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はるかかなたのエクソダス2 ~夜明けの翼  作者: 風庭悠
第10章:第一の災厄;川は血に変わる。
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第72話:司令者の杖

新章:「第一の災厄;川は血に変わる。第二の災厄;蛙」が始まります。

[星暦998年 4月20日]


目的のない2年でさえ、過ぎ去るのはあっというまだが、目的のある2年は、まるで翼が生えたように過ぎ去っていった。

今年はスフィア王国がこの惑星に建国されて間も無く1,000年。そしてアマレク人の奴隷となって400年。テラノイドたちが救世主の存在を待ち焦がれるのも、奴隷状態からの救済を待ち望んだとしても少しも不思議ではない。ただ、ここに集まった面々を除いては。


首都メンフィスのほぼ中央を流れるナイル川の支流の一つが、アマレク人の街区と地球人種(テラノイド)の街区を隔てている。奴隷街区との間には一本だけ橋が架けられている。その名はブロンコス橋。その東岸の端に検問所があり、それを見渡すようにビルが建てられている。それが、「地球教会」の本部であり、奴隷の代表者組織であるGOSEN の本部(ヘッドクオーター)ビルである。


GOSEN はスフィア王国時代から、王政の益を享受しながらもそれに抵抗する人々、貴族(ハイランダー)の代表団であった。彼らは地球からの移民宇宙船のクルーやスタッフの直系の子孫であり、静止軌道上にとどまってテラフォーミングをしている間大幅に増築されて巨大な宇宙ステーションとなっていた移民船を降りようとはしなかった人々である。そのため彼らは「高みに住む人々」という意味で自らを『high lander』と名乗っていたのである。 そして彼らのネットワークは「エデン」と呼ばれていた。


王は地上への移民を促進するため、物資の供給システムである「聖杯」を差し止める。その対抗手段として彼らは、地球から運ばれ、人工子宮で育てられた受精卵による人間を地上に降ろし、奴隷にして搾取したのである。その土民(アムハーレツを解放するために前回、600年以上も昔に士師(ジャッジ)として派遣されたのが宝井舜介だったのである。


その後、再起動した聖杯システムを彼らのためにグレードアップさせ、さらに商業惑星国家フェニキアとの貿易を通じて贅沢品を供給していたのがアマレク人である。そして、ついに400年前、貴族たちは自分たちの怠惰で放蕩で贅沢三昧な生活を保証してもらうために人類を奴隷として売り渡してしまったのである。


「神殿から『使者』が来る。」


GOSENの面々は本部ビルの会議室でそれを待っていた。

悪魔(ベリアル)が送り込まれたというのは本当なのか?」

皆少し苛立っている。ベリアルが姿を現したというニュースから5年、人類解放戦線が姿を消してから2年、ようやく神殿からの連絡であった。彼らとしては「釈明」して欲しいところなのだ。


というのも、ベリアルの出現以来、その捜索のため奴隷の動員や捜査が厳しくなり、その批判の矛先は彼らにも向けられたのである。


旧解放戦線の代表であったバラク・サンダースに伴われてきた若い男は"士師(ジャッジ)"と名乗った。

「不知火尊です。」

青年の自己紹介に狭い室内がざわめく。


「あの『大気の権威の支配者』…」

"アーサー王と円卓の騎士"を知る人物であれば不知火尊の名は有名であった。「大気の権威の支配者」(the Ruler of authority of the air )は「テスタメント」を司る尊の二つ名の一つではあったが、決して褒め言葉ではない。とある聖典では悪魔の二つ名の一つであったからである。尊は奴隷たちの代表者である"長老"たちの前でひざまづくと、自分の胸に手を当てて、慇懃に挨拶してみせた。


「ハンニバル、彼は本物なのかね?」

当惑する長老たちはバラクに確認を求める。"長老"といっても役職の名であって文字通り歳をとっているとは限らず、四、五十代の者が多かった。それでも、尊の"見た目"よりは年長であり、尊の資質に疑問を差し挟んでも無理は無かった。


「ええ、本物ですよ。正真正銘のね。」

バラクは尊に合図をおくる。そして、 尊は部屋の一番奥にある台座に近づくと突き立てある宝剣に手をかけた。


皆が息を飲んで見つめる中、彼はゆっくりとそれを引き抜いた。宝剣は形と長さを変えると羊飼いの使うような長い杖に姿を変えた。


驚きの声がささやきとなって漏れる。


司令者(ロッドオブコマンダー)というわけかね。」

「ええ、ご存知でしたか。皆さんもご存知の通り、この『証』を手にするものこそ、王国を代表するものであることのしるしです。それでは、こちらをご覧ください。」

尊が杖を床に軽くつく。杖を中心に光が輪を描き魔法陣のような紋様を刻む。


お馴染みの金色の甲冑に赤いマントを羽織ったキング・アーサーが現れる。

「これはオンラインです。」

尊の言葉に長老たちがひざまづく。


「あ、皆、楽にしてもらいたい。」

キング・アーサーは切り出す。

「これまで皆が人類のために尽くしてくれたこと、本当に感謝している。」

長老たちは頭を垂れた。


「この度、余は人類の救済のため、士師(ジャッジ)として、ここに居る不知火尊を正式に任命した。彼は建国前からの私の盟友であり、善きパートナーの一人である。皆で彼を全面的に支持し、その言葉に従い、その意思を尊重して欲しい。彼は余の代理人(エージェント)である。」


アーサーは語り終えると、再び魔法陣へとその姿を消した。それでも彼らは未だ半信半疑のようであった。というよりは信じたくない、というのが本音であろう。尊が口を開く。


「皆さんが疑問に思われるのも仕方がないことです。というのも、これまで400年近くの間、人類はアマレク人によって搾取されるに任されていました。


 このたび王と我々円卓の騎士は、人類が再び自分たちの足で立ち、自由を勝ち取るための機会を開くことにしました。これから私は国王の全権代理人としてアマレク人と交渉します。交渉に伴い、皆さんにはかなりの圧力と脅しがかけられるでしょう。


 ですから、私は皆さんに選んでもらいたいのです。たとえ困難があっても自立の道を選ぶか、安寧のうちに奴隷として暮らして行くかをです。」


沈黙が場を支配する。


委員の一人が口を開いた。

「我々(GOSEN)はこれまで人類を代表し、アマレク人との交渉の窓口となって来たのだ。その我々の意見を聞くつもりはないのかね?」


「伺いましょう。」

しかし、彼らの意見はこれまでとあまり変わらなかった。徐々に待遇の改善を要請して行く、という言わば「現実的」なものだったのである。彼らの任命権はアマレク政府にあったため、それ以上の行動が取れなかったのである。


「皆さんの心積もりは理解しました。反映できる限りは配慮いたしましょう。皆さんのこれまでのご苦労には感謝申し上げます。」

ゴシェンとの会合を後にした尊は彼らの中には見るべき人材がいない、という結論に達した。結局、アマレク政府との初回の交渉は尊とバラクの二人ですることに決めたのである。


「しかし、二人とも"お尋ね者"なわけだ……。彼らが、特に大統領が面会に応じるだろうか。」

バラクの心配ももっともだった。

「バラク、始めのうちは、必ずしも交渉相手が大統領である必要性はありません。ある程度の政府高官であればことたります。いずれ、早急な判断が必要になれば、クレメンス氏が自ら出馬してくることでしょう。どちらかと言えば、マスコミを相手にすることになるでしょう。」


尊は国王アーサー・ペンドラゴン43世の名義で、テラノイド奴隷解放の交渉を申し込む旨の親書を、大統領官邸並びにマスコミ各社に宛てて送付した。


次回、久しぶりのマリアン登場。義妹の成長やいかに?

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