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独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第九章 第三都市アルターラ
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依頼主ブリジッタ

「で、シンちゃんは何のクエストを受けたの?」


 夕食後、ソフィーに淹れてもらった紅茶を飲みながらのんびりしていると、ユリアーナから今日のギルドでの結果について聞かれた。


 午前中、俺の手伝いはしない宣言をしたものの、落ち着きを取り戻した現在、ちょっとは俺の同行を気にはしていたらしい。これはエレオノーレさん談だ。


「ええっと、飲み会のお手伝いをして欲しいそうですよ。仕事自体は1週間後の休日という事になっています」


 俺は平静を装ってはいたが、内心は心臓をバクバクさせながら答えていた。


「ふーん」


 幸いなことに、ユリアーナの返事はそっけないものだった。恐らく午前中、あんな態度を取った手前、興味津々で聞くわけには行かなかったんだろう。


 普段だったら「なんですかその全く興味ない感じは!ちょっとは興味を持ってくださいよ!」等と抗議するところだが、今回は変に興味を持ってもらうと非常に困るので、ユリアーナさんが興味を持っていないのは幸いと言える。


 なぜなら、飲み会は飲み会でも合コンという名の飲み会であり、合コンの人数合わせと言う名のお手伝いだからだ。


 それにしても驚いたぜ。まさか依頼主が、サランドラ商会アルターラ支部の、あの受付の女の子だったなんてな。




「あれ?確かあなたは・・・」


「ええっ!コレナガさんが依頼受けて下さるんですか!?」


 ギルドから提示された依頼主の連絡先を尋ねてみると、なんとサランドラ商会の建物だった。俺の住む建物とは別の独身寮らしい。


 ちなみに俺達が住んで居るのは、サランドラ市内にある各支部のお偉方が住む建物だ。どうりであんな広い部屋があると思ったぜ。


「いえ、まさか僕もサランドラの方の依頼とは思ってもみなかったんですが・・・」


「あ、そっか。建物名とか見てもわかりませんよね」


 彼女が言うには、関係者なら建物名でサランドラの物件だとわかるらしい。ほら、日本でもあるだろ?第一〇〇ビルとかさ。そんな感じらしい。



 で、彼女はブリジッタと言うらしいんだが、ブリジッタが言うには、今回の合コンはサランドラ側から5名の女の子、冒険者側から5名の男が参加予定だったらしい。


 ところが冒険者の一人が急なクエストの為、長期に渡りサランドラを離れなきゃ行けない事となり、それで急遽ギルドに依頼を出したんだと。


「お願いしますコレナガさん!もう私、同僚の女の子達に選りすぐりの冒険者選んどいたから!って言っちゃったんです!」


 物凄い勢いでブリジッタがお願いしてきた。目がマジでちょっと怖いんだが。


「あの、選りすぐりって、僕の冒険者レベル1ですよ」


「・・・へ?いやだってコレナガさん、あのユリアーナさんの冒険者仲間なんですよね?」


「はい」


「え?それでレベル1とか冗談きついですよーあはははは」


 ブリジッタは俺の言う事を完全に冗談だと思っているようだ。仕方ない、ここは俺のマザープレートを見せてやるか。


「これ僕のマザープレートです」


 ブリジッタは俺から手渡されたマザープレートを笑いながら受け取ったが、その顔は次第に険しくなっていった。


「コレナガさん、ここにレベル1って書いてあるんですけど」


 ブリジッタは、まるで信じられない物を見ているような目で俺とマザープレートを交互に見ている。くそっ、なんで俺がこんな羞恥プレイを・・・。


「だから言ったじゃないですか。僕はレベル1だって」


「ええっ!でもじゃあなんで歌姫と一緒に冒険してるんですか!?」


 歌姫ってユリアーナの事か?あいつ歌姫とか呼ばれてんの?


「えっと、その姫ってのはユリアーナの事ですかね?」


「そうです!姫は、冒険者としても結構有名で、レベルも70を超えているはずですよ!」


 レベル70って凄いのか?ティルデは100超えてるって聞いてたから、70は普通じゃねーの?


「あの、70って凄いの?」


「そこからですか!?」


 再び信じられない物を見るような目で俺を凝視するブリジッタさん。もうやだ帰りたい!


「レベル70の冒険者と言えば、国に1000人も居ないと思いますよ」


「まじで?」


「まじです」


 マジかよ・・・。あいつそんなすげえ奴だったのか・・・。いやでも、それにしちゃあ、イノシシを仕留めるときも、そんなすげえ感じしなかったけどな。普通に魔法は唱えてたけど。


 まあ、今はそれはどうでも良いか。


「あの、それはともかくですね?僕は選りすぐりの選ばれた冒険者でも何でもないので、今回のクエストには適さない気がしてきました」


 全く冗談じゃねーよ。そんな将来有望な冒険者の中に放り込まれるなんて絶対嫌だぞ。人数合わせのためとはいえ、合コンの間の数時間、ずっと惨めな思いしなきゃいけないとか何の罰ゲームだよ!


 確かに、ここで生活していくためには金が必要だ。しかも奴隷市場でそれなりの金額を支払ったので、資金に余裕があるわけでも無く、正気な所やや貧乏生活に片足を突っ込んでいると言っても間違いではないと思う。


 けどこの仕事は、正直俺の手には余りまくりな気がする。悪い予感しかしない。


「じゃ、そういうわけで、今回の話は無かったという事で・・・ぐうぇっ!」


 俺がクエストはお断りして帰ろうと出口へ向いたら、突然ブリジッタに襟首を捕まれた。


「ちょっと、何するんですか・・・ええええっ・・・」


 俺が振り向くと、ブリジッタは目に涙を貯めて俺の服に縋り付いていた。


「お願いしますぅぅぅぅぅぅぅぅう!もうコレナガさんで5人目なんですぅぅぅぅぅ!」


 俺以外に、もう4人に断られてるのか・・・。でも、将来有望な若手エリート集団の中に放り込まれるのは誰だって嫌だろう。もちろん俺も嫌だ。


「合コンは明後日だし、もう見つかる気が全然しないし、コレナガさんだけが頼りなんですぅ!」


 ここで俺が断ったら、ギャン泣きしそうな勢いで懇願してくるブリジッタ嬢。しかし、大手商会の女子社員と将来有望株の冒険者男子、そんなエリート集団の中に数時間も放り込まれたら、今度は俺がギャン泣きしそうだ。


「合コンの間ずっとご飯食べててもいいですし!あ、何なら、クエスト代金に含まれないお酒代も出しますからあああああっ!」


 そこまでか!?ブリジッタ嬢はよほど追い詰められているらしい。その合コンにそれほど賭けているって事か・・・。うん、全く理解できんな。俺は酒もそんなに強くないし。


 日本では全くと言って良い程飲めなかった俺だが、異世界の酒とは相性が良いのか少しは飲むことが出来ている。とはいえ、飲む方では無いのは確かだけどな。


「あー悪いけどブリジッタさん、やっぱり今回の件は・・・」


「報酬は食事代を含む正規の金額に加え、さらに100%上乗せしますから!」


「引き受けましょう!」


 こうして俺は、どう考えても俺には無理ゲーな合コンのクエストを引き受けたのだった。


 全部貧乏が悪い。


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