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はるかかなたのエクソダス2 ~夜明けの翼  作者: 風庭悠
第10章:第一の災厄;川は血に変わる。
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第75話:テロリストと呼ばれて

[星暦998年 5月4日]


アマレク政府としては、交渉すると見せかけて幹部連中を逮捕できれば、万事恙無つつがなく事態が収拾できるだろう、と予測していた。それで周到な罠を用意することにしていた。 スフィア側が大統領官邸(アブシンベル)での交渉を求めたのに対し、アマレク側はメンフィス郊外のビーチリゾートにあるシャングリ・ラホテルでの交渉を提示してきた。


まだ春であり、シーズンオフのため人目に着きにくいから、という理由であった。「テロリストとは交渉しない」という原則を表向き保たねばならなかったからでもある、という説明だった。


「罠……だな。」

バラクもすでに看破していた。

「そうなの?」

シモンが尋ねる。

「おそらく私とバラクを逮捕できれば、それだけで組織が壊滅すると踏んでいるのでしょう。」

尊の説明にバラクが頷く。


「第一の災厄でテスタメントのコントロールがこちらにあることが良く解ったのだろう。それまでは、この環境が管理されたものだとは知らなかったようだしな。あちらさんとしてはなんとかこのコントロールを取り返したいのだろうな。それにしてもどんな罠を仕掛けるつもりなんだか。」


バラクは笑いながらぼやく。

「そうですね。ちょっとこれを見てください。くだんのシャングリ・ラホテルの図面です。」

尊がすっと出して来たのでカンファレンスルームの連中は驚いた。

「どこからこんなものを。」

バラクは半ば呆れながら尋ねる。


「アマレクの国家コンピュータ『トート』からいただいたのですよ。」

尊の答えに、

「どうやって?ハッキングでもしたの?」

シモンが尋ねる。


「元々『トート』はアマレク人が、私たちからキング・アーサーのシステムを取り上げて、それを元に構築されたものですよ。当然、私が接続すれば、トートにとって私は敵どころか、大統領より上位の管理者、ということになるんですよ。」

「なるほど。確かにあなたは"円卓の騎士"だ。」

バラクは苦笑した。最深部までつながっているからこそで、誰にも真似ができない芸当であった。


「このホテルは元々アマレク人政府の迎賓館として建てられたものです。ですから仕掛(ギミック)けが沢山あるのですよ。まあ、学生時代の護衛体技ガード・アーツが役に立つとは思いませんでしたが。」

心なしか尊は楽しそうだった。


「今回はあちらが"策士、策に溺れる"、ということになるのか?」

バラクの言葉に、尊は少し首をかしげた。

「そう、行きたいところですが……。今回交渉役のボニファティウス卿ですが、家格は空戦騎士団オグドアッドでこそ末席ですが、優秀な官僚を多く輩出している名門ですからね。そう簡単にいくかどうか?」


「いや、案外上手くいくんじゃないのか。自分が優秀だと思いたいヤツほど他人の優秀さを過小評価するものだからさ。」

ジョシュアが軽口をたたく。


「あとは実戦兵器が投入されるかどうかですが。」

尊の問いにバラクは

「当然、投入されるだろう。最後はどうしても自分で決めたいものだろう。それに、初回だから、どちらのやり方も手探り状態だからな。恐らく基本的(オーソドックス)に行くと思うが。ボニファティウス家の座天使(スローン)は"ソベク"だったな。その資料はないのか。」


「残念ながら。トートは軍事用のものはさすがに完全に隔離されていますね。」

たけるは首をすくめた。

「戦線時代の情報部によれば、かなりでかい機体のようだな。ネーヅクジョイヤと同じかそれ以上はあるだろう。水陸両用で"ワニ"似た姿だといわれている。」

バラクの説明に尊も合わせる。

「地上戦ならいざしらず、水上戦用の天使はこちらも手持ちが少ないですし……。」


打ち合わせは深夜に及んだ。ある意味、彼らにとっては初陣となる。


[星暦998年5月8日]


指定された日に、尊を中心とした人類の代表団はホテル シャングリ・ラに到着した。ネーヅクジョイヤが、ホテルに隣接する桟橋横に着水すると、海水が津波のように桟橋を襲う。警告はしていたのだが、絵面が欲しくて待ち構えていた報道陣は水を被った。グレッグとマリアンも特別に取材クルーに加わっていたが、ホテルの中で待っていたため、無事であった。


 交渉役は尊、そしてバラクの二人だった。護衛にエリカとラザロが付いている。4人ともパワードスーツにマントという先住民が遺した軍服を着用している。


尊は出迎えに出たボニファティウス卿と握手を交わすと、テーブルについた。ボニファティウス卿は神経質そうな小男で、細面に丁寧に整えられた口髭、銀縁眼鏡といった、いかにも能吏のうり、といったいでたちだった。

「タキシードに白い手袋だったら手品師(マジシャン)よね。」

エリカが耳打ちされて尊は噴き出しそうになった。

「シルクハットも必要だと思うが。」

後でラザロが付け加えた時、皆本当に危うかったのである。


 もっとも、そんな態度はおくびにも出すつもりはなかった。しかし、話し合いは、交渉の前段階で終止してしまったのだ。彼らはキング・アーサーを元首(国王)とするスフィア王国を承認しようとしなかったのである。というのは、奴隷(アマレク人の表現では"労務者")契約にサインをしたのはキングどころか、代表権の委任も受けていない人物たちだったのである。


要するに、この契約自体がアマレク人と目先の欲に眩んで同胞を売り飛ばした貴族(ハイランダー)による詐欺だったことが明らかにされたのである。

「ボニファティウス卿、このサインはキングの代理人のものではありませんし、正式な認印(国璽)も押されていません。契約自体が無効なものです。」

契約自体が無効であることを主張する尊たちと、キング・アーサー自体をテラノイドの代表と認めないアマレク人側の主張は平行線に終わった。


  尊たちは即時の無条件で解放すれば、アマレク人側に損害賠償を請求しない、と提示したのに対し、アマレク人側としては、解放しないが待遇の改善は検討する、というものであった。これが現在のお互いのギリギリの条件なのである。


ボニファティウスには、尊たちを苛立たせ、激昂させ、暴力に訴えるよう差し向けることができれば、堂々と逮捕できるという意図がありありと見てとれた。それで尊としても先にキレる、という選択肢はなかった。その分、後ろの護衛がイライラしっぱなしだったが。


「ボニファティウス卿、あなたの立場は解りました。しかし、もうこれ以上の論議は時間の浪費といえるでしょう。とりあえず、我々はお互いに対等な交渉相手、と見なしていただく必要があります。第二の災厄の後、もう一度お会いできるかどうか、そちらでの話し合いをお願いいたします。」


こうして最初の交渉は決裂に終わった。


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