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はるかかなたのエクソダス2 ~夜明けの翼  作者: 風庭悠
第10章:第一の災厄;川は血に変わる。
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第77話:初めての痛みと悦び(非エロです)

[星暦998年5月8日]


 彼らがホテルを出ると、中での戦闘を知る由のない、外で待っていた報道陣に再び囲まれる。マスクも解除した4人は堂々と船に帰還したのだ。

「お帰り。どうだった?」

出迎えに搭乗口まで来ていたのはジョシュアだった。エリカが首を横に振る。

「やっぱりね。暴れたの?……少し? ああ、俺も付いて行きたかったなあ。」


一方、ボニファティウス卿は焦りと屈辱で顔色が赤くなったり青くなったりを繰り返していた。モニターで逮捕劇を高みの見物と決め込んでいたものの、ホテルの設備のコントロールが乗っ取られた上、機動隊から集めた精鋭の兵士たちさえ、軽くあしらわれてしまったのだ。彼らに連絡や指示を与えようにも、その無線まで乗っ取られてしまってはお手上げであった。


大統領官邸(アブシンベル)でこの任務に彼は自ら志願したのだ。一網打尽にして見せると豪語した以上、彼らをこのまま帰すことはできなかった。爵位がもっとも低い男爵 でありながら騎士団を担っていたのはひとえに、事案の処理能力の高さからだったが、そのプライドを木っ端微塵に打ち砕かれてしまったのだ。


「ゼロス・マクベイン、絶対に赦さんぞ!」

こめかみに青筋をたて、がなりたてる。

側近が電話を取ると、通信できる状態に戻っていた。


「出番だ。撃墜(おと)してしまって構わん。」

側近の指示を聞いたボニファティウスは哄笑し、テーブルに両手をたたきつけた。そしてゆっくりと顔を挙げながら言う。

「メインディッシュはこれからだ。」


「いいえ、メインディッシュはまだこれからですよ。」

 時を同じくして、尊はボニファティウスと同じ台詞を、ネーヅクジョイヤの艦橋で言った。当然、敵の戦闘艦オシリスが現れるはずである。ボニファティウスとて自らの家名をかけて、こちらを討ちに来るに違いない。それだけの恥辱を先程ボニファティウスに嫌と言うほど味会わせていたからだ。


「12時方向より、巨大潜航物体が当船に接近 !」

突然のアラート音に、レーダー士が声をあげる。その声にはパニックと緊張がみなぎる。

「レーダー士、報告は具体的に ! 」

シモンが指示を飛ばす。

「距離3海里(マイル)、11ノット。深度600……いや、一旦動きをとめています。」

レーダー士が報告を続けた。


戦闘艦オシリスで間違いないな。」

バラクがつぶやく。

「そのようですね。」

尊が相づちをうった。


「総員、第一種戦闘配備!  アストラルバリア展開しつつ、離水準備。機関始動。」

シモンが落ち着いた声で指示を続ける。

「シモン君もすっかり頼もしくなりましたな。」

バラクが褒めた。

「ええ、おかげさまで。本当に助かっていますよ。」

尊も同意する。


「それでは皆さん集まってください。」

尊に呼応して、皆がメインモニター前に終結する。

「これまでアマレク政府が我々に対して高圧的だったのは、この17の騎士団を所有しているからです。バラク、説明を頼みます。」


「これまで、何度となく説明してきた。もう皆も重々承知のことだろう。こいつらははいわゆるOOPARMS(超文明兵器)で、先住民ケルビムが作ったものだ。無論、この船もそうだが。それを彼らが掘り起こし、整備して使っている。貴族たちはこれらの兵器を所有し、整備して国防の要となっている者に与えられた尊称だ。」


今回のボニファティウスウ騎士団は空戦騎士団オグドアッドの一団だ。

「ボニファティウス家の所有するソベクは潜水も可能なタイプだ。輸送を目的とする母艦イシスというよりは、自らが戦う戦闘艦オシリスと見ていいだろう。まあ、あちらさんとしては我々がネーヅクジョイヤ以外の座天使スローンを持っていない、という前提での布陣といえる。恐らく、ネーヅクジョイヤを全力でつぶしにかかるだろう。」


「ソベクの特徴や武装は?」

ラザロが尋ねた。

「恐らく鰐神ソベクの名の通り、形状がワニに似ている、と考えられている。尻尾をつかった打撃があるだろう、と予測される。また、潜航できるため、水中から攻撃が可能な魚雷や、ミサイルを搭載している、と、考えるべきだろう。」


バラクの答えは曖昧だが仕方がない。潜水艦であれば、基地にせよ兵装にせよ機密事項が多く、調べるのも困難だ。尊が付け加えた。


先住民ケルビム知恵アーカイブにも同型の座天使スローンの記録がありますから、恐らく同じ方向性で設計されている、と考えるのが無難です。ですから、今回は、絶対条件として、海の中に引き摺り込まれてしまったら我々の敗北です。むしろ地上にに釣り上げて、そこを叩かなければ勝機はありません。それで、今回はエリカ、エリカの主天使ドミニオン、アスタロットを出しましょう。」


え?という空気がブリッジを包んだ。

「でも、主天使ドミニオンでは体格差がありすぎないか? ソベクはこの船の大きさくらいか、それ以上あるはずと言ってなかったか?」

カレブが口を開いた。


「その通りです。もちろん、エリカ一人では荷が勝ちすぎます。つまり、今回はネーヅクジョイヤとアスタロットの連携が必要なのです。」

「でも、そんなデカぶつを仕留めるような武装がアスタロットにはないわよ。」

エリカが疑問と不満が混じったような声をあげる。


「ああ、なるほど、義兄さんも、アスタロットに乗るということですね?」

発進準備を終えたシモンが、尊に水を向けた。

「アスタロットは複座式で、指揮座がついています。そこから対応するのでしょう?」

「正解です。」

尊はシモンの答えに親指を立てる。


「今回の作戦はそれほど難しいものではありません。ネーヅクジョイヤで相手を押さえつつ陸地へひっぱりあげます。そしてアスタロットで仕留めるのです。アスタロットの真の力を引き出す武装は私が同乗しないと使えないのですよ。」


「で、どんな必殺技なんだ?」

ジョシュアを始め、皆は興味深そうに尊を見つめる。

「そうですね。いや、それはエリカに考えてもらいましょう。格好いいネーミングを期待します。」

尊が少し意地悪そうな目で微笑んだ。


「ちょっと……」

エリカが抗議しかけたところで

「では、エリカ、運転手(ドライバー)をヨロシクお願いしますね。」

尊がエリカに握手を求める。


「えー、なんかいきなり実戦とか、キンチョーしちゃうよ。」

エリカがおどけてみせる。でも本音なのだろう。握った手が微かに震えていた。

「いやあ、初めては痛いんでしょう? あんな大きいのが相手だし。でもきっと、 そのうちだんだん気持ちよくなって……ぶぐぅあ」

ジョシュアが下ネタをかましてエリカの鉄拳制裁を受けた。まあ、緊張はほぐれたかもしれない。


「それは、人それぞれですよ。」

尊がさらっと言ったので皆も笑った。エリカも釣られて笑う。

「では、行きましょう!シモン、お願いします。」

尊の指示にシモンが応じる。


「了解。ネーヅクジョイヤ、発進!」

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