適格者--ティルデ視点--
----------------ティルデ視点------------------
コレナガシンとユーディ・ビッケンバーグの聴取が終了した。
まさか、フォンシュタイン家の三男が、ユーディと言う、エルフの中でも一際美しさが際立つ彼女に良い所を見せようと、指定されたクエストのさらに奥の、立ち入りが禁止されたエリアに侵入していたとは思わなかった。
あの辺りはゴブリンの亜種が確認されてたから、あえて立ち入りを制限していたのに。
しかも、自分の命が惜しいばかりに、自分を助けに来たコレナガシンと、魔法で援護してくれたユーディを見捨てて自分の家に逃げ帰ったと聞いた時はもっと驚いたわよ。
おかげで、あのお坊ちゃまの社会的地位を守るために、ユーディとコレナガシンへの情報操作を行わなくてはいけなくなった。
ユーディの方は比較的簡単だった。彼女の家、つまり「ビッケンバーグ家」は、フォンシュタイン家に使える身分、なのでその辺をユーディに伝えるだけで事はすんだ。
問題はコレナガシンの方だ。彼の生まれを調べると、フォンシュタイン家の影響力が及ばない地方の出自となっていた。
なので、フォンシュタイン家から権限の代行許可を受けているマルセルが、今回のクエストには、フォンシュタイン家の三男「アルマント・フォルシュタイン」は「皆を助けようとしてはぐれてしまった」事にする結論を出した。
いくら平民の子とはいえ、人が一人死んでいるにも関わらず、自分達の家の名誉を優先するフォンシュタイン家には腹が立つけど、それに逆らう術を持たない自分にはもっと腹が立つ。
問題は、この理不尽であからさまな情報操作をコレナガシンが受け入れるかどうかだったけど、私は彼が受け入れるという妙な自信があった。
彼はとても15歳と思えないほど頭が良かった。聞き分けも良いし、文句は言うけど不満は言わない。森で動物を狩る時も、私から引き出せる情報は全て引き出そうと言う思惑も見えた。
そして私の予想通り、彼は私達の思惑を察して、あまり深入りすることがないよう努めて冷静に対処していた。当然不満はあったでしょうけどね。
だから私は、彼にこの世界で生きるためには、決して逆らってはいけない物事が有ることを教えた。彼の住んでいた地方がどのような政治体制になっているかはわからないけど、この地域では、フォンシュタイン家の意向は絶対だ。時には人命よりも、フォンシュタインの意向が尊重されることも有る。
私は、たぶん彼のことが気に入ってる。そしてユーディの事も。なので、マルセルには、「適格者」同士でパーティーを組ませてはどうかと提言した。ゴブリン亜種との戦いでも、レベル1にしては見事な連携を見せていたし、中々のコンビになりそうな気がする。ユーディーはこの提案に乗り気だったので、あとはコレナガシンだけだが・・。
ただ、コレナガシンは、もしかしたらこの提案を辞退してしまうかもとは思っている。なぜなら、彼は自分の能力というものを客観的に見ている節が有る。
だから、コレナガシンにはもう一つの道を用意してみた。職業訓練所である。
職業訓練所は、ギルドに依頼されるクエストの中から、低レベルでも達成できそうな物を授業内容に取り上げ、それをこなすことで、冒険者としてのスキルを磨いていく場所だ。
一応、クエストをこなすわけだから、報酬もでるし、泊まる場所も完備されている。金も止まる場所もない彼には、こちらの方が魅力的に映るかもしれない。
そして実際、コレナガシンはユーディの申し出を断ったようだった。そして職業訓練所に参加するみたい。ユーディは、新たにパーティーを結成して、しばらくはこの街で活動を続けるようだ。
フォンシュタイン家がどういう基準で、彼らを「適格者」として扱っているのかはわからないけど、出来れば政治的なこととは無縁に、そしてどうか無事に立派な冒険者になってほしいものだ。
そしてこの後私は、「適格者」についての衝撃の真実を、私の人生を変えてしまうほどの事実を知ってしまう事になる。