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独身リーマン異世界へ!  作者: 黒斬行弘
第九章 第三都市アルターラ
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インタビュー

「だからですね、ユリアーナさんがインタビューを受けている所は見学可能ですか?」


 俺は「何言ってるのかわからない」って顔をしているユリアーナにもう一度質問した。だって、こんな場面を見る機会なんてそうそうないじゃん。あの割と自由気ままに生きている印象のあるユリアーナがどんな風にインタビュー受けるのかは凄く興味がある。


「良いわけないじゃん!遊びじゃないんだから!」


 むー、やっぱりダメか?いやでもフィオリーナさんに頼み込んだら意外といけそうじゃね?


「あら、それは私も見てみたいですね」


 俺がどうにかして見学できないか考えていると、エレオノーレさんから援護射撃が来た。


「ですよねー!」


「はい。ユリアーナの演奏は何度も聞いてますけど、それ以外のお仕事の部分はほとんど見た事ないので」


「いやいやいや、インタビューなんて見てても全然面白くないからー!」


 これ以上ないくらいすっげえ嫌な顔でユリアーナに拒否された。そんなに嫌がられると是が非でも見たくなるな。



 そして午後。俺達は、サランドラ商会の会議室に来ていた。


 あの後フィオリーナさんに確認したら「え?別に良いわよ」とあっさりOKをもらった。あの時のユリアーナは、この世の終わりみたいな表情をしていたなあ。


 それはそうと、インタビューって聞いてたからもっとかしこまった場所でやるのかと思ったら、会議室でするんだってさ。


 俺はもっとオフィシャルって言うか、それらしい雰囲気の場所でインタビューが始まるのかと思っていたが、特にそういうわけでは無さそうだ。


 とはいえ、ユリアーナが、あの「女子楽団」のユリアーナだと周囲に知れ渡ってからは、会議室周辺に社員の人だかりが出来ていた。


「やばい!こんな近くでユリアーナに会える日が来るとは夢にも思ってなかったぜ!」


「あ、この野郎!お前はオルトルートちゃん一筋って言ってたろうが!」


 等と言う声があちこちから聞こえてくる。まじですげえ人気だな。廊下を歩いている間のユリアーナさんは、それはそれは、気品あふれる笑顔を皆に振りまいていた。


 そういえば、さっきの社員が言ってたオルトルートって子、リバーランドで同僚だったフェルテンもオルトルートファンだと言ってた気がする。フェルテン元気でやってるかな。人見知り激しい奴だからなあ・・・。


 それにしても皆の反応を見ていると、ユリアーナとオルトルートちゃんの人気が二分している感じなのか?


「それじゃあインタビューを始めるわね」


 俺がリバーランドでの事を思い出しているとインタビューが始まった。インタビューするのはフィオリーナさん自らのようだ。


「どうぞ」


 ユリアーナは、半ばあきらめ顔でインタビューに応じている。


「じゃあ、最初の質問ね」


 フィオリーナさんからの最初の質問は、どうしてサランドラと手を組むことになったのかだった。まあ、サランドラ、と言うよりは、アスタリータと手を組んだってのが正解なんだけど。


 そこを馬鹿正直に訂正する必要も無いので、旅の途中、偶然知り合った商店との出会いがきっかけ、てな事をユリアーナは話している。


 その中でカペリからサランドラへ乗り換えた事もユリアーナは話していた。


「ちょっとユリアーナさん」


 インタビュー中ではあるが、俺は思わずユリアーナに話しかけていた。


「何?」


「えっと、カペリから乗り換えた事とか話しても大丈夫なの?」


 俺が心配しているのは、このインタビューによって、カペリからサランドラに鞍替えしたユリアーナがカペリ関係者からのヘイト、つまり敵対心を向けられるのでは?という事だ。


 彼女のファンの中にはカペリ関係者だっているだろう。このインタビューが今後の彼女の活動に影響したりするんじゃねーの?


「あーそれなら大丈夫」


「そうなんですか?」


「だって趣味の活動だし」


 あーそういえば、熱狂的なファンがいるから失念してたが、元々音楽好きな奴らが集まって演奏しているだけとかフェルテンも言ってた気がする。


「これが営利活動だったらもうちょっと言葉選ぶけどね。まあ、オルトルート辺りがインタビュー読んだら激怒しちゃうかもねー」


 そう言いながら、あっはっは!と笑うユリアーナ。いや全然笑えーねーんだが・・・。まあ、色々と彼女たちの間でもあるんだろう。全く知りたいとは思わないけどな。


 それにしてもさっきこいつは、遊びじゃないからインタビュー見学とかダメって言ってたけど、やっぱ趣味じゃねーか。


「あら、楽団内の話し?それも面白そうね!」


「別に面白くないわよ。大々的に売り出したい子とそうでない子がいるって話だし」


「えーすごく興味あるんだけど」


「まあ、機会があれば・・・ね」


「残念」


 ユリアーナの話にフィオリーナさんが凄い勢いで食いついてきた。まあ、面白そうな話ではあるけど、関わるとろくな事にならない予感がする。


 それはそうと・・・。


「ところでユリアーナさん」


 インタビューも趣味の範疇だとわかったので、俺は遠慮なく話しかけることにした。


「何?」


「なんでインタビュー受けてるのにクールフェイスしてないんですか?」



 俺はユリアーナの仕事モードの顔を見るためにここに来たのに、さっきから全くいつものリラックスモードでインタビューに受け答えしている。俺はこんないつものユリアーナを見るために来たんじゃないぞ。


「知らないよー!シンちゃんが勝手にインタビューに参加したいって言ったんじゃん!」


「そりゃ、インタビューと言えば仕事なんだから仕事モードになるって思うじゃないですか」


「いや、仕事じゃなくて趣味だし・・・。それにそういうのは「ここぞ!」って時にしかしないの」


 俺はユリアーナの言葉を聞いて、そういえばと色々思い出していた。



 彼女を最初見たのはフェルテンに連れられて行った演奏会の時だ。あの時ステージを去る瞬間、こいつは妖艶な笑みを俺に向けていた。あれで俺はしばらく悩むことになったんだ。


 次は俺の家にバリーのおっさんやリバーランド兵と一緒にやって来た時だった。あの時も余裕ある涼しい笑みを浮かべていた。


 なるほど。あれ全部、俺をなんとか北リップシュタートへ連れて行くために、一生懸命作ってたクールビューティーだったのか・・・。


 俺は思わずユリアーナの肩に手を置き、うんうんと頷いてやった。こいつも苦労してるんだな・・・。



「ちょっと!なにその人を憐れむような顔は!?」


「いいんだ、わかってるから」


「いやいやいや、全然わからないからー!」


「こほん!」


 俺とユリアーナがギャーギャー騒いでいると、エレオノーレさんが咳払いをしながらこっちをじっと見ていた。


 これ以上エレオノーレさんを怒らせるのは得策では無いので、俺とユリアーナは静かに席に着く事にする。


その後は、今後サランドラとどのような付き合いをしていくのか、楽団の今後は?のような質問にスラスラとユリアーナさんが答えていくのを静かに見ている事に終始していた。


 エレオノーレさんに怒られたくなかったしな。



 それにしても、だ。


 元々の素養はあったにせよ、やはり他人にはわからない努力もあったからこそ、こうやって大勢の人に注目されるような存在になれれたんだろう。実際ステージに立っていた時のユリアーナは輝いていたと思う。


 そんな努力をしていない俺は、日本に住んで居た頃と比べどれだけ変化しただろうか?あの頃みたいに卑屈になっていないだけ成長はしてるのか?これだけは未だに判断できないんだよな。前に進んでいるようで全く進んでいないような感覚って言うの?


 いやしかし、澤田なんかの成長を見ると、俺なんか全く変わってないとも言えそうな気もするな・・・。あの時、女の子に良い所を見せようと俺を殴って来た時の奴とは全然違う男になってたからな。


 俺はこちらを意識しながらも、一生懸命インタビューに答えていくユリアーナを見ながらそんな事を考えていた。


 そしてこの後、楽団の才女であるユリアーナの冒険仲間として、何故か俺とエレオノーレさんもインタビューされた。


 もちろんユリアーナさんの顔を潰すわけには行かないので、そりゃあ色々とある事ない事盛に盛ってユリアーナさんをヨイショしまくったよ。最後に本人から泣きが入るくらいにな。


 いやあ、あんな顔を真っ赤にして困った表情のユリアーナは初めて見たぜ。


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