつかれたぜ・・・。正直俺は得意じゃないし、ユリアーナもそうだ。なので大体エレオノーレさんにお任せする事が多いが、彼女も別に得意でやってるわけじゃない。
話しの流れから察するに、俺達の弱点を補う人材を付けてくれるって事だろう。でもなんで?正直サランドラに利点なんか無いと思うけど。
「だから、その辺をやってくれる人材をあなた達に預けようと思うの。もちろんこれは私達にも利点がある話よ」
さすがフィオリーナさん。俺達が聞きたい事も把握したうえで話しを進めてくる。まあ、こういう所が俺達に足りないって話しなんだろう。
「その利点とは、バルサナの市場調査をリスクを軽減したうえで行える事が一つ」
「市場調査?」
市場調査つったら、まあ市場調査だろうな。でもさっき小さい国だからリターンが小さいみたいな話しをしてなかったか?それなのに市場調査するの?
「えーと、市場調査してもリターンが少ない事はわかっていらっしゃるのでは?」
「その通りよ。けど、市場は生き物だからね。定期的に調査チームは送ってるの」
ああ、そういう事か。支店がバルサナ国内に無いから、わざわざ人を送る必要があるって事か。
「で、道中の安全なんかを考えて冒険者を雇ったりしてるんだけど、あなた達と一緒なら道中の不安も無いしね」
な、なるほど・・・。俺達と一緒に行けばボディーガード代も浮かせると・・・。ちゃっかりしてんなー。
「もう一つは、経験ね」
「経験?」
「そう。社員の実戦経験を詰ませるの」
「社会経験って事ですか?」
「それもあるけど、実際のクエストにも参加してもらうの」
「は?」
え?まじの実戦経験って事?なんで?
「それが何かの利点になるんですか?」
全く分からんので素直に聞いてみることにした。だって、戦闘やその他のクエストが何の経験になると言うんだ。
「冒険者のクエストって、一筋縄では行かない事が多いでしょ?この前のグリーンボアみたいに、何が起こるかわからない、とかね」
「ええ、まあ、あんな事が頻繁に起こっては困りますけど」
「あはは。まあ、事の大小はともかく、色々な思いもよらないトラブルがつきものでしょ?」
「そうですね」
猫のシロちゃん探しとかな。あれはまさかあんなに苦労するとは思わなかった。でもまあ、おかげで色々助かった事もあるんだけど。
「それって私達も一緒なの。色んな人達と仕事をするから、こちらが予想もしない事が起きたりもするのよ」
そりゃそうだろうなあ。俺もサラリーマンやってた頃は、そりゃもう泣きそうな毎日を過ごしたこともある。
「だからそういう事をいっぱい経験して欲しいのよね」
「なるほど」
まあそう考えると、何が起こるかわからない冒険者との旅は、良い社会経験にはなるかもしれないな。けど・・・。
「けど、当の本人はどう思ってるんですか?あまり乗り気じゃない人を同行させるのはちょっと・・・」
サランドラ商会と言えば結構大手の商社だと思う。そんな大手に入社したのは、別に冒険者としてクエストをする為では無いだろう。正直乗り気じゃないんじゃないの?