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はるかかなたのエクソダス2 ~夜明けの翼  作者: 風庭悠
第7章:忘れ物は何ですか?-チームメイト奪還編
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第52話:忘れ物を取りに夢の中にまで行ってどうするの?、という話

「それは尊をこの地に携えてきたときのことだよ。」

バラクはそう言って長い脚を組み替えた。


 人類を奴隷から解放する計画「コード;エクソダス」が発動したのは、今から二十数年前にさかのぼる。アマレク人が禁忌である人造奴隷(ホムンクルス)を惑星外にまで輸出し始めたため、これまでアマレク人の支配を黙認していたキングも動かざるを得なかったのだ。


シード」はキングの指示のもと、尊のDNAをもとに作った体に、尊の脳を収め、その体をくだんの「 国立生産技術研究所」の人工子宮に押し込んだのだ。


 すでに、労務者として何人かのスパイをその施設に潜入させていおいたので、施設の状況は手に取るようにわかっていた。まず、システムにキングが介入して、監視体制を麻痺させる。続いてバラクたちが侵入し、二手に分かれる。一方は陽動で、当時極秘に研究されていた魔獣のクローンを破壊するグループと、尊の身体と人造奴隷のものとすり替える本隊グループである。厳重な警備が施されている魔獣の研究室の前で、陽動部隊が交戦している間に、作戦は成功した。


「その時にあなたとすり替えられた躯体がこのなんだ。」

バラクはそう言ってニックを見やった。

「なるほど、そうでしたか。」

尊は納得する。彼女の中性的な印象が生殖機能を有さない人造人間(ホムンクルス)特有の雰囲気に由来することが分かったからだ。


 そして、バラクにはもう一つの使命ミッションがあった。それは将来、尊が覚醒したときにすぐにともに行動できる部隊を作り、育てることであった。また、アマレク人の虐待を受け、逃亡した奴隷たちの受け皿としても機能していた。それが「人類解放戦線」だったのである。


「もう10年にもなる。」

過ぎ去った時間を振り返るかのようにバラクはいった。

ニックを「姪」として育てながらの10年は彼にとってどんな時間だったのだろう。尊は、アマレク人の家庭で育ち、ヌーゼリアル人と家族になる、という自分のこれまた特異な10年間を思い起こしていた。


「私を偽物ではないかと疑わないのですか?」

尊の問いに、

「ぜんぜん。だって私はコードネームのハンニバルしか名乗ってないのに、あなたは私をバラク、と本名で呼んでいたじゃないか。それにベリアルもいるしね。」

さも当然のように答えた。


「時はきました。私は正式に士師ジャッジ、そして代執行人エージェントとして王に任命をうけたのです。」


右手の指輪リングを見せる。

「左手のものは?」

バラクの問いに答えたのはベリアルだった。

「それは結婚指輪エンゲージリングじゃ。」


「そうだったのか。それはおめでとう。そういえばシモン君が自分のことを義弟と言っていたのを失念していたよ。そうか、いよいよ、この俺が神殿に帰る時がきたのか。」

バラクも感慨深げだ。


「しかし、その前に、私は忘れ物を取りにいかねばなりません。それで、バラク、あなたの部下をお貸し願いたいのですが?」


「忘れ物?」

バラクが怪訝そうに尋ねる。」

「ええ、仲間が囚われているのです。無実の罪でね。」

バラクもすぐに理解した。

「そうだったな。収監先の刑務所はどこだったかな?」


「アミメット監獄島です。」

「それはそれは。脱出困難アルカトラズだな。」

バラクも苦笑する。


 アメミットは古代アマレク神話で、罪人の魂魄を食らう怪鳥として描かれている。その名を冠したこの刑務所は、メンフィスから3kmほど沖に離れた無人島に建てられており、深い海とサメの泳ぐ海域にあり、まさに脱獄は困難であった。そこにはおもに凶悪犯罪を犯した囚人が収監されている。


「ニック。ボウマンとコナーズを呼んで来てくれ。やれやれ、ここでまさかの『授業参観』とはな。」

バラクも今回の作戦が、バラクの教導の能力と、部隊の技量を尊が量ろうとしていることを理解していた。


「紹介しよう。副司令官のスティング・ボウマン。そして特殊班隊長のダタン・コナーズだ。」


バラクに紹介された二人の男たちは対照的な容姿だった。スティングは細身で背が高く知的インテリジェンスな 風貌であるのに対して、ダタンはずんぐりむっくりで筋肉質、その目には獣性がみなぎっていた。


尊が立ち上がる。

「こちらがこのたび王により士師ジャッジとして任命された不知火尊=パーシヴァルだ。」

スティングはバラクにと共に神殿から来たシードなのですぐに理解した。

「よろしく、副司令官。」

「こちらこそ士師ジャッジ、私のことはスティングとおよびください。」


「よろしく、コナーズ隊長。」

「おお、よろしく。俺もダタンでいいぜ、ゼロス……いや、尊。」

二人と握手を交わす。スティングは柔らかな『神殿式』の握手、 ダタンはガッチリとした『軍隊式』の握手だった。


「二人には、士師ジャッジの作戦を手伝ってもらうことにした。いいね。」

バラクの命令にスティングはうなずき、ダタンは興味深そうに右眉を上げる。

「作戦を説明する。」

ベリアルが作戦を説明した。


「いきなりあの監獄島アルカトラズ襲撃とは恐れ入ったね。」

感心しきりのダタンであった。

「人選と訓練は君たちに任せる。決行は十日後だ。」

尊は二人ともう一度握手を交わした。


 すでに時間は深夜を過ぎており、二人はへとへとになっていた。用意されたベッドで眠りについたのは明け方になっていた。しかし、なんとか第一の目標はクリアできたのである。




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