第83話:四枚羽の天使
瞬時に二人の身体が消えると、残像も残さぬ速さで激突を繰り返す。激しい火花が散り、
周囲を飛ぶドローンは次次に巻き込まれ、跡形もなく消え去った。グレッグのドローンも何度か散る火花を確認した時点で通信が途絶した。
「くそッ、何が起こってるんだ?」
記録媒体を回収できるのか、グレッグはそれだけを心配していた。
「速い。」
アモンは予想以上の尊の強さに、手応えを感じていた。アモンも徐々にスピードを上げているが、尊はさらにそれより少し速い値まで上げてくるのだ。無論、彼の機体と互角に戦える相手と遭ったのは初めてである。
これも、あの「蛇おやじ」メヘン・マルクス教授に聞いていなかったら、油断したまま敗れたかもしれない。
「アモンさん。主導権を取り返したいなら、出し惜しみはいけませんね。」
尊に核心を突かれ、アモンは苦笑する。
「確かに、君はもはや奴隷ではなかったな。」
アモンは一旦、構えると、背中からもう一対の光の翼が現れた。「四枚羽」である。
「やはり、智天使でしたか?」
今度は尊を上回るスピードで、攻撃を仕掛けてくる。
「アヌビスだ。」
アモンが名乗る。アマレク伝説の最強兵器。その名前だ。伝説だけに機体は失われているらしい、と言われていたが、戦闘機神や戦闘艦のように大型のもの、というイメージであれば、アヌビスは弱そうに見えるだろう。しかし、先住民の兵器は時代が経つにつれて強力化し、しかも小型化していくのである。
アヌビスの攻撃が次々と尊を襲う。ぎりぎり攻撃を凌いだものの、尊はダメージを受ける。尊の腕の部分から黒い火花が散っている。
「なるほど、こちらもギアをあげましょう。」
尊にももう一対の光の翼が現れる。
「やはりな、貴様も『4枚羽根』か?」
アモンが予想通りだ、というかのうように言う。
「これが『ベリアル』です。かつては『ラファエル』と呼ばれていましたが、ご本人は悪魔の名が『お気に』のようでしてね。」
アモンの口元が笑う。アマレクが、そしてこの辺境の星に宝を求めて移住した先祖が欲した先住民の最高傑作兵器の一つ。こんなところでお目にかかるとは。アモンはアヌビスの主兵器である大鎌を抜いた。
大鎌と杖が激突する。黒い火花と白い火花が明滅する。尊はアモンの大鎌を杖で受けると、そのままアモンんの腹部を杖で撃つ。アモンの腹部からも白い火花が散る。
しかし、予想に反して尊はアモンを制した。
「アモンさん。いけません。ここは止めにしておきましょう。こんなところでこれ以上お互いが本気を出したらこの町は滅びてしまいます。ここはまだあなたの出る幕ではありません。いずれあなたとは決着を付けるとお約束いたします。ですが、今はまだその時ではありません。」
尊の提案に
「貴様、逃げるのか?」
アモンは不服そうである。
「そうではありません。『お預け』だ、ということです。いずれ、あなたと戦うことは避けて通ることはできないからです。しかし、それには相応しい場所、そして時を待たねばなりません。将来、国を背負われる身なれば、それがお判り頂けるのでは?」
尊はアモンの素質にかけた。今ここで戦ってもただの私闘であり、お互いの目的は達することができないからだ。それが解らぬようでは、為政者としての資質に欠けるだろう。
「分かった。今回はそちらの顔を立てよう。いや、わたしも立ててもらっているわけだ。確かに、今回は私の独断だ。たとえ勝っても負けても、何の功にもならない。今度は必ず私が勝つ。この勝負、必ず受けてもらおう。」
アモンはきっと、護衛体技のあの勝負がまだ心に引っかかっているのかもしれない。
そして、憐れみをかけた相手はすでに自分と同等の能力を得ている。
「あなたが賢明な方で助かりました。この勝負、続きは必ずお相手仕ります。その時まで。」
アヌビスを見送った尊も踵を返し、ネーヅクジョイヤへ向かった。
「惜しいことをしたのう。禍根は芽の内に摘んでおかねばならぬというのに。」
ベリアルが口惜しそうに言う。
「これでいいのですよ。私の使命は人類の解放です。アマレクの殲滅ではありません。賢明な敵は無能な味方よりもあてになります。まあ、もしかすると彼も同じことを考えたかもしれませんね。」
ネーヅクジョイヤに戻るとシモンが迎えてくれた。
「なにか収穫はあった?」
「ええ、かなりの手ごたえでしたよ。」
お互いに強すぎる手札を持っていることがわかったのはよかったといえる。
結局、カエルの害は一週の間続いた。水面下で政府が交渉再開を認めたのだろう。突然、カエルが死に絶えたのだ。そこからがまた酷かった。腐敗臭がひどく、大量の屍骸の処分に多くの労力がかかったのだ。
グレッグとマリアンの記事は翌週のメンフィスウイークリーの表紙と、最初の特集に採用された。マリアンがシャッターを押した写真は、杖を斜に構えた尊の姿を正面からとらえたものだった。奇跡的に撮れ、奇跡的に残った写真だったのだ。
「災厄か交渉か(トリックオアトリート)」というテーマを添えて。




