第68話:マニュアルだけで「こいつ…動くぞ」とはいかない話
[星歴997年 4月20日]
「訓練といっても、あまり護衛体技の時と代わり映えしないな。」
あるとき、尊がチームの仲間と食事を摂っていると、カレブがそう切り出した。
惑星スフィアでの戦争は、「天使」というパワードスーツを使うのが習わしである。これは先住民の遺産の一つである。全身を覆うパワードスーツによって戦い、それが壊れると「戦死判定」がくだされ、2年間スーツの装着ができなくなるのである。これによって、中の人間が死ぬまで戦わないで済むのだ。ただし、そう双方が合意する必要がある。
「まあ、こちらもあちらも同じものを使いますからね。結局最後は中身の差になりますから。」
尊は苦笑する。正確にいうと、もともと地球人種が使っていたものをアマレク人が接収したのだ。
「人類は怠惰になって、国防のすべてをアマレク人に丸投げしてしまったからでしょう?」
エリカが確認する。
「そうですね。平和や自由はただだと思っていると痛い目を見る典型例となってしまったわけですが。
まあ、それは長くなるので置いておいて、このパワードスーツが天使と呼ばれるには理由があります。」
「階級があるからだろ。」
ラザロが答える。
「その通りです。みなさんが個人的に練習用として与えられているのが一般用の天使です。これは戦闘でも使用される本物です。」
さらに
大天使。天使に飛行機能がついたもの。
権天使。大型の陸戦天使。アマレク人の戦闘機神に相当。
能天使。大型の空戦天使。アマレク人の戦闘機竜に相当。
力天使。性能を一点に特化した特殊戦機体。
主天使。指揮官機。指揮官が操縦士と共に搭乗して指揮を取るため複座式になっている。
座天使。戦闘艦。ネーヅクジョイヤはこれをVIP用に換装したもの。
となっている。
「ねえ、そうすると智天使や熾天使も存在することになるけど見たことないな。」
ジョシュアが疑問を呈した。
「ええ、そこらへんは最高機密ですからね。ところで、王は皆さんに特別な機体を割り当てることを決定しました。」
「え?」
皆の顔が期待で高まる。
「午後は皆さんを案内します。昼休みが終わったら、第一格納庫前に集合してくだい。」
皆盛り上がる。
「専用機かあ。なあゼロス、赤く塗っていい?角つけていい?」
ジョシュアがはしゃぐ。
「構いませんが。でも、それで3倍速くはなりませんよ。」
「まあ、乞うご期待、ってとこだな。……機体だけに。」
ラザロがオチをつけたつもりだったが、皆に総スルーされていた。
第一格納庫からエレベーターでかなり深く降りていくと、特別な格納庫があった。今度の任務で使用される兵装を急ピッチで点検整備している場所である。かなり天井は高く、40mはあるだろう。中間くらいの高さの壁面にぐるっと手すりのついた遊歩道のようなものがめぐらされており、作業の様子を視察できるようになっている。
そこを歩いていくと青い機体が目についた。高さは20mほどあろうか。
「これはカレブの機体です。主天使で仮称はマルバスと呼ばれています。装甲は厚く、主に剣による近接戦闘を得意とします。これがあなたの相棒になるのです。」
初めて見る機体に緊張しているのか、カレブの顔は強張っている。
「操縦形式は天使と一緒です。整備士の方たちから説明を受けてください。」
カレブを置いて先に進む。ジョシュアは何度か振り返り、
「かっこいいな。」
を繰り返していた。
「王は皆さんの1年間の訓練データをもとに、皆さんに合う機体を用意してますから。」
さらに進むと、黒い機体が見える。今度は10mほどの中型の機体である。さらに背には背丈を少し超えるほどのライフルを装着していることである。
「これがラザロの機体、力天使で、仮称はグラーシャ・ラボラスです。特に、狙撃、偵察に向いた中型の機体で前任者は『ニンジャ』と名付けていました。」
ラザロはいたく気に入ったようだ。
「まさに……。」
「『期待どおりだ』、だろ。」
せっかく言いかけたセリフをジョシュアに言われて残念そうである。でも、嬉しそうに整備士たちの説明を受けていた。
「好きな名前をつけて良いの?」
エリカが尋ねる。
「ええ、常識の範囲ならどれでも結構ですよ。仮称は型番みたいなものです。ただ、ラノベのように長い名前をつけると、管制は勝手に略称を決めますから気をつけてくださいね。」
エリカはぶつぶつ言いながら指を折って何かを数えている。何か思い入れのある名前でもあるのだろう。
ジョシュアが不安がる。
「なあ、俺の機体黄色ってことはないよな。なんか俺最近黄色的ポジションな気がして……。」
「ひょうきんで、カレーが好きで、太っちょで、というあの伝説の『黄色』のことですか?」
尊は笑いをこらえながら訊く。そうか、少しは自覚があるらしい。ただ、ジョシュアはデブではない。
「あれですよ。」
尊が指さした方向に白銀色の機体がある。ジョシュアは駆け足でそこに向かった。
「ジョシュア、慌てなくても逃げないよ。」
エリカがからかった。
「主天使の仮称はマルコシアスです。機体のフォルムは狼を模したもので、トリッキーな戦闘スタイルのジョシュアにはぴったりですね。近接戦闘から遠距離攻撃までこなすユーティリティタイプです。ちなみに色は簡単に変えられますよ。ナノマシン塗装ですからね。」
尊が整備士にお願いをすると、機体はみるみる赤に染まった。
「どの機体も光学迷彩を施せますから、基本的に色は自由ですよ。」
ジョシュアは大喜びだ。
「子供ねえ。」
エリカがあきれたように言う。
「で、角は?」
ジョシュアの注文に尊は苦笑しながら、
「それは整備士と相談してくださいね。」
最後はエリカだ。
「オチ……とかないよね?」
エリカも心配そうだ。
「最後にめちゃめちゃごっついのとか、ないよね?」
「『ごつい』『オチ』ですか?」
「ほら、ガ●キャノンからのガ●タンクみたいな。」
エリカがまた言ってはいけない言葉をいう。リ●ウさんやハ●トさんに謝れ。
「これならどうですか?」
尊が指さしたのはカレブやジョシュアの機体よりやや小ぶりな機体だ。曲線を多用した優美な形で、翡翠色にややビビッドなピンクの縁取りがしてある。
「きゃー、すごいかわいい!」
先ほどジョシュアに言った自分の言葉がブーメランになって額に刺さるほどのエリカの喜びように、尊は苦笑する。
「主天使、仮称はアスタロットです。特に飛行性能を活かした空中戦を得意とします。歴代パイロットは女性が多いですね。ある方は『天空の魔女』という二つ名で呼ばれてました。案外エリカもそう呼ばれるようになるかもしれないですね。」
尊の話もどうやら上の空のようで、尊が進めると整備士たちのところにまさに「飛んで」いった。
これから1年、実機を使った訓練を含め、さらに牙を研がねばならない。その時間は長く、そして短い。




