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はるかかなたのエクソダス2 ~夜明けの翼  作者: 風庭悠
第11章:第二の災厄;蛙は地にあふれる
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第81話:カエルの災厄

[星暦998年5月10日]


「第二の災厄」についてテラノイドの通告があったのは2日後であった。


「スフィア王国 国王アーサー・ペンドラゴン43世が代理人、不知火尊が謹んでアマレク連邦スフィア共和国政府に通告申し上げます。テラノイドを奴隷から無条件で解放していただきたい。そうされない場合、第二の災厄が生じるでしょう。カエルが地にあふれることでしょう。ナイル川ははカエルで満ち溢れ、街中の通りを占拠し、あなた方の家の中に、寝室に至るまでです。」


「カエル?」

マリアンは"犯行予告"(通告)を見ながら声を上げてしまった。

「私、カエルが苦手なんですよね。何か、気持ち悪くないですか?」


「そうでもないけど。」

グレッグが興味無さそうに応えた。

「まあ、男と女じゃ違いはあるかもね。」


アマレク人は工業民族であり、大都市を作って住む傾向にある。都市の中心には公園や広場が整備されているが、主に災害時や戦争時の避難場所としてや軍の活動拠点とするためである。植物を愛でるという習慣は、テラノイドが奴隷となってから持ち込まれたものにすぎない。


「子供のころ、部屋にカエルが入り込んで、大騒ぎしたことがあったんですよ。それが、どうしても見つからなくって……。その晩寝ちゃったんだけど。夜中にカエルがあの気味悪い声で鳴き出したんですよ。」


「ゲーコ、ゲコってか?」

「そう、それ。」


当時の気持ちを思い出したのかマリアンは一度ブルッと身体を震わせた。

「そしたら、お義兄ちゃんが……。義兄(あに)が見つけて、窓の外に棄ててくれたんです。その時、初めて尊敬しましたねえ。」


「それは、君にとって良い思い出なのかい?」

グレッグは不思議そうに尋ねた。マリアンがゼロス・マクベインについて語る時はいつも嬉しそうで、淋しそうで、いつも自分を責めているように感じるのだ。


「で、あのゼロスの取り巻きの、あのエリカ嬢からは何かコンタクトはなかったの?」

グレッグは、先日の取材の際にエリカがマリアンの手から差し出された名刺を受け取った結果について尋ねた。マリアンは首を横に振る。

「まだ、ないです。」


「"まだ" ? これから来る可能性は?」

グレッグはたたみかけた。

「といってもまだ二日しかたっていませんよ。まあ、とにかく中立、公平、公正な記事を書き続けます。私にはそれしかできません!そうすれば、いつか、きっと。」

「ああ、そうだな。」


 グレッグはホントのことを伝えるかどうか迷っていた。監督官庁(うえ)から、マリアンの書いた記事が奴隷寄りだ、というクレームを受けていることを編集長(キャップ)から言われていたのだ。しかしグレッグは、ゼロスの義妹がいる以上、テラノイド側と接触して特ダネ(スクープ)をモノにできる、いやしてみせる、と焚き付けているのだ。この際、編集長には中間管理職として立派に板挟みになっていただこう。


無論、編集長も、それくらいのジャーナリストとしての気概は持っていた。


 この(マリアン)は、この件でジャーナリストの端くれとして化けるかもしれない。となると、この一件はそのターニングポイントになるに違いない。消えた義兄の面影を追う、センチメンタルな少女で終わるのか、一人の女性としてそれを乗り越えるのか。


「期待に応えてくれよ……」

グレッグは、資料に目を落としながら呟いた。


 尊の通告は前回とは異なり、一般のニュースとしても放映された。

 交渉の失敗、そして空戦騎士団オグドアッドの一角であったボニファティウス騎士団の敗北。政府としてもボニファティウスとしても、マスコミの前で華々しく敵を捕らえ、もしくは撃破して自分の家名を揚げるつもり、また事態の終息のはず、だったのがすっかりあてが外れてしまったのだ。


これ以上情報を隠蔽して、憶測の錯綜による社会的な不安や混乱をもたらすのは愚策、と判断されたのだ。むしろ、敵を明確にして、その敵に対する憎しみによって国民をまとめあげよう、ということになったのである。


それで、犯行予告(通告)を語る尊の姿に「人類解放戦線」と呼ばれ、スフィア王国国王の代執行人を名乗るテロリスト、地球人種テラノイドの奴隷ゼロス・マクベイン。という説明文が添えられるようになったのである。


 ニュースではカエルと呼ばれる生物についても簡単に説明されていた。つまり、アマレク人社会にカエルという生物自体に関心がないことが見て取れる。


しかし、嫌というほどカエルについて知るようになるのだ。


[星暦998年5月17日]


グレッグは会社(メンフィス・タイムス)から車で20分ほどの住宅に居を構えていた。

「カエル……ねえ。皮肉で使ってんのかねえ。お義兄ちゃんは。」

グレッグはネクタイを締めながら呟いた。


「カエル」というのは、テラノイドの一部の不逞な輩ー人類解放戦線ーがアマレク人を呼ぶのに使っていた用語でもあった。


「あなた……お願いしてた、庭の芝生、まだ刈ってないでしょう?」

妻がキッチンからグレッグにやや非難めいた口調で訊いた。グレッグは意外だった。というのは一昨日の土曜日、朝から芝生の手入れに精を出していたからだ。


「いや……ちゃんとやったよ。何か、へんか?」

グレッグは、半分の疑問、半分の苛立ちを滲ませながら、ダイニングキッチンへ向かった。サッシを開ける乾いた音がする。風とともに異様な生臭さがグレッグの鼻腔を襲った。

「ぎやぁぁあああぁあぁあ。」


妻の絶叫にグレッグは足を早めた。

「どうした!?」

グレッグの目の前には信じられない光景が広がっていた。芝生が波打っていたのである。いや、芝生ではない。カエルだ。夥しいカエルが蠢いている。あまりの多さに重なりあっている。苦し紛れに跳び出すものもあり、壁にもびっしりと、木の枝にも鈴なりのカエルがいて、忌々しいほどの低温で鳴き声をあげている。鼓膜が破れそうなほどだ。


立ち込める臭気が家の中にも流れこんでくる前に、グレッグは慌ててサッシを閉めた。しかし、かなりの数のカエルが僅かの隙に、屋内に侵入したようだ。妻や娘が叫び声をあげている。

「こいつはヘビーだ……」


 グレッグははじめはカエル、と聞いて馬鹿にしていたことを悔いた。彼は蓋付きのペールをとり、トングを使って部屋中に散らばったカエルを拾い集めた。彼は集めたカエルを2階の窓から捨てた。


「おっと、こうしちゃいられない。」

彼の記者魂がむくむくと沸き起こった。


カエルグッズは好きだが、本物は苦手、という女子は多いですよね。

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