第48話:奴隷居住区(スラム)への潜入。
こんばんは、初めましてのかたも常連の読者様もよろしくお願いします。
明日はお休みですが、第一部の人名を並べた「はなクソ辞典」を投稿します。
GOSENは人類を代表し、その権益を守るための集団であるはずであったが、中身はただの貴族の道楽である。しかも彼らは自分たちのぜいたくな暮らしを維持するために、教会税を同胞たちにかけていた。こうして人類はアマレク人と宗教による二重の搾取の下にあえぐことになる。
それを憂いたのは王であった。キングは人類を救済するため、「指導者」を送ることを決める。「救世主」ではない。強大な救世主によって、何の労苦もなく与えられた自由は、いつしかその価値が軽んじられ、粗末に扱われる。人類がアマレク人の奴隷のくびきに繋がれる前にも、自由を発展のための機会としてではなく、怠惰と堕落の口実としてしまった。
そして、奪われた自由は勝ち取らねばならない。失った機会は買い取らねばならない。ただし、今、その持っているものだけで。富も物資も何もない中で、人類が自由を得るために支払うことのできる対価は、「覚悟」と「血」のみであった。
キングは自分の躯体を収める祠、万神殿に志ある者たちを集め、軍事的な訓練を施してきた。彼らは「胤」と呼ばれ、人類の解放の礎となる人々である。
そして、彼らをまとめ上げる指導者、これも人間である必要があった。なぜなら、自由を勝ちとるのはあくまでも人間でなければならないのだ。
キングが指名したのは「円卓の騎士」とよばれる自らのコアの一つ、パーシヴァル。元は「不知火尊」という少年だった。尊は「胤」によって地上に運ばれ、人工子宮によって体を与えられ、アマレク人の家庭で育てられた。その間、彼の記憶と能力は封印された。人間としての感覚と感情を調整するためである。
しかし、彼の封印は期せずして解け、彼はキングとの接続を求めて東の地へと渡った。彼はそこで人として生活し、さらに人として成長を遂げる。これは、強大すぎる力を与えられた人間に必要なプロセスであった。彼に必要なのは自制心(self-control)であり、自らを制御する術であったのだ。
こうして必要な条件を満たした尊は、人類を解放するための指導者としての役割、士師として任命される。また、アマレク政府と交渉する際には、キングの全権代理、代理人を名乗ることになる。
この物語の第一部では、主に彼の内面の成長と人類の苦境を描くために、あえて主人公本人の視点から語られた。ここからは、主に第三者の視点から描かれることになる。
「もう着きましたか?あっという間ですね。」
尊は独り言のようにつぶやく。メンフィスを逃げるように飛び出した3年前のことはまるで昨日のように思い出せる。
そして、ミーディアンの村まで陸路で延々と2週間もかかったのに、ネーヅクジョイヤではたったの一晩である。
二通りの意味で「あっという間」であった。
「メンフィスの都市図を出してください。」
艦橋で尊はクルーたちを集めて説明をする。首都メンフィス郊外はいくつかに分かれている。海岸である西側はリゾート地域に。北側は工業地域になっている。かつて尊がゼロスとして少年時代を過ごしたマクベイン家は南側に接する住宅地域にあった。
「目標の奴隷居住区は東側にあります。ですから、船はこのポイントに停泊しましょう。」
その地域は灌木の繁る地域であった。ネーヅクジョイヤは巨大な船ではあるが、光学迷彩により隠匿が可能である。
「では、私とシモンで出かけてきます。みなさん留守番をお願いいたします。」
二人は奴隷が着る作業着に着替えると、船に積んであった水素エンジンバイクに二人で乗り込み、荷物搬入用タラップから一気に地面へとかけおりた。
このバイクは、尊が三年前にメンフィスから延々とミーディアンまでともに旅をし、かの地にあっては、キングアーサーとのランデブーポイントを捜しに週末に乗り回していた、歴戦の戦友であった。最初と変わったのはサイドカーがつけられたことだろう。よく、週末を利用して妻のアーニャや、義弟のシモンと連れだって探索したものである。
メンフィスは尊の方が地理に明るいため、ハンドルを握るのは尊のほうであった。
「『戦線』の連中に接触できるかなあ。」
シモンが呟く。「戦線」とは正式には「人類解放戦線(Warfront for Human Freedom)/WHF」であり、地球人種の再独立を目指す民族主義組織である。
「一応、指揮官には王様から連絡が行ってるはずなんですけどね。」
尊は一抹の不安を噛みしめるように答えた。
今回、二人がメンフィスに潜入する目的は3つであった。
①「戦線」の指揮官、ハンニバル・サンダースと会い、合流する。
②護衛体技の元チームメイトであったジョシュア・セルバンテスと合流、冤罪で収監されている3人ののチームメンバーを奪還する。
③「戦線」及びチームメイトの中で希望するメンバーを「万神殿」へ連れていく。
である。
都市の東側は荒涼としており、サボテン科の植物が多い。
「シモン、リュウゼツランですよ、」
尊が指さす。
「オヤジが大好きな木だね。」
シモンが笑う。シモンの父ローレンはこれからとれる葉肉で作った酒が大好物である。
(地球でいうところのテキーラじゃ。ん?わしか?わしはこの惑星の先住民「ケルビム」の知恵をつかさどるアプリ「ベリアル」じゃ。いつもは尊の脳みそに住んでおる。この少女の姿がかわゆい?
であろう?このすがたはの、尊の地球時代の妹、茉莉の姿じゃ。ときおり、ナレーションにも突っ込みや横槍をいれるでの。楽しみにしておれ。)
尊とシモンはバイクに幌をかけ、光学迷彩をかけて隠す。そして、奴隷街区に侵入をはたした。 まあ、出るのは難しいが、入るのはさほど難しくはない。
まずは、戦線の捜索が始まった。
明日はお休みですが、中編、「星歴元年の残照」を投稿します。予定は日曜日と
年末年始で完了予定。6-7話程度です。人類がスフィアに移住したいきさつや、大気中のナノマシンの話などを盛り込む予定です。こちらも御贔屓に。