プロローグ
「いたたたたた・・・」
気が付くと、俺は見たこともない部屋の中で寝転がっていた。
全身からひどい痛みを感じるが、どこにも怪我はないみたい。
「よ、気がついたかい?」
どこからともなく声が聞こえてきて俺はビクッとなってしまった。
「誰?」
「俺?俺は「この世界の神様」だよ」
「?」
「まあ、それはいいとして。君が今置かれている状況について説明するね」
そう言ってその声は、俺の目の前に映像を映しだした。
「これは今日の君の一日を映像化したものなんだ。これで、現状を把握して欲しい」
そして目の前に映し出された映像を見て、俺は今日一日に起こった出来事を克明に思い出していた。
****************
俺は今日、会社をクビになった。
40歳で独身童貞サラリーマンの俺は、自分より若い課長からリストラ宣告を受けた。
会社も非常に苦しいとか、長年当社に務めてきた是永さんにこんな事を言うのはつらいのだがとか、掛けられた言葉はお決まりのセリフのオンパレードだ。他の社員も大体察しが付いていたのだと思う。俺とあまり目を合わせないようにしていた。
趣味はゲームとアニメ。他には何の特技もない俺がリストラされてこの先どうすりゃいいんだ。そんな事を考えながら、俺は今アパートへの帰路についている。
こんな日は早く家に帰って、この前購入した新作エロゲ「お兄ちゃんが大好きな妹達2ずっと一緒だよすぺしゃるぱっけーじ☆」をやるに限るな。今日は沙織ちゃんルート攻略で現実逃避するしかないな!
バコオオオン!
酔っぱらいが付近のファミレスの裏に置いてあるゴミ箱を思い切り蹴る音が鳴り響いた。おっさんの足に生ごみがまとわり付いてるが、全く気にしてないようだ。酔っ払いだしな。
俺も酒に酔えれば、少しはこのストレスも発散出来るかと思うんだけど、あいにく俺はアルコール全般がダメなんだよなあ。てか、今日酒を飲んだら何をしでかすかわからん自信がある。
俺がそんな事を考えながらファミレスの裏を通りかかると、裏口らしき所から、高校生くらいの男女が飛び出してきた。
そしてゴミ箱と俺を交互に見つめる。
「いい年した大人がこんな事するなんて・・・。恥ずかしくないんですか!?」
「いや、ち、違う!俺じゃないよ!」
俺は必死に否定したよ。しかも、俺を睨んでる女の子、かなりの美人さんだった。ただでさえ人生の中でも最悪に近い日だと言うのに、これ以上人生最悪の日を彩り豊かにしないでくれよ・・・。
「ほら!あそこにいる酔っぱらいのおやじ!あの人がゴミ箱を蹴っていったんだよ!」
そう言って、片足がゴミまみれになっているオヤジを必死に指差した。不機嫌なのかご機嫌なのかわからない足取りで、裏通りの方へ歩いて行っている。
「あ、ご、ごめんなさい!」
女の子の方はその事に気付き、すぐに申し訳なさそうな顔になる。が、
バキイッ!!
一緒に出てきた男の子の方にはそれが伝わらなかったようだ。彼は言い訳するな!と叫びながら俺に殴りかかってきた。俺は、ファミレスの玄関前までふっ飛ばされる。付近の通行人が足を止めて何の騒ぎだと集まってきた。
「ちょっと浩也!やめて!人違いだから!」
「はあ?由衣も聞いただろゴミ箱を蹴り上げる音。見ろよこいつ、いかにもそんな事しそうな顔してるじゃん!」
おい!そんな事しそうな顔ってどんな顔だよ!心のなかで抗議しながら、俺は起き上がってファミレスの窓ガラスで自分の顔を映してみた。
そこには、どこに出しても恥ずかしくないくらいなブサメンキモオタが映っており、あーこんあ顔だよな~と自虐気味に考えたりする。
俺は先月、つまり2月に誕生日を迎えたばかりだ。そして彼女いない歴が40年に更新された日でもある。風俗なんか勇気がなくて行ったこともないよ。
こんな高校生でも彼氏や彼女がいるのに俺ときたら、会社をリストラされて迷惑者と間違われて。あー家に帰って早くエロゲがやりたい。エロゲやって、それからどうしようか・・。やばいなあなんか涙出てきた。
「あの、ごめんなさい!私早とちりしちゃって!」
さっきの女の子が近づいて謝りに来た。どうやら男の子の方も誤解がとけたらしく、申し訳無さそうに近づいてくる。
「いいよ、慣れてるし」
思えば子供の頃から何の根拠もないのに色々と俺のせいにされたよな~。そんな事を考えながら空を見上げてると、上空から何かが落下してくるのが見えた。
そこで映像はストップした。