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はるかかなたのエクソダス2 ~夜明けの翼  作者: 風庭悠
第12章:第三の災厄:ブヨが地を襲う
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87話:電脳戦は格ゲー風で

 「やっと到達か。システムを食い荒らしてやるわ。な…なんじゃここは?」

侵入者はメインシステムが部屋になっているのに戸惑いをかくせなかった。

「 もう、ドアくらいノックぐらいしてくださいね。」

尊が茶化したような声をかける。侵入者はまだ状況をつかめずにいる。


「貴様、なんでこんなところにいる。メインシステムはどこだ?」

侵入者は尊に気づいた。

「どこだ、と仰られましても、敵にそれをお尋ねになりますか。しかし、伯爵自らお出ましとは、意外でした。戦闘もご自身でなさるのですね?」

尊は感心とあきれをないまぜにしていった。


「当たり前じゃ。わしもまだまだ現役よ。……って、貴様。まさか。先程の小僧か?」

驚いたことに侵入者はジョルジオ・タハルカ・イノケンティウス伯爵自身だったのだ。

「そうです。先程は失礼いたしました。さて、お尋ねのメインシステムの所在ですが、ここにあります。」


尊が自分の頭を指差す。

「つまり、私を倒さないといけません。まあ、立ち話もなんです。取り敢えず、お茶でものみませんか。」

尊がお茶を勧めた。伯爵は呆気にとられていて、面食らったままの状況が続いた。


「生身の人間に、そんなことができるはずはない。不可能だ。」

伯爵の手にハンマーが現れた。ハンマー、といっても、よくRPGなどに登場する"メイス"のようなデザインである。それを振り回すと、"部屋"の壁を打ち壊し始めた。一方、尊は緑茶をすすりながら、伯爵の挙動を見守っていた。すべての壁を打ち壊すと、今度は都会の下町の裏通りを思わせるようなロケーションに変わっていた。


「何も無いだと?」

失望と苛立ちの混じった低い声で伯爵は唸った。

「今のセット、けっこう気に入っていたのですがね。仕方ありません。」

尊がゆっくりと立ち上がった。ここまで来ると伯爵もようやく状況が飲み込めてきたようだ。

「なるほど。攻撃、防御のアプリケーションを可視化しているわけか。しかも、貴様の中にその全てがあるということであるな。」


伯爵はメイスを上段に構えた。

「望み通り、貴様を倒してそちらの船をいただこう。」


「残念ですが伯爵、この船は借り物でしてね。差し上げるわけには参りません。なにせ、嫁の父親のものですからね。」


「押しとおる!」

 勇ましい掛け声と共に尊に向かって突進すると渾身の打撃を振るう。普段は文字と数字の羅列を武器に戦ってきたのに、体を動かしているような感覚に、伯爵はアドレナリンが脳内に涌き出るような感覚であった。鈍い金属音と共に若干の手応えを感じる。かわされた。いや、ダメージはあるはずだ。


一方、尊は伯爵の渾身の一撃をかわすと、両手に持った細身の短剣で伯爵の甲冑の隙間に突き立てる。

場所は左右入れ替わる。尊の甲冑の一部が砕け散る。また、伯爵の腕から血が吹き出した。


「むう……。」

伯爵は痛みに顔を歪める。しかし、ここで伯爵も気付いた。

「勝ったつもりか? 小僧。これはプログラムの話だ。痛みなど幻想にすぎん。」


 伯爵は今一度メイスを握り直すともう一度尊に対峙した。メイスは形を変え、猟銃のようになる。痛みはキャンセルした様子だ。

「何も貴様の得意なスタイルに合わせることもあるまい。ワシは自分のやりたいように行く!」


「もうばれましたか。さすが柔軟な思考力、お若いですよ。」

尊はお世辞を言いつつ正確に撃たれる弾をよける。しかし、近づきようがない。

「ワシはハンティングも得意なのじゃよ。とくにキツネ狩りが好きでね。」

「それが若さの秘訣ですか?」

「その通りじゃ」

テンションが上がっていく伯爵に感心しながら、尊も手に持っている短剣を銃に変えた。


「2丁拳銃か。」

狙い澄ました伯爵の銃弾が耳元をかすめる。


尊は肝を冷やしながらも反撃する。しかし、まったく当たらない。

「鳩は出ませんよ。」


「尊よ。それはジ●ン・ウーの映画アクション・シーンじゃ。」

ベリアルの突っ込みは確実に当ててくるのだが。


「どこを狙っておる、最近の若いモンは狩りもまともにできんのか?」

伯爵も挑発を繰り返す。

「そりゃ、奴隷ですから。狩り(レジャーハンティング)とは無縁ですよ。」

奴隷は銃すら持てず、主にボウガンを使って"猟"(つまり生活の糧のための)をしているのだ。


「いざ、参る!」

正面から防御しながら伯爵が突進してくる。仕留めに来るつもりか。


本物の銃と違い、仮想空間の銃撃のため、弾込(リロード)めが不要なのが厄介だ。じゃ、こちらもそろそろいきますか。


尊が再びトリガーをひく。

「当たらぬよ。小僧」

笑った伯爵だが、その腕が突如だらりと下に垂れ下がってしまう。驚いた伯爵が確認すると腕から血が流れていた。

「むう。跳弾か……」


痛みにをキャンセルしてもダメージを取り除くことは出来ない。数発の跳弾は威力が下がっているものの、伯爵の腕の力を奪うには十分のダメージであった。立ち尽くす伯爵に尊は銃を構え、ゆっくりと近づく。

「殺すがよい」

潔いのか諦めが早いのか伯爵はどっかりとその場に胡座をかいて座った。


「いいえ。捕虜になっていただきます。」

尊は殺害を否定した。ただし、誇り高い貴族にはかえって逆効果だった。

「虜囚の辱めは受けぬ。それくらいならこの場で果ててやるわい。」

伯爵の前に手榴弾のようなものがあらわれる。尊は瞬時にそれがプログラムの自爆装置ともいえる、「強制初期化」であることに気付いた。こんなものが炸裂でもしようものなら、伯爵は愚か、尊の意識も消去され、ネーヅクジョイヤも航行能力を失って墜落するだろう。


尊が伯爵を強制的にイジェクトしようとプログラムをかけようとした時、後ろの闇の部分が大きく裂ける。驚いた尊がそちらを見ると、大きく口を開いた闇の中からピエロの面を被った男が現れた。


「ご機嫌よう。(パーシヴァル)。今回は引き分けですね、いーひっひ。」


男は気味の悪い笑い声を残しながら伯爵の襟首を掴むと、その破れ目から風のように消え去っていった。


「ドM様か………」

どうやら、モルドレッド・モリアーティはアマレクの国家メインシステムとはズブズブの関係のようだ。


最終的(いずれ)あれとやりあわねばならんのだろうな。」

尊はつぶやいた。そこに、索敵に出ていたカレブとラザロから連絡が入った。


「我、敵旗艦を発見せり」


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