第92話:独立の日(インディペンデンス・デイ)
[星暦998年7月4日]
ついにスフィア王国の事実上の再興の日を迎えた。すでに引っ越しの準備は整っていたが、やはり万単位の人間の移動には時間を要したのである。
ヘリオポリスはのちにキャメロットと名を改めることが決まっていたが、その日はアマレクの大統領が、終戦条約にサインをしてからになるだろう。それは真の意味での独立記念日となるのである。
ヘリオポリス奪還の一報があってから、続々と各地で蜂起した地球人種の義勇軍が参加の意思を表明していた。彼らもヘリオポリスを目指したのである。日が経てば経つほど人口は膨れ上がっていくはずである。
「まあ、そうなる前に一戦があるだろうな。」
それは尊もわかっている。だからこそ準備を急がねばならないのだ。今回は神殿から「胤」たちも合流する。彼らがそのまま後方支援担当になってくれるはずである。よって、大幅な組織の改編も必要になる。主な人材は軍事部門に集中するがそれはそれで仕方がない。まあ、小難しい部分や雑務は、キングがすべてやってくれるので問題はない。
また、軍事部門の組織の固定化も必要であった。これから人数が増えていくのだから、彼らを訓練しなければならない。そのためである。また、階級制度も導入され、指揮系統を明確にし、作戦遂行を確実なものにしなければならない。
士師 不知火尊
司令・参謀長 ハンニバル(バラク)・サンダース大佐
副司令・教導総監 スティング・ボウマン中佐
都市防空司令・副参謀長 カレブ・ヨハンソン少佐
都市防御司令・補給総監 ジョシュア・セルバンテス・ラザフォード少佐
宇宙港防御司令・空戦隊長 エリカ・バークスタイン少佐
情報部長・特務隊長 ラザロ・ビスコンティ少佐
艦隊司令・ヌーゼリアル人部隊総監 シモン・エンデヴェール客員提督(ヌーゼリアル軍准将)
これが主な人事である。以下延々と続くのである。責任の所在の明文化は必要であった。ニックは中尉として正式にバラクに副官としてつけられた。アーニャはスフィアの法ではまだ尊の妻ではない。(ヌーゼリアルの法では正式な夫婦である。)そのため、ヌーゼリアル人の客員中佐待遇で軍医総監の役割が与えられた。
尊がもう一つ行わなければならないことがある。それが、聖杯システムの再稼働である。糧食や弾薬を生産する不可欠なものでもあるが、かつて人類を怠惰という罠におとしこんでしまった経歴もあり、尊にとって苦い思いは多い。
「まあ、背に腹は代えられぬ、じゃ。『メシとタマの無い軍隊は勝てぬ』からの。ぬしの祖国が一番骨身にしみたことじゃろうて。」
ベリアルがからかうとも慰めるともとれる言葉を尊にかけた。
皆が見守る中、エンデヴェール家の三人娘が点火式に立ち会った。彼女たちがパネルにタッチすると、一斉に生産ラインが稼働を始める。ギャラリーからは自然と拍手がわきおこった。これから、この生産ラインを担当するのは『戦線』に入っていた女性陣だ。彼女らも神殿で様々な訓練を受け、戦争遂行能力をバックアップしてくれるのだ。
都市の中央にある広場で、尊はそこに集まった仲間たちに訓示を行った。
「みなさん、今日からこの町がわたしたちの家です。今、見えるのは神殿から見えるかりそめの空ではありません。本物の空です。そしてみなさんが踏みしめている大地。それも本物の大地です。
わたしたちは今日、「事実上の」独立を果たしました。これを本当の意味で、つまり法的な意味で独立を果たすためにはこれからも戦いつづけなければなりません。
もちろん、戦うことを望んでいる人は一人もいません。わたしだっていやです。では、死を恐れて奴隷として暮らし続けますか?
奴隷とそうでない人の違いは一つしかありません。それは自分の人生を誰が選ぶかです。ですから今、私はこれからみなさんに二つの道を示します。どちらを選ぶかはみなさんが決めてください。
一つは、このままこの町を去り、奴隷としての暮らしに戻ることです。これはさほど困難を伴いません。きっとアマレク人も喜んで迎え入れてくれることでしょう。ただし、自由はあきらめてください。あなたも、あなたの子孫も奴隷として生き、死ぬだけです。「まあ人生こんなもんだ」、という言葉を残して。
もう一つは、この町にとどまり、私たちとともに戦うことです。これは極めて困難なものであり、苦しみを伴います。そして、何もかも自分たちで立ち、つかみ、歩かなければなりません。しかし、そこには自由があります。無論、その自由とは決して失敗しない、という意味ではありません。それでもわたしたちは進歩への歩みをあきらめません。そしていつか「これが私の人生だ。」という言葉を残すのです。
わたしと私の家族は自由への道を選びます。そして、決して後悔しません。「あの時ああしておけばよかった」、で終わる人生を私は送るつもりはありません。みなさんもそうではありませんか?
だからこそ今日は、独立の日なのです。自分で立ち上がってください。そうすれば皆があなたに手を差し伸べていることに気が付くはずです。わたしたちは独りではありません。ともに手をとりあいましょう。
そのための戦いは間近に迫っています。
一緒につかみとりましょう。わたしたちの自由を、そして、わたしたちの未来を。」
聴衆は隣のものと手を取り合い、両手を高々と掲げ、尊はの訓示に答えた。
ここから、地球人種とアマレク人の戦いの形が大きく変わることになる。奴隷からの解放、そして国家としての独立、それを求めて戦うことになるのだ。
「しかし、『救世主』が戦争に国民を巻き込むのは感心しませんね。」
尊は自嘲気味にベリアルに愚痴をこぼした。
「そうでもなかろう。ぬしの故郷にもおったぞ、『火による浸礼を施す』と言われた者がの。必要なのじゃ、奴隷から人間に生まれ変わる通過儀礼がの。」
ベリアルは目をつむったまま答える。
「ああ、『賽も投げられた』し、『ルビコン川も渡って』しまったよ。」
尊は空を見上げた。どこまでも青い夏の空。隣にいるアーニャが尊の手をぎゅっと握る。
この出発の日を忘れない。その思いをこめて、尊も握り返した。少しだけ、強めに。
これにて第2部完結します。明日から第3部「はるかかなたのエクソダス3~インディペンデンス・デイ」が始まります。ちょっと時間を早め、午後8時の更新を予定しております。これからもどうぞ御贔屓にお願いいたします。あと評価もよろしくお願いします。




